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プロフィール

吉田 康彦

吉田 康彦

1936年東京生まれ
埼玉県立浦和高校卒
東京大学文学部卒
NHK記者となり、ジュネーヴ支局長、国際局報道部次長などを歴任

1982年国連職員に転じ、ニューヨーク、ジュネーヴ、ウィーンに10年間勤務

1986−89年
IAEA (国際原子力機関)広報部長

1993−2001年
埼玉大学教授
(国際関係論担当)
2001-2006年
大阪経済法科大学教授
(平和学・現代アジア論担当)

現在、
同大学アジア太平洋研究センター客員教授

核・エネルギー問題情報センター常任理事
(『NERIC NEWS』 編集長)

NPO法人「放射線教育フォーラム」顧問

「21世紀政策構想フォーラム」共同代表
(『ポリシーフォーラム』編集長)

「北朝鮮人道支援の会」代表

「自主・平和・民主のための国民連合・東京」世話人

日朝国交正常化全国連絡会顧問

学歴・職歴

北朝鮮人道支援の会

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核・原子力
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2007年7月01日

日印原子力協力を推進せよ

ブッシュ大統領の二大ダブルスタンダード

 ブッシュ大統領は、在任中、核政策で二つの顕著なダブルスタンダードを平然と適用したことで記憶されるであろう。

 ひとつは北朝鮮とイランの核開発に対する相反するアプローチだ。北朝鮮はNPT(核不拡散条約)から脱退して核実験を実施し、少なくとも数個分の核弾頭を保有していることが明白であるにもかかわらず不問に付し、譲歩に譲歩を重ねて外交交渉で処理しようとしているのが昨今のブッシュ政権。しかるにイランに対してはNPT第4条が「奪い得ない権利」として保証している「原子力平和利用」を認めないと宣言、核開発阻止のためには空爆も辞さずという強硬な態度を打ち出しているのは周知のとおりだ。

 もうひとつは対印パ政策で、事実上の核保有国であるインドとは協力し、パキスタンとは非協力を貫くという対照的対応である。

米印原子力協力の波紋

 ブッシュ政権がNPT非加盟国のインドと原子力平和利用で協力すると電撃的発表をしたのは2005年7月。ブッシュ大統領はマンモハン・シン首相をワシントンに迎えて共同声明を読み上げ、「時代は変わり、人びとの考えも変わる」と言ってのけた。

 NPT体制を否定し、インドを核保有国として容認するものとして、米議会の野党・民主党はじめ、NPTを金科玉条とする日本などの同盟国は戸惑い、不信感を露わにしたが、その後も作業は順調に進み、2006年3月、今度はブッシュがニューデリーを訪問して「米印原子力協力協定」に署名した。同協定は民主党議員も賛成にまわって、06年12月承認された。

 ブッシュ大統領は、(1)人口11億のインドのエネルギー需要急増に応えるにはCO2を排出しない原子力以外になく、米印協力は地球規模の化石燃料消費削減に貢献する (2)米国製軽水炉輸出が可能となり、原子力産業の発展と雇用の創出にも貢献する (3)インドの核不拡散政策に変化はなく、国際核不拡散体制の強化につながる、の3点を効用として挙げた。

 しかし米印対立はまだ残っている。?インドが核実験を単なる凍結でなく、未来永劫に中止すること ?使用済み燃料を再処理しないことの2点を米側が要求しているためで、これをウラン燃料供給の条件にしているのに対し、インドとしては、状況がどう変化するやも知れず、これを協定履行の前提条件にするのは受け入れ難いとしている。

 二番目は、日本が経験ずみだ。米国は日本の再処理に当初難色を示したが、日本はNPT体制下の非核兵器国としてIAEA(国際原子力機関)の厳重な保障措置下にあり、軍事転用の可能性が全くないことから、日米原子力協定改訂の際、「包括的同意」の名目でしぶしぶ承認をとりつけた。インドの場合も、米国産燃料に関してはIAEA保障措置下におくことで解決可能だが、燃料供給を完全に他国に依存することにはインド側に抵抗がある。それよりもインドとしては、核実験禁止を米国に誓約させられるのには反発が強い。その要因は印パ関係にある。

 米国はA.Q.カーン博士の「核の闇市場」で悪名を馳せたパキスタンには協力を拒否。これに対しインドはNPT非加盟とはいえ、一貫して不拡散政策を堅持してきたというのがブッシュ政権の判断基準だが、この「差別」にパキスタンはライバル意識を燃やし、南アジア情勢はかえって不安定になっている。

NSGの承認は「時間の問題」

 もうひとつの障害は、1974年に最初の核実験をしたインドを封じ込めるために核関連技術先進国を結集して発足させたNSG(原子力供給グループ)の合意を、米国はまだ取り付けられないでいることだ。全会一致の原則のため、スウェーデン、日本などがNPTを骨抜きにするものとして難色を示しているためだが、核保有国の英国、ロシア、フランス、中国が米印協力を支持し、それぞれ自国の原子炉輸出に乗り出し、もはや流れは止められない状況になっている。ブッシュに続けとばかりに、シラク、胡錦涛、プーチンが相次いで訪印、原子力協力協定を締結した。全核保有国がNSGを形骸化してしまっている。

NPT至上主義に固執して自らの手足をしばる日本

 そうしたなかで、日本の世論は圧倒的に「NPT堅持、米印協力反対」だが、世界の流れは「容認」にある。NPTが骨抜きになるというのは杞憂だ。骨抜きというなら、とっくになっている。要は、核拡散が新たに発生するかどうかだ。NPTよりもひとまわり大きな「国際核不拡散体制」という枠組みで考えるべきだ。NPTを金科玉条にすべきではない。

 インドは、5大国の核保有を容認し、核軍縮を単に精神的義務としてしか規定していないNPTの不平等性に抗議して非加盟を貫き、独自の核開発を進めたのだが、本来は核実験の全面禁止と核兵器廃絶の旗振り役を務めていたのだ。NPT成立当時、中印関係が緊張していたことも考慮する必要がある。いずれにせよ核保有国が新しく増えるという話ではない。

 日印関係でいえば、インドは大の親日国であり、将来の拡大東アジア共同体構想の重要なパートナーであり、国連安保理常任理事国候補としても提携関係にある。8月下旬には安倍首相が(参院選後も留任していればの話だが)インドを公式訪問する。その際、日印原子力協力に踏み切り、とくに軽水炉の安全運転技術で協力することを提案したい。

NERIC NEWS 2007年7月号

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