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プロフィール

吉田 康彦

吉田 康彦

1936年東京生まれ
埼玉県立浦和高校卒
東京大学文学部卒
NHK記者となり、ジュネーヴ支局長、国際局報道部次長などを歴任

1982年国連職員に転じ、ニューヨーク、ジュネーヴ、ウィーンに10年間勤務

1986−89年
IAEA (国際原子力機関)広報部長

1993−2001年
埼玉大学教授
(国際関係論担当)
2001-2006年
大阪経済法科大学教授
(平和学・現代アジア論担当)

現在、
同大学アジア太平洋研究センター客員教授

核・エネルギー問題情報センター常任理事
(『NERIC NEWS』 編集長)

NPO法人「放射線教育フォーラム」顧問

「21世紀政策構想フォーラム」共同代表
(『ポリシーフォーラム』編集長)

「北朝鮮人道支援の会」代表

「自主・平和・民主のための国民連合・東京」世話人

日朝国交正常化全国連絡会顧問

学歴・職歴

北朝鮮人道支援の会

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核・原子力
TOP > 核・原子力 > 正念場迎える地球温暖化対策/決め手は原発・新エネ・環境税

2007年10月14日

正念場迎える地球温暖化対策/決め手は原発・新エネ・環境税

 人類がみずから蒔いた種である地球温暖化を阻止できるかどうかが、年末からいよいよ正念場を迎えることになる。

 安倍首相の突然の辞任表明で自民党総裁選がいわば“飛び込み”で行われ、福田新内閣が発足、国内政局があわただしく展開した9月下旬、従来は地球環境問題に冷淡だったブッシュ政権下のアメリカで相次いで重要な会合が開かれた。

 まず潘基文国連事務総長の呼びかけで「気候温暖化に関するハイレベル会合」がニューヨークで開催され、世界80カ国の首脳が提案を持ち寄り、対策を語り合った。そのあと米政府が「主要(CO2)排出国会議」をワシントンに招集、そのフォローアップを行った。この二つの結果、次のようなコンセンサスができあがった。

(1)今年12月インドネシアのバリ島で開催されるCOP13(気候温暖化枠組み条約第13回締約国会議)で、ポスト京都の削減目標、つまり「京都議定書」で定められた期間(2008年から12年まで)以降の温室効果ガスの新しい削減目標設定の交渉を始める必要があること

(2)そのための新しい枠組み作りの交渉期限は2009年末までとすること

(3)長期的目標については、2050年までに排出量を現状比で半減するという日本の「美しい星50」構想を軸として、来年7月の「洞爺湖サミット」で合意形成に努めること。

 しかし、一皮むくと各国の利害は必ずしも一致しておらず、国際的合意成立に至る前途は多事多難の茨の道である。

 まず「京都議定書」から離脱したブッシュ政権が急速に進む地球温暖化に危機感を強め、国際交渉の場に戻ってきたことは喜ばしい。しかし削減目標を国別に割り当てる、いわゆる「京都」方式には反対しており、大幅な削減枠を設けて目標達成を義務づけようとするEU(欧州連合)諸国と対立している。

 EUはすでに2020年までに1990年比の削減目標を一律20%とすることで合意している。

「京都議定書」における目標は8%だったから、その2倍半というきびしさだが、ことし3月の首脳会議では風力・太陽光などの再生可能エネルギー普及で乗り切る方針を確認した。

 ブッシュ政権は2009年1月には退陣するが、削減枠は各国の自主性に任せるよう主張、米産業界の意向を反映して技術開発による温室効果ガス低減化、途上国への技術移転、省エネ努力の強化などを呼びかけている。

 日本の立場は米欧の中間だが、EU諸国のきびしい削減目標には同調できない現状から、ブッシュ政権の自主性尊重、エネルギー効率改善などの技術開発の重視を歓迎している。

 しかし日本のこの立場は矛盾している。なぜなら、去る6月のハイリゲンダム・サミット(主要先進国首脳会議)で安倍前首相が提唱したのが「美しい星50」で、2050年までに現在比で温室効果ガス排出を半減する提案をしているからだ。しかも提唱国として来年7月の「洞爺湖サミット」で、これを確認するのは国際的合意になってしまったのだ。

 あと43年間に地球全体で半減というのは、容易になせる業ではない。そもそも「京都議定書」採択の議長国である日本が、2012年までの削減目標6%を達成すのは絶望的になっている。削減どころか、過去10年間に8%増大し、残り4年間の削減目標は14%の拡大しているのだ。とうてい達成できない状況になっている。日本と同じ6%の削減目標を課せられたカナダは早々とギブアップ宣言をしてしまった。日本は往生際が悪いだけである。

 福田内閣も「美しい星50」を踏襲する方針を表明しているが、日本が50%の削減を実現するには、脱石油・脱化石燃料と省エネのための抜本的な対策を講じなければならない。

 脱化石燃料の決め手は原発増設と再生可能エネルギーの大幅普及以外にない。高速増殖炉「もんじゅ」の運転再開も急ぎ、核燃料サイクルの本格稼動が不可欠となる。現在30%そこそこの原発依存率を40%程度まで引き上げる必要があろう。

 風力、太陽光、バイオマスなどの再生可能エネルギーを日本では「新エネルギー」と呼んでいるが、決して新しいエネルギーではない。風力発電のための風車の技術も、太陽光発電のためのシリコン製造技術は世界のトップレベルにあるにもかかわらず、電力供給比率は3%に満たない。EU諸国並みの普及努力をすべきだ。

 あとは省エネだが、EUの経験から最も有効なのは環境税・炭素税の導入である。日本では財界の反対で実現していないが、いまや「待ったなし」の緊急事態だ。断固、導入すべきだ。最新の内閣府の調査では、日本の世論も環境税導入に賛成しつつある。

 最後の「前途多難」の原因は途上国の動向だ。中国・インドなどの大口排出国は「京都議定書」では削減の対象外になっているが、とくに中国はエネルギー消費の急増で米国と並ぶ世界最大の排出国、インドが世界第4位の日本を抜く日も近く、無視できない存在となっている。

 ところが、中国もインドも、「現在の地球温暖化の責任は先進国にある」として一律削減の枠組みに加わるのを拒否、先進国が京都議定書の削減目標を達成するのを見届けてから態度表明する意向を示している。先進国と途上国の利害対立、これが最大の難関になっている。

【『世界日報』2007年10月14日】

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