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プロフィール

吉田 康彦

吉田 康彦

1936年東京生まれ
埼玉県立浦和高校卒
東京大学文学部卒
NHK記者となり、ジュネーヴ支局長、国際局報道部次長などを歴任

1982年国連職員に転じ、ニューヨーク、ジュネーヴ、ウィーンに10年間勤務

1986−89年
IAEA (国際原子力機関)広報部長

1993−2001年
埼玉大学教授
(国際関係論担当)
2001-2006年
大阪経済法科大学教授
(平和学・現代アジア論担当)

現在、
同大学アジア太平洋研究センター客員教授

核・エネルギー問題情報センター常任理事
(『NERIC NEWS』 編集長)

NPO法人「放射線教育フォーラム」顧問

「21世紀政策構想フォーラム」共同代表
(『ポリシーフォーラム』編集長)

「北朝鮮人道支援の会」代表

「自主・平和・民主のための国民連合・東京」世話人

日朝国交正常化全国連絡会顧問

学歴・職歴

北朝鮮人道支援の会

  • 設立宣言
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  • 入会申込書
  • 代表・役員
  • ニューズレター

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核・原子力
TOP > 核・原子力 > ラジオフォビア(放射能恐怖症)を克服しよう

2004年8月20日

ラジオフォビア(放射能恐怖症)を克服しよう

 今年の8月9日は象徴的な日だった。長崎で原爆投下の悲劇を繰り返さないための祈念式典が催され、小泉首相が日本の「非核」政策を強調、伊藤一長市長が「核廃絶」を訴えた。同日午後、関電の美浜原発で蒸気噴出事故が起き、作業員4人が死亡した。長崎は年中行事、美浜は予期せぬ事故だったが、両者のルーツはひとつで、放射性核分裂物質が生み出した悲劇という点で同根である。

 長崎の悲劇は、プルトニウム239の爆縮反応で放出される膨大なエネルギーを殺傷兵器として開発した米国が、日本に無条件降伏を促がすために投下した結果生じた。「原子爆弾」(原爆)と呼んでいたが、その後は一括して「核兵器(核爆弾)」と呼ぶようになり、毎年8月、広島・長崎両市長が「核廃絶」を訴える。

 他方、ウラン235を原子炉に閉じ込めて、中性子で制御しながら連鎖反応させ、そこから生じるエネルギーで水を蒸気に変えてタービンを回して発電する仕組みが「原子力発電(原発)」で、関電の事故は、タービン建屋の配管の一部が破断して高温の蒸気が噴き出したというものだ。

 日本語では「核」といえば軍事利用、「原子力」といえば平和利用を意味するが、要するに核分裂反応を人為的に起こしている点で共通だ。だから米国では「核」も「原子力」もエネルギー省が管轄している。欧州諸国も同様である。

 日本は国民の核アレルギーが強く、原子力平和利用に徹しているので、核拡散への関心がうすい。北朝鮮の核にも無頓着だが、海外では日本の核武装に対する警戒心がきわめて強い。これは「核」も「原子力」も同じものという発想が海外では常識である。

 「核廃絶」を唱える日本人が多いが、「核」そのものの廃絶は永遠に不可能であろう。放射性物質の研究と平和利用まで禁止するわけにはいかないからだ。人類は「パンドラの箱」を開けてしまったのだ。

 これに対し、「核兵器(核弾頭)」の廃絶は、核保有国が賛同し、非核保有国が開発と取得を自粛すれば実現する。核保有国の特権を容認したNPT(核拡散防止条約)は不平等性に欠陥があるが、核の水平拡散阻止のために、非核保有国に対し国内の施設をIAEA(国際原子力機関)の「保障措置」の下におくよう義務づけている。課題は運用にあり、査察の目をかすめて秘密核開発を困難にするために、1997年に「追加議定書」が採択され、申告の徹底と対象の拡大、抜き打ち査察の容認などが導入された。

 CTBT(包括的核実験禁止条約)はブッシュ米政権の離脱などで未発効だが、最近、「カットオフ条約」(兵器用核物質生産禁止条約)締結に前向きの姿勢を見せており、一進一退ながら核軍縮が進む動きはある。

 他方、美浜原発事故はあくまでも二次系蒸気配管の破損にすぎず、原子炉内の核分裂反応とは無関係だ。加圧水型原子炉では放射能は遮断されており、水蒸気事故は火力発電所でも起きている。「原発」に対する国民の不信感を招いた関電の管理責任は問われるが、国内の過剰プルトニウム消費のために既定のプルサーマル計画と高速増殖炉「もんじゅ」の運転再開まで棚上げしてしまった福井県の方針は過剰反応だ。

 広島・長崎の原爆投下まもない1947年のWHO(世界保健機関)の専門家会議の報告は、「人類は核と不幸な遭遇をしたためにこれがトラウマ(精神的後遺症)として残り、今後も核分裂反応で生じる放射線に対しては恐怖心を抱き続けるだろう」と分析したが、まさに正鵠を得ていたわけだ。

 私たちは、放射能を「恐ろしいもの」としてではなく、管理が万全なら制御可能で、今後いっそう英知を働かせる必要のある挑戦の対象と受け止めるべきではなかろうか。私たちは「核」と共存するだけでなく、共生しなければならないのだ。

【『電気新聞』2004年8月20日付時評「ウェーブ」欄】

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