2012年9月24日
朝令暮改になりかねない野田内閣の脱原発政策
野田首相は、9月21日、民主党代表選で再選され、当面、続投が決まった。野田首相は、昨年の東電福島第一原発の事故以来、国民の間に蔓延している反原発感情に配慮して、8年後の2030年代に稼働している原発をゼロにしようという“脱原発政策”を打ち出したものの、内外の強い抵抗に遭遇して、この政策の閣議決定を見送らざるを得なかった。実際に閣議決定を見送ることになったのは、脱原発に反対のワシントンからの圧力によるものだとされている。
野田内閣は、閣議決定を見送らざるを得なかっただけでなく、政策そのものも多くの矛盾を内包しており、今後、額面通りに脱原発政策を実行できるかどうかは先行きは極めて不確定だ。
まず、原発の新規増設の発注はしないという公約が守られたとしても、すでに建設が承認され、着工している青森県大間原発など3基の建設は継続することになった。計画通りに運んだとすれば、十数年後の完成時点では、日本は「脱原発」を実現していることになる。そこで完成した原発はどうなるのか、明確な青写真は示されていない。
発注済みの残りの2基は、東電の東通1号機と中国電力の島根3号機だが、このままだと完工しても稼働が認められず、そのまま無用の長物ということになりかねない。
9月26日に決まる次の自民党総裁選では、安倍、石原、石破、林、町村の5人の候補全員が原発稼働継続を主張しており、近い将来、自民党が復権すれば、野田首相の決定は宙に浮き、完全に「朝令暮改」になる可能性がある。
国内の産業界も、日本経済のさらなる地盤沈下を加速させかねない脱原発にはこぞって反対している。太陽光、風力など、自然界の恵みを利用した代替エネルギー源の実用性、つまり大量発電と安定供給にめどがついていないためだ。電気料金が一挙に2倍になるという試算もある。ドイツ、イタリアなど、福島第一原発事故のあと脱原発を決めた国ぐにも事情は同じで、再生可能エネルギーの増産計画はあるものの、コスト高が共通の悩みとなっている。
日本に濃縮ウランを提供し、原子炉の主要生産国である米国も日本の脱原発には反対している。日本製の原子炉が海外に出なくなれば手数料、特許料も入ってこなくなる。
いずれにせよ、野田内閣の脱原発政策は不徹底で、矛盾だらけだ。
第一に、現存の「再処理路線」は継続するという。「再処理」というのは、使用済み核燃料を化学的に処理してプルトニウムを取り出し、これを燃料として再利用するものだが、日本が脱原発路線に踏み切れば、新しい燃料は不要となる。そうなれば、再処理は無用の長物となる。何のために再処理を継続するのか野田首相は何も説明していない。
要するに、「脱原発」と「核燃サイクル維持」は互いに矛盾するのだ。
プルトニウム再利用の高速増殖炉「もんじゅ」の廃炉も不可避だ。政府は、「もんじゅ」を純然たる「研究炉」として残し、放射性廃棄物の減量化を目指す計画だ。
政府は 「もんじゅ」開発に過去30年以上、総額2兆円以上の膨大な資金を注ぎ込んできたが、技術的に挫折つづきで、荘大な「見果てぬ夢」を追いかける結果になった。アメリカ、フランスはじめどの原発先進国も成功しておらず、おそらく神は、科学万能を誇りたい人間の傲慢を許さなかったのだろう。
要するに、“核燃サイクル”完成という夢は諦め、放射性廃棄物は「直接処分」という形で全量廃棄にするほかない。
次に、残りの懸案として、高レベル放射性廃棄物の処分問題がある。
現在は地下300メートル以上の地中処分が暫定的処置として決まっているが、もともと地震と地殻変動の多い日本には不向きなのだ。根本的解決策の見つからない限り、原発推進は日本では不可能となる。問題は、すでに地上のプールも満杯となり、これ以上、一時的貯蔵が限界近くに達していることだ。全国の原発の使用済み燃料プールにはドラム缶にして累計5万本相当の使用済み燃料がたまっている。この問題をどう解決するかも焦眉の急務だ。
ちなみに、野田内閣は、懸案となっていた「原子力規制委員会」と「原子力規制庁」の発足にこぎつけ、従来の「原子力安全保安院」はよやく役目を終えた。「安全保安院」は経済産業省所属で、とかく原子力推進の役目を果たし、国民の誤解を増幅した。「規制委員会」と「規制庁」がはたして厳正中立の立場をつらぬけるかどうか、お手並み拝見だ。日本の原子力技術は国際的に高く評価されているが、はたして「脱原発」に舵をきれるかどうか、世界中の注目の的となっている。