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プロフィール

吉田 康彦

吉田 康彦

1936年東京生まれ
埼玉県立浦和高校卒
東京大学文学部卒
NHK記者となり、ジュネーヴ支局長、国際局報道部次長などを歴任

1982年国連職員に転じ、ニューヨーク、ジュネーヴ、ウィーンに10年間勤務

1986−89年
IAEA (国際原子力機関)広報部長

1993−2001年
埼玉大学教授
(国際関係論担当)
2001-2006年
大阪経済法科大学教授
(平和学・現代アジア論担当)

現在、
同大学アジア太平洋研究センター客員教授

核・エネルギー問題情報センター常任理事
(『NERIC NEWS』 編集長)

NPO法人「放射線教育フォーラム」顧問

「21世紀政策構想フォーラム」共同代表
(『ポリシーフォーラム』編集長)

「北朝鮮人道支援の会」代表

「自主・平和・民主のための国民連合・東京」世話人

日朝国交正常化全国連絡会顧問

学歴・職歴

北朝鮮人道支援の会

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外交・安保
TOP > 外交・安保 > オバマ政権の核政策と朝鮮半島非核化の展望 ≪「マスコミ市民」4月号≫

2009年4月01日

オバマ政権の核政策と朝鮮半島非核化の展望 ≪「マスコミ市民」4月号≫

前途多難なオバマ政権の船出

 

オバマ政権のハネムーン(蜜月)の100日がまもなくやってくる。その間は野党もメディアも批判を控え、新政権のスタートを温かく見守るというのが米政界の慣行になっているが、一部にはすでに失望の声が出ている。イラクから16カ月以内の米軍全面撤退を公約していたが、国防総省の抵抗で18カ月に延び、しかも14万のうち最大5万人規模の部隊を残すことになった。イラク駐留兵力削減の分をアフガニスタンに振り向ける方針だが、現地情勢は泥沼の様相を呈している。

 

核問題では、「核なき世界」を目ざすという公約は大幅後退し、就任演説では「核の脅威を減らしたい」と述べるにとどまった。オバマ政権下で核廃絶が実現する、少なくとも核廃絶に向けてのロードマップができるのではないかという期待は完全に消えた。選挙期間中は、どの候補者も大風呂敷を広げて理想を語るものだが、オバマに対しては国際社会全体の期待が強かっただけに、今後反動も大きいに違いない。

 

オバマ政権の緊急課題はいうまでもなく国内の景気対策だ。向こう2年間に7870億ドルの財政支出を決め、300万人の雇用創出をもくろんでいるが、実効性に疑問をさしはさむ専門家が多い。太陽光・風力などの再生可能エネルギーに対する公共投資を柱とする「グリーン・ニューディール」政策が目玉だが、米国が誇る世界最大の自動車メーカーGMすらもが倒産の危機にあり、金融不況の沼は底なしの感がある。今後4年間に米国経済が上向かなければ、外交でいかに成果をあげてもオバマ再選の目はないだろう。

 

米ロ核軍縮進展のきざし

 

外交では、いまのところ米ロ関係好転だけが明るい材料だ。ブッシュ政権8年間にNATO(北大西洋条約機構)の東方拡大、グルジア干渉、ポーランドへのMD(ミサイル防衛網)配備などで米ロ関係は悪化したが、オバマ政権発足とともに核弾頭削減で突破口が開かれた。クリントン国務長官とラブロフ・ロシア外相が3月6日ジュネーヴで会談、今年12月で期限の切れるSTART-1(第一次戦略兵器削減条約)に代わる新条約締結のための交渉開始で合意した。

 

これは、来年5月のNPT(核不拡散条約)再検討会議で非核保有国から噴出すると予想される核軍縮停滞に対する不満を抑え込み、あらたな核拡散の芽を摘み取ろうとするものだ。

 

ブッシュ前政権は、テロ対策の延長上で核拡散阻止にのみ力点をおき、CTBT(包括的核実験禁止条約)の批准を拒否、それどころか実戦用の小型核弾頭の研究開発に乗り出すなど、核軍縮に逆行する政策をとっていただけに歓迎してよい。

 

米ロ両国だけでいまだに約1万発の核弾頭を配備しているのが現状であり、それではいくら核拡散阻止を呼びかけても、非核保有国はもとより、他の核保有国も交渉のテーブルに就く気にはならない。英仏中はじめ印パ・イスラエルが保有する核弾頭はせいぜい200−300発以下であり、米ロ両国は2ケタ多いのだ。

 

両国は1993年に「モスクワ条約」に署名、双方の戦略核を1700−2200発にまで削減することで一度は合意していたのだが、検証方法で合意できず、その後の関係悪化で放置してきた。オバマ政権の課題は、削減目標をこれよりも低いレベルに設定し、検証をともなう条約にロシアを引き込むことにある。そうしなければ来年のNPT再検討会議の進展もおぼつかない。

 

イランのウラン濃縮は対米国交正常化で解決

 

国連安保理決議による再三の中止要請にもかかわらず、イランは中部ナタンツにおけるウラン濃縮を続けている。現状は(原子炉級の)低濃縮ではあるが、イラン当局によると、年末までに遠心分離器を1万基にまで増やす計画とされ、そうなれば今後毎年核弾頭1個分の高濃縮ウランが備蓄される計算になる。イランは「平和利用」と称しているが、国内に稼働中の軽水炉はなく、ロシアの援助で南部に完成したブシェール原発も、年末に予定されている稼働開始に際してはロシアが燃料を提供する契約になっており、自前のウラン濃縮の必然性はなく、ウラン型核弾頭製造が目的と解釈されても仕方ない。

