2008年11月07日
オバマ新政権に期待する―――米大統領選の総括と今後の展望
マケインの敗因はブッシュの失政と不人気
米国に、ケネディー再来を髣髴させる、47歳の黒人大統領が出現、来年1月20日に就任する。今回の大統領選の最大の特徴は「米国は変わる、変える」というメッセージを世界に発したことだ。
バラク・オバマは、全米の人口の12.5%を占める黒人奴隷の末裔ではなく、ケニアからの留学生と白人女性の混血だが、「黒人」として人種差別の苦難を味わっており、今回の当選で彼が全黒人の夢と希望を体現したことは事実だ。ハワイで生まれ育ち、(母親の再婚後)インドネシアで成長したバラクは人種の「融合」を説き続け、米国民の熱狂的支持を受けた。
米国の大統領選挙は、1824年いらい州ごとに人口に応じてあらかじめ割当てられている選挙人を選ぶという“勝者総取り”方式で行なわれる。選挙人総数は538人で上下両院議員と同じ(上院は各州2人ずつ計100人。下院は州ごとの割当てで438人)。
したがって人口の多い州、つまりカリフォルニア(55人)、テキサス(34人)、ニューヨーク(31人)、フロリダ(27人)などをおさえるのが当選のカギを握っている。その点で、オバマ候補はテキサスを除く上記の大票田をことごとく押さえた上に、マケイン候補が重点州として力を入れていたペンシルベニア(21人)でも勝利、獲得選挙人は(7日現在ミズーリ州のみ未決定)全体の3分の2を上回る364人に達した。投票率も64.1%で、1960年以来の最高を記録した。
2000年の大統領選ではフロリダ州の集計結果が最後まで混乱、最終的にブッシュ候補(現大統領)が対抗馬のアル・ゴア候補(民主党)に辛勝したものの、得票総数ではゴアの方が上回るという矛盾を露呈した。しかし今回は選挙人数、得票数ともにオバマの圧勝となった。総得票数では700万票以上の大差をつけた。
その背景には、
(1)米国民がブッシュ共和党8年間の内外の“失政”に幻滅し、オバマの説く“Change”(変革という日本語は固すぎる。変化でよい)に心惹かれ、動かされたこと、これが最大の要因。次いで
(2)オバマが国民に信頼感を与える卓越した雄弁家で、“ブラッドリー効果”は起きず、黒人であることが障害にならなかったこと。つまり米国社会がそれだけ“変わった”こと。
(3)所得格差が開き、貧富の差が拡大したこと。終盤で追い討ちをかけたのがサブプライムローン破綻に端を発した金融危機。これが「小さな政府」で市場万能主義を説く共和党そのものにとって致命傷となり、逆に貧困層を支持基盤とし、「大きな政府」を是とする民主党に有利に働いたこと。逆に、
(4)安全保障を重視し、愛国心を訴えるマケイン候補は持ち味を発揮できず、現職大統領ブッシュの不人気がマイナスに作用、副大統領の女性候補サラ・ペイリンも次第に無知と国政の経験不足が露呈してマケインの足を引っ張り、女性票の取り込みに成功しなかったことだ。
外交における急激な“Change”は期待薄
民主党は伝統的に国際協調、具体的には国連重視を基本政策としており、ネオコン主導のブッシュ政権が打ち出した“単独行動主義”(ユニラテラリズム)は姿を消すことになる。国際社会はこの点に注目し、おおむね歓迎している。
オバマ氏は16カ月以内にイラクからの撤退を公約しているが、はたして公約どおりに進められるかどうかは疑問。「あとは野となれ、山となれ」にはできないからだ。アフガニスタンの治安回復を重視するとしているが、イラク以上に“泥沼”状態で、増派によって情勢が好転する保証はない。結局、同盟国に負担増強を求めるしかなく、対日要求が高まるだろう。
北朝鮮、イランの核開発問題でも、金正日総書記、アフマディネジャド大統領とそれぞれ直接会談して外交的解決を図るというのがオバマ氏の公約だが、それぞれに積み重ねと交渉の経緯があり、いきなり直接交渉というわけにはいかない。それに政権引継ぎのあと独自路線を打ち出せるまでには数カ月はかかる。朝鮮半島非核化が再び動き出すのは来春以降になるだろう。
核不拡散と自然エネルギー重視
環境・エネルギー問題では、ブッシュ前政権が離脱した『京都議定書』に復帰し、排出権取引などの京都メカニズムを尊重、温暖化対策に積極的に取り組む方針を明らかにしている。環境問題との取り組みでノーベル平和賞を受賞したゴア元副大統領を重要ポストに登用する意向も明示、CO2排出量では2050年までに80%の削減目標を掲げてEU(欧州連合)と足並みをそろえており、日米欧の協調が強固になる。しかしポスト京都の枠組みにどの程度まで途上国を取り込めるかは未知数だ。
原子力発電は積極的に推進する方針。ただし民主党には、カーネギー財団、ブルッキングズ研究所を中心としたブレーンにも上下両院議員にも核不拡散論者が多く、共和党政権ほど原発増設に熱心ではない。途上国の原発建設は核拡散の危険性を高めるからだ。
したがってエネルギー政策では、クリーン・コール(石炭液化・ガス化)のほか風力、太陽光などの再生可能エネルギー開発に軸足をおくことになろう。今後10年間に1400億ドルを投じ、500万人の雇用を創出すると公約している。