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プロフィール

吉田 康彦

吉田 康彦

1936年東京生まれ
埼玉県立浦和高校卒
東京大学文学部卒
NHK記者となり、ジュネーヴ支局長、国際局報道部次長などを歴任

1982年国連職員に転じ、ニューヨーク、ジュネーヴ、ウィーンに10年間勤務

1986−89年
IAEA (国際原子力機関)広報部長

1993−2001年
埼玉大学教授
(国際関係論担当)
2001-2006年
大阪経済法科大学教授
(平和学・現代アジア論担当)

現在、
同大学アジア太平洋研究センター客員教授

核・エネルギー問題情報センター常任理事
(『NERIC NEWS』 編集長)

NPO法人「放射線教育フォーラム」顧問

「21世紀政策構想フォーラム」共同代表
(『ポリシーフォーラム』編集長)

「北朝鮮人道支援の会」代表

「自主・平和・民主のための国民連合・東京」世話人

日朝国交正常化全国連絡会顧問

学歴・職歴

北朝鮮人道支援の会

  • 設立宣言
  • 活動実績
  • 入会申込書
  • 代表・役員
  • ニューズレター

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外交・安保
TOP > 外交・安保 > 華麗なデビュー飾った鳩山外交、ただし懸案は先送り <世界日報>

2009年10月10日

華麗なデビュー飾った鳩山外交、ただし懸案は先送り <世界日報>

              

 

喝采を受けた温暖化対策 

就任早々に繰り広げられた鳩山首相の二国間・多国間外交は日本の政権交代を世界に強く印象づけた。

 とりわけ注目されたのは、9月22日、国連主催の気候変動サミットにおける「2020年までに温室効果ガス25%削減」という中期目標の設定だった。「1990年比で25%」というのは、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)が勧告している最低限の削減目標だが、各国とも国内経済への悪影響を考慮して踏み切れず、麻生前政権は「2005年比で15%」とするのが精一杯だった。この数字は1990年比では8%にすぎず、鳩山提案は前政権の3倍以上の削減目標を掲げたことになる。

 経産省試算によると、この目標を達成するためには太陽光発電を現在の55倍に増やし、クルマはすべて電気自動車か燃料電池車に転換するなどの強制措置を必要とするというのだが、鳩山首相は同時に、「すべての主要排出国参加の下に削減目標の合意が成立することが日本のこの約束履行の前提となる」と述べ、あらかじめ逃げ道も作っている。ポスト京都(2012年以降)の枠組みづくりで、京都議定書不参加の米国、中国、インドなどの主要排出国が足並みを揃えるのでなければ、日本だけが独り相撲をとることになるからだ。

 いずれにせよ、この“鳩山イニシアチヴ”は日本が初めて他国にさきがけて打ち出した国際公約となった。日本は従来、欧米主導の国際合意を押しつけられることが多かっただけに、鳩山首相はそれだけで存在感を示した。

 

「核なき世界」をめぐる合意は中途半端

  このあと国連安保理はオバマ米大統領が議長となって首脳会合を開き、「核兵器のない世界」実現に向けて努力する決意表明の決議案を全会一致で採択した。決議案は、米ロのさらなる核削減、CTBT(包括的核実験禁止条約)早期発効、非核兵器地帯の拡大、対北朝鮮・イラン制裁決議の履行などを謳っているが、同時に原子力平和利用の権利も確認し、原子力発電のための核燃料供給のための多国間の取り組みなども推奨し、平和利用と軍事転用の線引きの難しさも認めた形のものとなった。

 「核兵器のない世界」実現は、オバマ大統領の5月のプラハ演説以来、世界に希望をもたらす動きとしてにわかに説得力をもってきたが、オバマは同時に、「地球上に核兵器が存在する限り、米国から核廃棄はしない」「同盟国に対する核抑止の約束は守る」「私の存命中に核廃絶は不可能だろう」とも述べており、理想は理想、現実は現実という割り切った発言になっている。米大統領が核廃絶を明言しただけでも画期的だが、前途多難、前途遼遠なのだ。

 たとえば米ロ両国が保有している核弾頭はまだ1万発近くあるし、1996年に締結されたCTBTの署名国は150カ国に達しているものの、発効に必要な44カ国の批准にはほど遠い。世界にはNPT(核不拡散条約)公認の「核兵器国」5カ国のほかに非公認の核保有(疑惑)国が4カ国あり、このうち、米中、イスラエル、イランが未批准である上に、インド、パキスタン、北朝鮮は署名すらしていない。核実験の非合法化すら当面実現しそうもない。カットオフ条約(軍事目的の核物質生産禁止条約)もジュネーブ軍縮会議で15年来たなざらし、パキスタンの反対で条約草案起草にも取りかかれないでいる。

 

非核・反核では遠慮がちだった鳩山首相

 安保理首脳会合で鳩山首相は決議案を全面的に支持し、世界唯一の被爆国の道義的義務として、「日本は核兵器開発の能力がありながら非核の道を歩んできた」として、今後も「非核三原則」を堅持する決意を表明した。

 しかし鳩山氏は、核廃絶を訴えながら日本が米国の“核の傘”の下にあることには触れず、米国に対し核戦力の“先制不使用”宣言(自分から先には使わないという誓約)も要求しなかった。中国は先制不使用を宣言している。岡田外相は就任時の記者会見で、米国の先制不使用を主張していただけに、鳩山首相の遠慮が目立った。

 オバマ大統領との首脳会談で、「日米同盟は日本の平和と安全の基軸」という基本方針を確認した鳩山首相としては、インド洋における燃料補給支援停止の(民主党の公約)履行、米軍再編、核搭載米艦船の寄港をめぐる日米“密約”問題なども持ち出さなかった。「首脳同士が理解を深めあってから」という首相の意向によるものだった。それはそれでいいが、首脳会談で直接、先制不使用を要求するのではなく、一方的な演説なら問題なかったはずだ。北東アジア非核兵器地帯形成は民主党のめざす政策目標でもあり、少なくとも将来展望としての“核の傘”離脱、“核の先制不使用”宣言要求くらいまでは踏み込むべきだった。

 ピッツバーグのG20金融サミットでは経済刺激策継続で各国が合意したが、おりしもイランが秘密裏に新規のウラン濃縮施設を建設したことが発覚して危機感が高まった。明らかに安保理決議に逆行する動きだ。日本人の関心はうすいが、北朝鮮よりもイランの核開発の方がはるかに深刻で、解決困難なのだ。鳩山外交もイランに目配りする必要がある。

【『世界日報』2009年10月4日付「サンデービューポイント」】

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