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プロフィール

吉田 康彦

吉田 康彦

1936年東京生まれ
埼玉県立浦和高校卒
東京大学文学部卒
NHK記者となり、ジュネーヴ支局長、国際局報道部次長などを歴任

1982年国連職員に転じ、ニューヨーク、ジュネーヴ、ウィーンに10年間勤務

1986−89年
IAEA (国際原子力機関)広報部長

1993−2001年
埼玉大学教授
(国際関係論担当)
2001-2006年
大阪経済法科大学教授
(平和学・現代アジア論担当)

現在、
同大学アジア太平洋研究センター客員教授

核・エネルギー問題情報センター常任理事
(『NERIC NEWS』 編集長)

NPO法人「放射線教育フォーラム」顧問

「21世紀政策構想フォーラム」共同代表
(『ポリシーフォーラム』編集長)

「北朝鮮人道支援の会」代表

「自主・平和・民主のための国民連合・東京」世話人

日朝国交正常化全国連絡会顧問

学歴・職歴

北朝鮮人道支援の会

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主張・提言・コメント
TOP > 主張・提言・コメント > イランは核開発を決して諦めない----根本原因は米国の”ダブルスタンダード”

2012年1月30日

イランは核開発を決して諦めない----根本原因は米国の”ダブルスタンダード”

中東のイランは極東の日本からは遠いので日本人の関心は希薄で、危機感も少ないが、國際社会全体としてみれば、北朝鮮よりもイランの核開発の方がはるかに深刻で緊張をもたらす出来事だ。

 

 イランの核開発の歴史は先進国並みに古い。イランには過去40年の歴史と実績がある。

 イスラム原理主義のアフマディネジャド政権下の現代イランは、イスラム革命の口火を切ったホメイニ師指導の原理主義の流れを引き、古代ペルシア王国の再興をめざす遠大な野望を秘めている。

 

 核兵器は第2次世界大戦の末期に登場、史上初めて広島、長崎に投下されたあと、戦後は米ソ2超大国間で熾烈な核開発競争が繰り広げられ、一時は両国だけで7万発以上の核弾頭が蓄積されていた。これは地球30個分を破壊するに等しい量だった。冷戦終結後、両国で核弾頭削減の努力が払われてはいるが、それでも米ロだけで今なお2万発の戦略核兵器が残されている。

 

 戦後、米ソ英仏中の5カ国が核実験を繰り返して相次いで核保有国となり、彼らだけが合意したNPT(核拡散防止条約)で、核兵器保有国の増殖を防ぎ、いわば仲間うちで“特権”を守ろうとしているのが現行の「核不拡散体制」。5カ国以外からすれば自分勝手この上ない、ということになる。 

つまりイランからすれば、NPT体制なるものは大国のエゴ以外の何ものでもなく、こんな身勝手な理屈はないということになる。そもそもイランの核開発は1960年代末に米国からの研究炉の導入に始まり、1974年、西ドイツ(当時)と商業ベースで成約、加圧水型軽水炉の建設に着手して本格的原子力開発がスタートした。途中、イラン=イラク戦争で建設が中断したものの、その後、断続的に工事が続けられてロシアの手で完成。昨年ようやく本格稼働に入った。イランには核燃料の生産設備はないが、燃料は、その後、ブシュエール原発に建設を受け継いだロシアが提供を申し出ている。

 

イランも加盟しているNPTは平和利用の権利を認められてはいるが、IAEAにすべての計画を申告し、透明性を貫くことが条件だ。その点イランはこの条件を満たしていない。米国が問題視しているのは、中部ナタンツのほかに古都コムに近いフォルドウに秘密地下施設を建設、総量推定200キロものウラン濃縮に乗り出していることだ。イラン当局はそこで濃縮度20%の高濃縮ウランを生産中。これは医療用アイソトープ研究のためと説明しているのだが、それほど大量のアイソトープがなぜ必要なのか、説明不足で欧米諸国の疑惑は晴れていない。

 

一国の指導者が核兵器開発に向かう動機は、?戦争目的ならびに安全保障、?国家のステータスシンボル追求、?ナショナリズム高揚、?指導者の大衆的人気獲得などがあるが、イランの場合は?と?と?だ。その根底にあるのは、米国がイスラエルの核保有を黙認しながらイランの“原子力研究”は認めないとする”ダブルスタンダード”(二重基準)だ。

 

その意味で、中東にこのダブルスタンダードが存在する限り、イランは核開発を断念することはないだろう。同じような動機で「NPT体制」の枠外で核開発し、核保有の道をたどった国にインドがある。インドはいわば独自の哲学で核保有国になったものの、米国が警戒する「核拡散」には加担していない。米国もようやくインドの真意を理解して、例外的に原子力平和利用の技術を提供し、共有することに同意。現在は米国製原子炉の輸出にも乗り気になっている。米国には米国なりの判断基準が存在するのだが、イランには所詮“超大国のエゴ”と映るのだ。

 

イランがウラン濃縮中止を求めた過去4回の国連安保理決議を無視して、米国のいう“核開発”を継続しているのは事実だ。IAEAの天野之弥事務局長は昨年11月、イラン情勢についての最新の報告書を発表、ウラン濃縮を続けているイランが起爆装置の実験を繰り返しており、「この実験の目的は平和利用とはいいきれない」と指摘している。これについてイラン当局から満足すべき説明はない。これに色めき立ったのはイスラエルのネタニヤフ首相で、この疑惑を根拠に、イランの核施設空爆に踏み切る構えだ。

 

イスラエルには”前科“がある。1980年、平和目的とされていたサダム・フセイン政権下の当時のイラクのオシラク原子炉(バグダット郊外)を空爆し、灰燼に帰してしまったのだ。これを受けてイランは、日本と欧米諸国などを往復する原油積み出しタンカーの87パーセントが航行しているホルムズ海峡を封鎖する意向を明らかにしている。

 

これに対し、米国のパネッタ国防長官は「封鎖は実力で排除する」と警告。ホルムズ海峡の波高しの状況はいやがうえにも目立っている。イスラエル、米、イラン三つ巴の警告合戦はエスカレートする一方だ。

 

米国が軍事行動に出る前に検討しているのは徹底した経済封鎖で対イラン・原油の輸出禁止だ。日本は全需要の10%弱の原油をイランから輸入しているが、この供給が全面的に止まるのは痛手だ。制裁にはEU(欧州連合)も参加する構えだ。現段階では、安保理決議採択による最後通牒にまでは至っておらず、安保理制裁に反対の中露両国が動いて、今後何らかの仲介の労をとる可能性もある。

 

しかし危機の根本的解決は、イスラエルの核廃棄、中東全域に非核化しかないことをこの機会に指摘しておきたい。そうでなければ、一時的に危機が去っても、危機は間欠泉のようにぶり返し、いずれ全面衝突になるだろう。

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