2011年3月01日
菅首相電撃訪朝説を検証する――『テーミス』報道の早とちり
直接購読者向けの月刊誌『テーミス』3月号が、「支持率低下の菅直人首相が、起死回生の電撃訪朝を企てている」というスクープ記事を掲載している。それによると、「菅首相は、人気挽回のため訪朝を企て、拉致問題の解決と日朝国交正常化実現に意慾を燃やしている」とし、同じ思いの前原誠司外相と先陣争いをしている」といううのだが、どうも裏づけ材料不足で、説得力に乏しい。朝鮮総連がこのところ、鳩山前首相との接触を密にしているのは事実だが、日朝間の最大の懸案である拉致問題をどう解決するか、(真の解決はあり得ないのだが、いかに「決着させるか」の方針が明示され、国民世論のあとおしがない限り、誰が訪朝しても成果はきたいできないのだ。
菅首相は、先の施政方針演説で、「わが国は、『日朝平壌宣言』にもとづいて、拉致、核、ミサイルといった諸懸案の包括的解決を図るとともに、不幸な過去を清算し、国交正常化を追求します」と述べたことに着目、「拉致被害者の全員生還」を前提条件にしていない」点を強調する。はたしてそれで日本の世論が納得するか、甚だ疑わしい。
北朝鮮と「太いパイプを持つ」前原外相と電撃訪朝の先陣争いをしているという記述も眉唾な。前原氏が北と「太いパイプを持っている」なら、とっくに訪朝は実現していたはずだ。正直なところ、鳩山氏を含めて、民主党幹部は誰も「平壌と太いパイプ」は持っておらず、右往左往しているのが実態である。
『テーミス』の記事は、菅の画策を韓国政府がいち早く嗅ぎつけて火消しにつとめ、不発に終わらせた、というニュアンスになっている。いずれにせよ、日朝関係が近い将来動き出す気配はない。北はそれを望んでいるが、日米韓の足並みな揃っていない。米韓両国が日本の“抜け駆け”を許さない状況である。日朝が動く条件は、朝鮮半島非核化をめぐる6者協議再開が具体化した時だ。それと、日本の国内世論がもう少し鎮静化し、冷静に判断できるようになることが条件だ。