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プロフィール

吉田 康彦

吉田 康彦

1936年東京生まれ
埼玉県立浦和高校卒
東京大学文学部卒
NHK記者となり、ジュネーヴ支局長、国際局報道部次長などを歴任

1982年国連職員に転じ、ニューヨーク、ジュネーヴ、ウィーンに10年間勤務

1986−89年
IAEA (国際原子力機関)広報部長

1993−2001年
埼玉大学教授
(国際関係論担当)
2001-2006年
大阪経済法科大学教授
(平和学・現代アジア論担当)

現在、
同大学アジア太平洋研究センター客員教授

核・エネルギー問題情報センター常任理事
(『NERIC NEWS』 編集長)

NPO法人「放射線教育フォーラム」顧問

「21世紀政策構想フォーラム」共同代表
(『ポリシーフォーラム』編集長)

「北朝鮮人道支援の会」代表

「自主・平和・民主のための国民連合・東京」世話人

日朝国交正常化全国連絡会顧問

学歴・職歴

北朝鮮人道支援の会

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外交・安保
TOP > 外交・安保 > 麻生外相の「自由と繁栄の弧」に疑問あり

2007年3月27日

麻生外相の「自由と繁栄の弧」に疑問あり

 麻生太郎外相が日本外交の新基軸としてユーラシア大陸の外周部の国ぐにを包括した「自由と繁栄の弧」を唱えている。

 過日、日本国際フォーラム設立20周年記念夕食会の席上、外相自身の口からこの構想の説明を聞いた。岡崎久彦氏が早速、「麻生構想には理念と哲学がある」と称賛していたが、私は疑問を禁じえなかった。以下、説明する。

 麻生氏によると、北欧5カ国からバルト3国、NATO(北大西洋条約機構)やEU(欧州連合)に加盟したチェコ、ポーランド、ハンガリーなどの中欧・東欧諸国、グルジア、ウクライナ、アゼルバイジャン、モルドバなどの旧ソ連諸国、中央アジア5カ国、さらにトルコからイラク、インドを含む南アジア諸国、 ASEAN(東南アジア諸国連合)諸国、そして最後に朝鮮半島からモンゴルまで、ユーラシア大陸外周の国ぐにと民主主義と市場経済の道をともに歩み、それによって日本外交の地平を広げるのが目的で、そのために「対話」をし、「人造り」に協力するのだという。

 麻生氏はさらにいう。「東アジアと太平洋諸国のGDP(国内総生産)を一切合切あわせても日本経済の67%にしかならない。それに南アジアを上乗せしても89%で、日本の規模に達しない」「このように経済規模の大きい日本としては自由と繁栄をあと押ししていく責務がある」と麻生氏は胸を張った。

 ここでホンネが出たが、私の疑問の第一は、日本の経済的優位はあと十数年しか続かず、2020年には中国に、30年代にはインドに追い越される趨勢にある。先行きの短い経済大国にさほどの求心力が残っているとは思われない。やがて日本は「弧」に埋没する運命にある。

 疑問の第二は日米同盟のしがらみだ。数年前、ブッシュ米政権がほぼ同地域を紛争とテロの温床として「不安定の弧」と呼んで、「テロとの戦い」に勝利し、併せて大量破壊兵器の拡散を阻止する構想を打ち出し、これを米軍再編の大義名分にしたが、麻生構想はその経済版にすぎないのではないかということだ。軍事作戦を米国に任せ、経済社会開発を日本が引き受けるという役割分担だとしたら、日米合作の世界支配戦略と誤解され、かえって不信感を招くことになる。

 何よりも自戒を要するのは、この構想に中国とロシアが含まれておらず、むしろこの両国の影響力を削ぎ、これに対抗しようとしている思わくがちらつく。中ロ両国を包囲する新ユーラシア連合ともいうべき性格が強い。これでは相手国の警戒心を強めるばかりだ。

 中国脅威論が高まる中で、米国を後ろ盾にして対抗軸を構築するのは得策ではない。麻生氏は「東アジア共同体」の前途にはほとんど触れず、もはや日本外交の基軸ではなくなったようだ。

 橋本内閣の当時、日本は「ユーラシア外交」を標榜したことがある。これは対ロシア外交の強化だったが、北方領土返還の展望が生まれず、掛け声倒れに終わった。その都度ことばに目新しさが加わるが、実態は対米追随外交のカムフラージにすぎない。

 疑問の第三は、ユーラシアにこだわりすぎて、アフリカと中南米がすっぽり抜け落ちていることだ。とくに53カ国を擁するアフリカは国連における大票田で、日本の安保理常任理入りには不可欠の存在で、経済社会開発はもとより、日本が力を入れようとしている平和構築の舞台として重要な国ぐにばかりだ。「自由と繁栄」は必ずしも「弧」を形成する必要はない。日本外交の地平を広げるなら全方位で、グローバルな規模で行うべきだ。

 そのために存在するのが国連であり、安保理常任理入りこそその手段ではないのか。身近なところからというなら、日中友好を基礎とした「東アジア共同体」、グローバルな規模でというなら「国連改革」、この二つこそが日本外交の強化であり、地平の広がりであるべきだと私は考える。

【『電気新聞』2007年3月27日付「時評」ウェーブ欄】

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