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プロフィール

吉田 康彦

吉田 康彦

1936年東京生まれ
埼玉県立浦和高校卒
東京大学文学部卒
NHK記者となり、ジュネーヴ支局長、国際局報道部次長などを歴任

1982年国連職員に転じ、ニューヨーク、ジュネーヴ、ウィーンに10年間勤務

1986−89年
IAEA (国際原子力機関)広報部長

1993−2001年
埼玉大学教授
(国際関係論担当)
2001-2006年
大阪経済法科大学教授
(平和学・現代アジア論担当)

現在、
同大学アジア太平洋研究センター客員教授

核・エネルギー問題情報センター常任理事
(『NERIC NEWS』 編集長)

NPO法人「放射線教育フォーラム」顧問

「21世紀政策構想フォーラム」共同代表
(『ポリシーフォーラム』編集長)

「北朝鮮人道支援の会」代表

「自主・平和・民主のための国民連合・東京」世話人

日朝国交正常化全国連絡会顧問

学歴・職歴

北朝鮮人道支援の会

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核・原子力
TOP > 核・原子力 > オバマ登場で核廃絶は実現するか<世界日報>

2009年1月28日

オバマ登場で核廃絶は実現するか<世界日報>

米国に初の黒人大統領が登場した。世界は、金融恐慌克服、差別撤廃、貧困追放、中東和平朝鮮鮮半島非核化、核廃絶の希望をオバマに託している。

 

最後の核廃絶は可能だろうか。たしかにオバマは遊説中、「われわれは核兵器のない世界を求める」と明言、北朝鮮、イランの指導者とも直接会談すると意気込んでいたが、当選後は軌道修正、既存の枠組みを尊重し、交渉の経過を重視する姿勢に転じた。このことは、政権交替しても外交上の急激な変化は困難であることを示している。独裁国でもないかぎり、トップの決断で事態が一変するというものではない。

 

ブッシュ前政権は力を背景に単独で核拡散阻止を試みたもののさしたる成果をあげられなかったのに対し、オバマ新政権は国連重視の国際協調主義を鮮明にしているので、核問題でも徐々に成果をあげていくものと予想される。

 

核開発・保有にいたる5つの動機

国際社会がオバマに希望を託すのは、遊説中の発言に加えて核廃絶論者として知られるハーバード大学教授ジョン・ボルドレンをホワイトハウスの科学担当補佐官に任命し、ヘンリー・キッシンジャーら米政界の大物4人が最近2回にわたって『ウォールストリート・ジャーナル』紙に共同論文を発表、核抑止力を否定し、核廃絶に至る道筋を示したからだ。

 

世界を展望すると、米・ロ・英・仏・中の5カ国がNPT(核不拡散条約)公認の核保有国。NPT非加盟で核保有したのがイスラエル、インド、パキスタン。NPTを脱退して核保有宣言したのが北朝鮮、秘密核開発を続けているのがイラン。過去に秘密保有して廃棄したのが南アフリカ。一時、開発を試みたのがイラクとリビア。現在なお核保有の誘惑に駆られていると見られるのがシリアだ。

 

しかし、1963年に暗殺されたJ.F.ケネディが大統領在任中、「1975年までに15ないし20カ国が核保有国になるだろう」と予言していたことからすれば現状はまだましである。まがりなりにもNPTで歯止めがかかり、IAEAの査察システムが機能してきたからだ。

 

核開発の動機には、(1)実戦における武器、(2)抑止力(3)ステータス・シンボル(4)ナショナリズムの充足(5)対米交渉の外交カード、以上5通りがある。具体的に説明すると、(1)は米国が実証ずみ。(2)は現在NPT公認の核保有国がいずれも固執している効用。イスラエルも該当する。(3)はフランス、中国、インド、パキスタンにあてはまる。(4)は印パ両国に強く、イランの動機にもなっている。(5)はとくに北朝鮮の「瀬戸際外交」を特徴づけている。イランにはこの要素もある。したがって、同時並行でこれらの動機を減らす努力が不可欠だ。幻想をいだいてはならない。

 

    

まず米ロ間で核軍縮を

現在、米ロ両国が保有する核弾頭だけでも2万発近くあり、他の核保有国と比べて二桁も多い。オバマ政権がまず取り組むべき課題は、1991年に署名され、今年一杯で期限切れとなるSTART?(第一次戦略兵器削減条約)のあとの削減目標設定がある。両国は戦略核弾頭をそれぞれ6000発に半減することで合意、その後START?でさらに3000−3500発への削減を取り決めたが、議会が批准せず未発効。これとは別に米ロ間には2012年までに双方の戦略核を1700−2200発に減らすとした「モスクワ条約」が存在するが、同条約にはSTART?のような検証規定がなく、実効性に欠ける。

 

核廃絶のためには核軍縮を進めねばならない。オバマの就任早々から核軍縮が一気に進むと期待するのは甘い。軍縮は主たる交渉相手のロシアが交渉に同意してはじめて進展するものだが、検証をめぐる合意には時間がかかる。しかもロシアはこのところ“大国志向”を強め、米国への対抗意識をむき出しにしている。

 

次に多国間ではCTBT批准とカットオフ条約締結を

CTBT(包括的核実験禁止条約)はすべての核実験を禁じるもので、1996年に締結され、180カ国が署名、146カ国が批准したが、条約発効のためには公認の核保有国、事実上の保有国、核開発疑惑国、原発運転国など44カ国の批准が必要であり、締結後12年以上経つが、未発効だ。

 

未発効の元凶は米国自身にある。クリントン政権はいち早く署名したものの、99年、共和党多数派の米上院が批准案を否決、ブッシュはこれを放置し、小型核弾頭による先制攻撃計画まで立てた。

 

オバマはCTBT批准促進を表明しており、議会に強い反対はないので批准案が通ることは確実だ。英仏ロの三国はすでに批准、中国も米国の出方を待って批准の方針。あと問題なのは、インド、パキスタン、北朝鮮が未署名・未批准。イスラエルとイランは署名したが、未批准。これらの諸国を説得して署名・批准に持ち込めるかどうかが注目点だ。

 

もう一つ期待できるのが、ジュネーヴ軍縮会議で15年来の懸案となっているカットオフ条約(FMCT)締結。これは「核兵器用核分裂性物質生産禁止条約」の略称で、これが締結され発効すると兵器用の高濃縮ウランとプルトニウムの生産が止まり、核兵器製造は事実上できなくなる。米ロ英仏はすでに生産停止を宣言、中国も交渉開始に同意している。あとはインド、パキスタン、イスラエル、イラン、北朝鮮が対象になる。右の二条約が発効すれば大きな前進となるが、過剰な期待は禁物である。 【『世界日報』サンデービューポイント2009年1月25日】

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