2009年7月03日
天野氏のIAEA事務局長当選は快挙/ただし過剰の期待は禁物
天野之弥大使が3月以来6回目の投票で、ようやくIAEA(国際原子力機関)次期事務局長選挙で当選した。国連機関で日本人がトップの座を占めているのはユネスコ(国連教育文化科学機関)の松浦晃一郎事務局長だけだが、松浦氏も今年退任する予定で、天野氏が12月に就任することで、日本は辛うじて今後も1人確保することになる。
IAEAは”核の番人”ともいわれ、核拡散阻止のために、非核保有国に対して査察主体の「保障措置」を適用することで原子力の平和利用を保証するのが主たる任務だ。核軍縮推進、さらに核廃絶の実現とは、本来、無縁である。この点を錯覚し、これで今にも核廃絶実現に日本が主導的役割を果たせるかのような誤った期待を天野氏に寄せるコメントやメディア報道が見受けられる。事実誤認も甚だしい。米ロ間の核軍縮や北朝鮮とイランの核開発がIAEA斡旋・仲介で解決するわけではない。
日本人は国連ならびに国連機関に幻想を抱きすぎている。国際機関の事務局長(国連本体の場合は「事務総長」)というのは、部外者が想像するほど強大な権限をもっているわけではない。国連の場合は安保理常任理事国であり、IAEAの場合は米国の影響力がダントツに大きい。大相撲でいえば、米国が横綱、ロシアは(弱い)大関、中国、英国、フランス(以上、公認の核兵器保有国)が関脇と小結。日本は前頭10枚目くらいだ。事務局長は行司役にすぎない。
今回、米国はじめ欧州の先進国は天野支持で一貫していたが、途上国は束になって米欧主導のIAEA支配に反発し、対抗馬のミンティIAEA大使(南アフリカ)を支持、両陣営の対立は深刻だった。最終的に天野候補が獲得したのは23票で、当選に必要な理事国35カ国のうちの3分の2ギリギリだった。それも1カ国が棄権したためで、まさに辛勝だったのだ。
米欧諸国は核不拡散に最大のウェートを置いているのに対し、途上国は原子力平和利用の権利確保と先進国からの技術協力を期待していることに変わりなく、両者の利害はますます対立している。天野新事務局長のかじ取りは難しい。
もう一度くり返すが、IAEAの役割は原子力平和利用の促進にあり、その延長上に核不拡散のための査察業務がある。核軍縮、さらに核廃絶とは無縁の存在である。天野氏は「唯一の被爆国からきた」と立候補と就任の弁を述べたが、これは原子力平和利用の意義と必要を説いたもので、天野事務局長がIAEAを率いて核廃絶に努力するということではない。