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プロフィール

吉田 康彦

吉田 康彦

1936年東京生まれ
埼玉県立浦和高校卒
東京大学文学部卒
NHK記者となり、ジュネーヴ支局長、国際局報道部次長などを歴任

1982年国連職員に転じ、ニューヨーク、ジュネーヴ、ウィーンに10年間勤務

1986−89年
IAEA (国際原子力機関)広報部長

1993−2001年
埼玉大学教授
(国際関係論担当)
2001-2006年
大阪経済法科大学教授
(平和学・現代アジア論担当)

現在、
同大学アジア太平洋研究センター客員教授

核・エネルギー問題情報センター常任理事
(『NERIC NEWS』 編集長)

NPO法人「放射線教育フォーラム」顧問

「21世紀政策構想フォーラム」共同代表
(『ポリシーフォーラム』編集長)

「北朝鮮人道支援の会」代表

「自主・平和・民主のための国民連合・東京」世話人

日朝国交正常化全国連絡会顧問

学歴・職歴

北朝鮮人道支援の会

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主張・提言・コメント
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2009年8月05日

急展開した米朝関係/クリントン=金正日会談の意味

私人としての訪朝とされながら、金正日総書記がビル・クリントン元米大統領到着日の8月4日にピョンヤンで直接会談に応じ、歓迎夕食会まで主催したことは、北朝鮮当局の重視ぶりを物語っており、今後、米朝関係改善に向けての転換点になるものと思われる。

 

クリントン訪朝は、中朝国境地帯で取材中に捕えられ、労働教化12年の有罪判決を受けた中国系と韓国系米女性記者2人の解放が主目的とされ、その目的は達成されたが、同時にオバマ政権としては、クリントン訪朝を通じて金正日総書記の病状、権力継承の動きを直接さぐり、その結果を踏まえた上で、今後の米朝交渉に備えることになるものと見られる。会談内容と夕食会のやりとりがどのようなものだったか注目されるところだ。

 

北としてはクリントン訪問を米朝直接交渉再開の糸口にしたいところだが、核・ミサイル問題で悪化した米朝関係が容易に好転する可能性はうすい。その点は、1994年6月のジミー・カーター訪朝時とは根本的に事情が異なる。当時、北の目的は米朝直接協議の実現にあり、寧辺の核施設凍結だけで体制存続の保証を得たが、現在の北は「核保有国」を自認し、「核抑止力」を備え、米国と対等の立場で核軍縮交渉に入ることを要求しているからだ。ブッシュ前政権8年間の”失政”で、ハードルはずっと高くなっている。

 

オバマ政権としては、非核化の見返りに、究極的に米朝国交正常化に応じるにせよ、中国を議長とする「6者協議」の枠組みを無視するわけにはいかず、「6者協議」参加拒否を明言している北を説得するには、まず米朝間の信頼関係を再構築しなければならない。いずれにせよ長い交渉プロセスが控えている。

 

その意味で、今回のクリントン訪朝は関係改善に向けての雰囲気づくりにすぎないが、元大統領の訪朝ということで、北のプライドをくすぐり、満足させたことは疑いない。金正日総書記の歓迎ぶりもその表われとみるべきだ。

 

今年に入ってからの北朝鮮の強硬姿勢はすべて2012年に向けての布石だ。ピョンヤン指導部は、金日成生誕100年、金正日生誕70年を迎える2012年を「強盛大国の大門が開く年」と定め、それまでに、病身の金正日に代わる後継者(三男・金正雲)への権力移譲、新指導者の実績づくりのための「核抑止力」の完成に余念がなかった。

 

目下、「150日戦闘」の真っ最中。できれば期間中(9月半ばまで)に「抑止力」の完成を証明するために、もう一度、中長距離ミサイル発射と核実験を実施したいところだが、国連安保理決議による制裁が効いてきたので断念する可能性が高い。女性記者解放のためとはいえ、クリントン訪朝を”米国の譲歩”ととらえ、さらなる実験は不必要になったと北当局は説明することになろう。

 

2012年は、同時にオバマ米大統領の1期目の任期が終わる年でもあり、11月にはオバマは再選目指して出馬することになろう。景気回復が最優先課題ではあるが、グローバル・パワーである米国としては外交上の成果も問われる。最大の外交課題はアフガン情勢だが、タリバン撲滅、治安回復のメドは立たない。アフマディネジャド再選でイランの核開発も深刻化する一方だ。とすれば北朝鮮と本格交渉に入り、バーゲン(取引)するのが早道だ。

 

去る2月初旬、ボズワース特別代表が、就任前の学者の肩書で訪朝した際、面談した金桂官外務次官は、「北朝鮮は米朝交渉を望んでいる。非核化にも応じる。その代わり、(1)米朝国交正常化、(2)軽水炉2基供与、(3)米韓同盟解消(在韓米軍の段階的撤退)を要求する」との立場を明示した。ところが、1ヵ月後に、正式に「特使」に就任し、ボズワースが再訪朝を打診したところ、ピョンヤンの回答は拒否だった。「訪朝に及ばず」というのだ。この時点で、国防委員会の権限拡大・強化が決まり、呉克烈、金永春らのタカ派の軍部指導者が発言権を増し、ミサイル発射、核実験実施を優先させたようだ。

 

4月の憲法改正で国防委員会は8名から13名に増員され、改革開放を唱える張成沢(金正日の義弟)ら党人派3名も新たに加わったが、過去数カ月は軍部のタカ派主導で政策決定がなされたようだ。金正日国防委員長が健康悪化ですでに実権を失っていたかどうかは疑問だが、張成沢らの党人グループがブレーキをかけ、無用な対決を回避した可能性もある。

 

クリントン訪朝を実現させたのは、姜錫柱第一外務次官陣頭指揮の「ニューヨーク・チャネル」だ。金桂冠外務次官が空港に出迎え、姜次官が金正日総書記のとなりに座って歓迎夕食会に出席していた。北朝鮮外交陣の復権である。

 

麻生首相も日本のメディアも北朝鮮の“脅威”を煽るばかりで真相を伝えていない。今回のクリントン訪朝にも周章狼狽するばかりだ。この調子では、日本の頭越しの米朝国交正常化もあり得る。

 

日本は衆議院解散、8月30日の総選挙実施を控えて政治の空白期だ。民主党勝利、鳩山内閣成立が確実視されているが、拉致問題の“解決”を「入口」におき、国交正常化の前提条件にしているかぎり日朝関係進展の可能性はない。鳩山内閣には「新思考」外交を期待したい。

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