2005年12月21日
イランの核は”解決”不可能
最新の動きで判断する限り、北朝鮮は最終的に核廃棄に応じるが、イランは絶対に応じないだろう。
金正日総書記の関心事は「体制存続」にあり、米国がこれを保証し、支援するなら核保有に固執する理由はない。見返りは、米朝・日朝国交正常化ならびに軽水炉提供を含む大規模経済協力だ。中国と韓国はすでに独自に支援しており、金総書記も朝鮮半島非核化を確約した。南北を含めた朝鮮半島非核化は金日成主席の遺訓でもある。問題は米朝間の相互不信が根深いことだ。米国のホンネは金正日体制打倒にあるからだ。
これに対し、イランはインド型の自前の核燃料サイクル確立を目指しており、廃棄を迫る米欧諸国の圧力に屈する気配はない。12月21日からウィーンで英独仏3国とイランの交渉が4カ月ぶりに再開されるが、進展の見通しは暗い。
「自前の核燃料サイクル」確立とは究極のエネルギー安全保障だ。原油が枯渇して世界第2の産油国としての地位を失っても、国の発展と国民の生活水準向上を確保するための長期計画だとイランは主張する。まさに日本が、渋る米国を説得して原子力政策の根幹に据えた路線である。
米国が渋ったのは、いうまでもなく核拡散につながり兼ねないからだ。計算上40トンのプルトニウム備蓄をかかえる日本が核武装疑惑をたえず突きつけられるのは、これが理論上5000発もの長崎型原爆を製造できるだけの量だからだ。
日本とイランの違いは明白だ。日本は、国民に反核アレルギーが強く、国内法で平和利用に徹することを誓約、民主主義国として政策決定の透明性も高い。NPT(核不拡散条約)体制の"申し子"的模範生で、IAEA(国際原子力機関)も「統合的保障措置」の対象国に指定した。端的に言えば査察を手抜きにしても大丈夫な国というお墨つきを得たのだ。
これに対し、イランはNPT第4条が「原子力平和利用の権利」を保証していることをタテにとって、ウラン転換・濃縮、さらにプルトニウム生産のための重水炉建設に手を染め、あの手この手でIAEAをかく乱、シーソーゲームを繰り返している。IAEAの背後に米国がいることを計算して振舞っている。米国とイランは1980年に断交、敵対関係にある。現在、仲介の労をとり、外交的解決を目指しているのが英独仏のEU(欧州連合)3国だが、イランにすれば時間稼ぎでしかなく、「平和利用のための核燃料サイクル確立」をタテマエにして核保有をめざしていることは間違いない。
理由は、第一に、核保有が国際政治上ステータス・シンボルであり、「中東の民主化」を画策している米国相手に対等に渡り合えるカードだからだ。一滴の石油も出ない北朝鮮がそれを見事に実証しているではないか。イスラム教シーア派総本山を自認するイランにとって「中東の民主化」は迷惑千万。イランはイスラム原理主義を掲げる政教一致の宗教国家であり、最高指導者ハメネイ師が保守派の大統領アフマディネジャドの上に君臨して核開発を命じているのだ。
第二に、米国はイスラエルの核保有を黙認し、これが中東・イスラム世界の緊張の元凶になっているとイランは見ている。核開発が一時かなり進んでいたイラクのフセイン政権は米国の侵攻で消滅、リビアのカダフィ政権は体制保証と引き換えに核開発を放棄したが、両国の企てはいずれもイスラエルの核に誘発されたものだった。中国に対抗して自力核開発を急いだインド、インドに対抗して同時核実験にこぎつけたパキスタンと同じ論理だ。
エルバラダイIAEA事務局長は、ノーベル平和賞受賞記念講演で大国の核軍縮を呼びかけたが、米国が率先して核軍縮に応じ、イスラエルの核廃棄にも乗り出さない限り、イランの核のシーソーゲームは終わらないだろう。
【『電気新聞』2005年12月21日付「時評」ウェーブ欄】