 

核開発の動機を分類すると、(1)実戦用核兵器保有 (2)対抗手段としての抑止力 (3)ステータスシンボル(国威発揚) (4)ナショナリズムの高揚 (5)対米交渉のカードの5段階がある。イランの場合は、(3)(4)(5)があてはまるが、注目すべきは対米交渉のカードという点だ。

 

イランはイスラム原理主義革命いらい過去30年、米国と断交状態にあり、経済・金融制裁を受け、代表的な産油国でありながら人民の生活は苦しい。人口7000万、中東の大国を自認しながら、一人あたりの国民所得は3000ドル、貧富の差が大きい。保守強硬派のアフマディネジャド政権は人民の不満を外敵に振り向け、「核」でナショナリズムを煽る政策をとっているが、本音は対米関係改善、国交回復にある。

 

その意味で6月の大統領選挙に出馬を表明しているムサビ元首相ら穏健派・対話推進派の候補が当選すれば一気に空気が変わり、オバマ政権にとって追い風になる。米国との国交正常化が実現すれば、(5)が消滅、あとの(3)と(4)も動機として弱まるので、ウラン濃縮を完全に放棄しないまでも、IAEA(国際原子力機関)の査察下において透明性を高めることでは協力するであろう。

 

朝鮮半島非核化の課題

 

われわれの関心は朝鮮半島にあるが、オバマ政権の対応は遅れている。北朝鮮の「人工衛星」打ち上げ(日米韓は”ミサイル“に固執)による“威嚇”も金正日の苛立ちの意思表示だ。

 

オバマは選挙運動中、「直接対話して外交的解決をはかる」と公約していたが、就任後は、景気対策、パレスチナ、イラク、イラン、アフガニスタンを優先したため朝鮮半島はあと回しになった。その結果、スティーヴン・ボズワース元駐韓大使を「特使」に任命しただけで、まだ関係国との意見調整の段階にある。もとより、いかなる政権下にあっても米国の最大の関心事は核拡散阻止にあり、朝鮮半島非核化は絶対に譲れない目標だが、北朝鮮はその後、見返りのハードルを引き上げており、前途多難である。

 

その間、北は核保有を既成事実化して「核保有国」を自認、韓国の李明博大統領を“民族の逆徒”と呼んで敵視し、南北関係の緊張を高めて、朝鮮半島に残る冷戦構造を米朝直接交渉で一気に解消しようと目論んでいる。核・ミサイルはそのための対米交渉における切り札なのだ。朝鮮戦争(1950−53)は半世紀以上を経ていまだに休戦状態にあるが、休戦は国際法上戦争状態を意味する。北の狙いは米朝平和条約の締結による米朝国交正常化にある。在韓米軍の完全撤退も要求するだろう。

 

北の要求は当然である。歴代米政権が北朝鮮を承認せず、平和条約締結を拒否してきたのは、東アジアに“脅威”のタネを残して緊張状態を温存し、在日米軍基地を維持することにあった。北朝鮮を「悪の枢軸」と名指しし、「テロ支援国家」と指定し続けたのは、そのために口実にすぎない。米国は、米ソ冷戦期にはいかなる軍事独裁政権とも手を結び、対ソ戦略に利用してきたことを忘れてはならない。

 

どうする日朝国交正常化

 

「拉致問題の解決なくして国交正常化なし」が日本政府の公式見解であり、日朝関係は完全な膠着状態にある。拉致問題に“解決”はあり得ない。日本政府が求める“解決”とは、(1)拉致被害者全員の生還 (2)実行犯の引き渡し (3)(国家犯罪としての)拉致の全容の解明、にあるからだ。

 

(1)は日本政府認定の被害者17人のうち、北当局が「死亡」と発表している8人を「生き返らせて返せ」と要求しているに等しく、(2)は非現実的、(3)は金正日体制そのものを否認するに等しい。脱北者の証言などから、拉致は金正日総書記の指令なくしてあり得ないことが明らかにされているからだ。

 

2002年9月の小泉訪朝、「日朝平壌宣言」署名は、対米追随に終始してきた日本外交にとって画期的な“快挙”だった。ニューヨークタイムズ紙は「戦後一貫して米国の忠実な下僕(しもべ)だった日本が初めて自主外交の第一歩を印した」と拍手喝采した。

 

ところが、ネオコン主導で金正日体制封じ込めを狙っていた1期目のブッシュ政権にとっては、日本の自主外交は危険な兆候に映った。東アジアにおける米国の覇権追及の邪魔になるからだ。あわてたブッシュ政権は北朝鮮のウラン濃縮疑惑を暴露して日朝国交正常化阻止に動いた。02年10月のケリー国務次官補(当時)訪朝がそれである。しかしその必要はなかった。金正日が拉致を認め、“謝罪”したことが逆効果になり、日本の世論が激昂、国交正常化の歩みは完全に止まってしまった。

 

その状況が7年間つづいている。メディアが完全に被害者家族の側に立ち、拉致問題“解決”の大合唱に加担しているところに今日の日本の滑稽な姿がある。もとより被害者家族は同情に値するが、彼らは、金正日体制打倒を叫び、日朝国交正常化を先延ばししようという右翼勢力に利用されているにすぎないことを知るべきだ。

【大阪経済法科大学アジア太平洋研究センター客員教授】

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