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プロフィール

吉田 康彦

吉田 康彦

1936年東京生まれ
埼玉県立浦和高校卒
東京大学文学部卒
NHK記者となり、ジュネーヴ支局長、国際局報道部次長などを歴任

1982年国連職員に転じ、ニューヨーク、ジュネーヴ、ウィーンに10年間勤務

1986−89年
IAEA (国際原子力機関)広報部長

1993−2001年
埼玉大学教授
(国際関係論担当)
2001-2006年
大阪経済法科大学教授
(平和学・現代アジア論担当)

現在、
同大学アジア太平洋研究センター客員教授

核・エネルギー問題情報センター常任理事
(『NERIC NEWS』 編集長)

NPO法人「放射線教育フォーラム」顧問

「21世紀政策構想フォーラム」共同代表
(『ポリシーフォーラム』編集長)

「北朝鮮人道支援の会」代表

「自主・平和・民主のための国民連合・東京」世話人

日朝国交正常化全国連絡会顧問

学歴・職歴

北朝鮮人道支援の会

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主張・提言・コメント
TOP > 主張・提言・コメント > 北朝鮮は核放棄に応じる―――05・9・19共同声明履行が焦点

2012年3月04日

北朝鮮は核放棄に応じる―――05・9・19共同声明履行が焦点

北朝鮮は核を放棄するだろうか。一度獲得した“打ち出の小鎚”を手放すことはあるまい、というのが大方の見方だ。12月の金正日総書記死去後、後継者に正式に推戴された三男の金正恩は傀儡にすぎず、実権を握った李英鎬総参謀長以下、軍部の大勢は是が非でも“核抑止力”を保持することで利害が一致しており、北朝鮮としては今後も軍部優先の「先軍政治」を継続し、核開発・保持の続行で意思統一しているものと推察されるからだ。

軍部主導の「先軍政治」推進当事者にすれば、イラクのサダム・フセインも、リビアのカダフィも、米軍またはNATO<北大西洋機構>軍の攻撃にさらされて政権崩壊を招き、最後は命まで落とす結果のなったのは、核開発を途中で放棄し、米国の甘言に騙され、落とし穴にはまったのは、結局核開発を放棄しからだということになるわけだ。核保有国は核保有国に対し核攻撃は絶対にしない。「北朝鮮は米国に対して核抑止力を持ったから米国は絶対に攻めてこない」というのが、2回もの核実験成功後、ピョンヤンのメディアが内外に吹聴していたことだった。

 

しかし少数派ながら、筆者は条件さえ整えば北は核放棄に応じると予測している。

その根拠は、2005年9月19日の最後の本格的「6者協議」の共同声明にある。(北京の「6者協議」はその後6年以上開催されていない。)2005年9月、会期を2日延長して最後の詰めを行い、6カ国の首席代表が最後に合意したのが「共同声明」だ。このとき金桂官・北朝鮮首席代表(現・第一外務次官)は何回も討議の中断を求めてピョンヤンの金正日総書記(当時)に電話で訓令を仰ぎ、ようやく「将軍様」の裁可を得て署名したのがこの共同声明なのだ。そこには、「北朝鮮は原子力平和利用の原則」にしたがって平和利用に徹し、関係国は北の軽水炉取得に協力する。その代わり「北朝鮮はNPT(核不拡散条約)に復帰し、IAEA(国際原子力機関)の査察官を受け入れる」という文言になっている。つまり北朝鮮は核開発の放棄に応じるというのだ。金正日としても苦渋の決断だったに違いない。

 

この共同声明さえ履行されれば、北朝鮮の核開発疑惑は一気に解消するはずだった。交渉の立役者クリストファー・ヒル国務次官補(米首席代表)は一時はノーベル平和賞候補にさえなった。ところが舞台暗転、その後「6者協議」は実質的にはまったく開かれず、事態は何の進展もない。最近の米朝協議で北はウラン濃縮の一時凍結に応じたが、米朝両国には根深い相互不信が存在する。ワシントンには北朝鮮体制打倒論が根強く存在する。ピョンヤンは独裁体制であるほか、韓国のような民主主義が存在しないからだ。米ブッシュ前政権内部にはネオコン主体の対北朝鮮強硬派が存在していて、1994年の「枠組み合意」のぶち壊しにかかったとされている。

 

北朝鮮にも当時から対米強硬派が存在したが、金総書記の決断と指示は絶対だった。金総書記にとって、「朝鮮半島非核化」は父親の金日成主席の遺訓であり、遺訓こそは絶対的命令だった。ただし金日成が目指したものは、朝鮮半島全域の「非核化」で、在韓米軍の非核化も「同時並行」で進められねばならない。冷戦終結後ブッシュ大統領(父)が朝鮮半島における「核不在宣言」を発表、在韓米軍に核弾頭は存在しないことが公表されているが、北は韓国内の米軍基地の査察を要求するだろう。しかし、米朝が半島全域に非核化の大枠で合意していれば、在韓米軍の査察も大きな障害ではない。いずれにせよ、北朝鮮は米国と戦火を交える意思はさらさらない。超大国相手にまともに勝負いならないことを熟知しているのだ。

 

要するに、北朝鮮にとっては、体制の存続とその国際的保障の獲得が核開発の主たる動機であり、究極の目標なのだ。核保有国となって北東アジアに君臨し、日本や韓国を威嚇することが北朝鮮の最終目的ではないという点が重要だ。具体的には、朝鮮戦争以来60年間、米朝間には国交がなく、国際法上は交戦当事国のまま放置されているのが北朝鮮だ。オバマ政権が米朝平和条約の締結に応じて、それにともなって米朝国交正常化に応じれば金日成の「見果てぬ夢」が実現することになる。これが北朝鮮の最大の国家目標なのだ。米国はブッシュ前政権中に懸案の「テロ支援国家」の指定は解除したものの、その後は何らのフォローアップをしておらず、当初約束していた世界銀行、IMF(国際通貨基金)への北朝鮮加盟のあと押しもしていない。相互不信が根強いのだ。

 

オバマ政権は先核放棄の原則を掲げ、北がまず核開発放棄を具体的措置で示すなら、米朝平和条約締結交渉開始に応じるとしているのに対し、北朝鮮が重視しているのは、言葉対言葉・行動対行動の「同時行動の原則」で、何事も同時スタートで真意を示せと提案している点で、北にすれば過去に何度も米国に騙されてきたという苦い経験がその主張の根拠になっている。若冠29歳で経験不足の金正恩が頭の固い70代・80代の軍部の長老たちを率いて本格的米朝交渉に持ち込めるかどうか悲観的にならざるを得ない点もあるが、この点が今後の北東アジアの平和と安全保障のカギを握っている。

 

そうした中で、北朝鮮当局は「先軍政治」継承を明言しているが、改革派・国際協調派として注目されているのが故・金正日の義弟で金正恩の叔父にあたる実力者・張成澤(国防委員会副委員長)だ。彼が頑固な軍人の中でどの程度政治力を発揮し、影響力を行使できるかが今後の焦点となろう。

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