2006年3月29日
イラン核開発と麻生外相の核武装発言
春まだ遠く、吹雪が舞う3月の下北半島の核燃サイクル施設を再訪、旧知の桝本電事連副会長の案内で本格始動直前の再処理工場を視察した。
ウラン濃縮とプルトニウム再処理は核燃サイクルの核心だ。核保有を目指すイランは自前の核燃サイクル確立を「平和利用の権利」(NPT第4条)と主張して譲らない。「日本に認められてなぜイランはダメなのか」とモツタキ外相は問いかける。桝本氏も日本の新聞記者から同じ質問を受けるという。
日本は原子力平和利用に徹し、IAEA(国際原子力機関)の査察に全面的に協力しているとして、昨年6月、例外的に「統合保障措置」適用の特権が認められた。簡単にいうと日本を信頼し、IAEAの査察は"手を抜いて"、浮いた経費を疑惑の生じやすい国の施設に投入しようという方針だ。IAEAの査察も、NPT体制も、ルーツは日独の核武装阻止にあったことを思えば隔世の感がある。
イラン政府首脳がそんな日本を引き合いに出して自らの核開発を正当化するのを許し、日本人記者の口から同じ質問が出たりする状況を作り出したのは、政府と原子力業界の怠慢以外の何ものでもない。国際社会というのは不言実行の美徳が通じる世界ではない。
ただでさえ国内の反核団体は、六ヶ所村の再処理施設稼動で、毎年、長崎型原爆100発分のプルトニウムが増産され、すでに備蓄ずみの43トン(同5000発分)を加えると、日本はすでに米ロに次ぐ核保有国に相当するという乱暴な論理を展開し、「イランに認められないのと同様に日本にも認めるべきではない」と主張している。さらに彼らは「再処理施設はどの国でも事故続出で危険千万」と訴える。
今回の訪問で印象的だったのは、日本原燃再処理工場のテロ対策強化の徹底ぶりと、中核になるホットラボラトリーに勤務する作業員の緊張と真剣な表情だった。IAEAの査察官も5名常駐していた。六ヶ所村に"手抜き"はない。完全な透明性が確保されている。
他方、イランは、NPT加盟国として全施設がIAEAの保障措置下にありながら、過去18年間、地下施設でウラン濃縮の秘密開発をした"前科"がある。"前科"を暴露したのは国内の反体制組織だった。中東第二の産油国が原子力平和利用を急ぐのは確かに不自然だ。
日本の現場の関係者は真剣そのもので平和利用に徹する努力を払っているにもかかわらず、一部の政治家の無責任な発言が海外の日本核武装論に油を注ぎ、イランと同列に見なされかねない結果を招いているのは皮肉この上ない。
たとえば最近の麻生外相発言だ。昨年12月の訪米中、チェイニー副大統領、ラムズフェルト国防長官相手に「北朝鮮がこのまま核開発を進めるなら、日本も核武装せざるを得ない」と発言したという。日米両政府は厳重な緘口令をしき、これを公表しないことにしたというのだが、タカ派色の強い外相だけに、ワシントンでは当然と受け止められているようだ。
麻生発言以前にも、西村慎吾防衛政務次官(当時)、小沢一郎民主党副代表、福田官房長官(当時)らが核武装の可能性を肯定する発言をしている。毎日新聞のアンケート調査では、自民党議員の3割、民主党議員の1割が日本の核武装を支持している。北朝鮮の"脅威"に触発されたとはいえ何とも異常な反応である。
地元民にとっては安全が最大の関心事であることは当然として、政府も原子力業界も核不拡散問題に無関心すぎる。日本とイランを同列におく議論が横行しているのだ。ブッシュ大統領は、日本を核保有国並みに濃縮と再処理を容認する方針を打ち出したが、これに安住していてはいけない。ブッシュ構想は日本核武装論に拍車をかけかねない"両刃の剣"であることを知るべきだ。
【『電気新聞』2006年3月29日付「時評」ウェーブ欄】