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プロフィール

吉田 康彦

吉田 康彦

1936年東京生まれ
埼玉県立浦和高校卒
東京大学文学部卒
NHK記者となり、ジュネーヴ支局長、国際局報道部次長などを歴任

1982年国連職員に転じ、ニューヨーク、ジュネーヴ、ウィーンに10年間勤務

1986−89年
IAEA (国際原子力機関)広報部長

1993−2001年
埼玉大学教授
(国際関係論担当)
2001-2006年
大阪経済法科大学教授
(平和学・現代アジア論担当)

現在、
同大学アジア太平洋研究センター客員教授

核・エネルギー問題情報センター常任理事
(『NERIC NEWS』 編集長)

NPO法人「放射線教育フォーラム」顧問

「21世紀政策構想フォーラム」共同代表
(『ポリシーフォーラム』編集長)

「北朝鮮人道支援の会」代表

「自主・平和・民主のための国民連合・東京」世話人

日朝国交正常化全国連絡会顧問

学歴・職歴

北朝鮮人道支援の会

  • 設立宣言
  • 活動実績
  • 入会申込書
  • 代表・役員
  • ニューズレター

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核・原子力
TOP > 核・原子力 > イラン核問題は米・イラン間の和解でしか解決しない

2006年4月15日

イラン核問題は米・イラン間の和解でしか解決しない

イランこそ世界最大の関心事
 世界のメディアの関心はイランの核開発に注がれている。イランはイスラム原理主義を掲げる中東の大国であり、サウジアラビアに次いで第2の原油・天然ガス輸出国だ。イランが核保有国となれば影響甚大で、北朝鮮の比ではない。ことし2月実施の米国の世論調査によると、イランが最大の脅威と答えた米市民が最も多く、全体の30%を占め、次いで中国、イラク、北朝鮮の順だった。「イランが核保有したらイスラエルを攻撃し、中東は大混乱となる」と予測する市民が70%以上に達した。
 イランの核開発は、2002年8月、国内の反政府組織が暴露。IAEA(国際原子力機関)が査察官を送って精査したところ、中部ナタンツで、1985年いらい秘密裏に調達した遠心分離器でウラン濃縮をしていたことが判明。さらに近くのアラクでプルトニウム生産用の重水炉建設と重水生産に着手していた事実も発覚した。
 IAEAの警告と英独仏3国の仲介でイランは操業を中止していたものの、昨年8月、保守強硬派のアハマディネジャド大統領の就任後再開、米国は核開発阻止のためにはピンポイント空爆も辞さずの構えだ。先手を打ってイスラエルが空爆する可能性もある。

安保理議長声明は"時間かせぎ"
 IAEAは2月の理事会で国連安保理への付託を決議。制裁を急ぐ米英仏に対し中ロが反対。結局、安保理は、30日以内に濃縮を停止し、その履行状況の報告をエルバラダイIAEA事務局長に求めた議長声明を3月末に採択して閉幕したが、これは問題の先送りにすぎない。
 イランは、「原子力平和利用はNPT(核拡散防止条約)加盟国の"奪い得ない権利"(第4条)として保証されている。化石燃料は有限、いずれ枯渇する以上、産油国が原子力開発に乗り出して何が悪い」と主張する。
 しかし、平和利用の権利を主張するなら濃縮計画を事前申告し、IAEAのフルスコープ・セーフガード(包括的保障措置)下におかねばならなかったのだ。「初期的な研究段階」と弁解しているが、事前申告を怠り、露見するや開き直り、また濃縮を再開するのはIAEAと国際社会への挑戦としか映らない。しかしイランの主張にも一理ある。秘密開発の事実を認めたあと操業を中止してIAEAに再申告し、未申告施設の摘発を目的とした「追加議定書」にも署名、IAEAへの協力の姿勢を見せたにもかかわらず、ライス米国務長官は、「イランには平和利用の権利はない」とニベもない態度で一蹴している。平和利用の可否を米国が決めるというなら、IAEAの存在理由はない。

平和利用を急ぐ根拠なし
 たしかに産油国イランが原子力発電を急ぐ根拠はない。しかも現政権はイスラム原理主義の流れを汲み、アハマディネジャド大統領は「ホロコースト(ユダヤ人虐殺)はフィクション」「イスラエルという国を欧州に移せ」などと放言して物議をかもしている。パレスチナやレバノンのイスラム過激派勢力に資金提供もしており、中東不安定化の元凶というのがブッシュ政権の判断だ。混迷イラクの多数を占めるシーア派にも影響力を保持している。
 米国にすれば、いくら"前非"を改め、平和利用と称しても信用できないのだ。この疑念は過去3年間、仲介外交に務めてきた英仏独3国にも共通するが、イランと利害関係の深いロシアと中国は"漁夫の利"を狙い、制裁阻止に動いている。ロシアは南部のブシェールに最新型軽水炉VVERを建設中、中国は原油と天然ガスの供給源として重視している。
 根本原因は、1979年、テヘランの米大使館人質事件いらいイランと米国に国交がなく、相互不信が根強いことにある。相互不信が核問題の解決を阻んでいる点は米朝関係にも共通する。IAEA保障措置下の平和利用だとイランがいくら主張しても、ある日NPT脱退宣言をして、IAEA査察官を追放したら、あとは野放し。現に北朝鮮がそれを実証している。

核開発の動機は対米駆け引きのカード
 核開発には通常、(1)安全保障に不可欠という判断、(2)大国としてのステータス・シンボル、(3)米国相手の駆け引き材料としての最有力カード、以上3つの動機が存在する。イランも北朝鮮も3番目に重点をおいて、米国を意識してシーソーゲームを繰り返している。
 核不拡散体制の維持は米政権の最重要事項だ。相手もそれを読んで挑戦してきている以上、問題の根本的解決のためにはワシントンとテヘランが対話する以外にない。それ以外は何を試みても時間稼ぎにしかならない。イランにも、ハタミ、ラフサンジャニらの親米派がいて対話を求めているからには、実力行使は選択肢として間違っている。
 そこで日本の出番だ。米国と緊密な同盟関係にあり、しかもイランが最も信用している非欧州・非キリスト教の国は日本しかない。現国会終了後には小泉首相が在任中最後の公式訪米をしてブッシュ大統領と会談する。せっかく手中に収めたアザデガン油田開発権確保のためにも、イスラム圏諸国の信頼をつなぎとめるためにも、米・イランの国交正常化に向けて仲介に乗り出すべきだ。日本は北朝鮮からは信用されていないが、イランは大の親日国だ。
 アザデガン油田は推定埋蔵量260億バレルで中東最大級。親米派の論客は「核拡散阻止のためには権利放棄もやむなし」と主張するが、二者択一の必要はない。この際イランの真の友人として振舞う道を模索するのが賢明な策である

【『核・原子力・エネルギー問題ニューズ』2006年4月15日号】

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