2010年4月19日
核セキュリティーとは何か/ワシントン・サミットの意義
オバマ大統領の提唱で、ワシントンで4月12−13の両日、47カ国の首脳が参加して、核セキュリティー・サミットが開催された。
核セキュリティーとは何か。政府・外務省は「核セキュリティー」と表記、NHK、民放各局もそれに従ったが、新聞の表記は「核安全保障」「核安保」「核保安」「核安全」とまちまちだった。
セキュリティー(security)とセーフティー(safety)は表裏一体の関係にあるが、safe(安全)であることが確認できて安心すること (feel secure) 、あるいは安全を確かめるための対策を講じることである。”Fasten your ssfety belt for your security" (あなたの安心のために安全ベルトをお締めください)のように使う。「安全保障」という日本語の訳語は固すぎる。一言でいえば「安心」である。
核・原子力の場合、nuclear safety といえば「原子力の安全(運転・管理)」であり、原子力事故が起きないようにすることだが、nuclear security といえば、核弾頭・核物質が密売買されたり、奪取されたりして、不法に使用されることのないようにすることを意味する。簡単にいえば「核テロ対策」のことだ。これはIAEA(国際原子力機関)が特別に定義した専門語である。
核廃絶は理想だが、人類が「核兵器廃絶」に成功する可能性はゼロに近い。自然界には「核物質がほぼ無尽蔵に存在しており、「核物質が廃絶」されることはない。地球温暖化対策として、CO2(二酸化炭素)を排出しない原子力発電の優位性が見直されており、新興国を中心に、世界各地で増える傾向にある。原料のウラン、プルトニウムは核燃料にもなるが、大量殺りく兵器にもなる。IAEAの査察は技術的には完璧に近いが、あくまでも査察対象の施設に限った話で、秘密核開発は不可能ではない。
オバマ大統領にとっての最大の関心事は「核テロ対策」だ。テロリストには、核攻撃を思いとどまらせる「核抑止」は通じないからだ。核弾頭が1発でもテロリストの手に渡れば世界は大惨事になる。濃縮ウラン、プルトニウムをばら撒く「ダーティーボム」(汚い爆弾)でも同様だ。
オバマ大統領が昨年4月、プラハで「核兵器のない世界」を提唱したのも、ヘンリー・キッシンジャー博士ら4賢人の「提言」が下敷きになっているが、彼らが「核兵器廃絶」を唱えたのも、アルカーイダのようなテロリストには「核抑止」が通じないからで、核兵器が非人道的残虐兵器だからではない。そこに道義性はなく、冷徹な打算と計算があるだけだ。
もう一度くりかえす。核セキュリティーとは「核テロ対策」のことであり、これが世界の最大の関心事になりつつあるという事実だ。そして「核」も「原子力」も同根・同義だという事実を忘れてはならない。