2007年5月01日
安倍首相よ、拉致の全情報を公開せよ
安倍首相は拉致問題の徹底究明を求め、圧力一辺倒の政策で北朝鮮を追いつめてきたつもりのようだが、成果はまったく挙がっていない。
首相は「拉致問題の解決なくして日朝国交正常化なし」と繰り返し、「解決」とは、(1)北朝鮮が死亡したとする8人全員の生還を実現し、(2)実行犯引渡しを要求し、(3)拉致犯罪の全容を明らかにすることだという。ことし2月の6者協議における「北京合意」のあとは、「解決」の代わりに「進展」と言い換えたが、何をもって「進展」とするかは日本政府が判断するのだという。
これに対し、北朝鮮側は、(1)「8人死亡」は既定の事実 (2)実行犯はすでに処刑済み (3)拉致は「特殊機関の英雄主義・妄動主義の仕業」であり、金正日総書記が小泉首相に対し謝罪している、として「拉致問題は解決ずみ」の立場を変えていない。
しかし、8人の死因や死亡時期には不自然な点が多く、私自身、「解決ずみ」とする北朝鮮の主張には無理があると思うが、8名死亡の事実を裏づける確証が存在しないことをもって「生存」の根拠とし、全員救出を叫ぶ日本の主張にも無理がある。「死亡の確証がないから生存していることにはならない」からだ。横田めぐみさんの遺骨をニセと断定した日本政府の根拠も薄弱である。遺骨の鑑定にあたって吉井富夫・帝京大学講師(当時)もニセとは断定していないことを英国の科学雑誌『NATURE』で認めている。
日朝双方の当事者から入手した情報によれば、2004年11月の日朝実務者協議で、北朝鮮側は乏しいながらも集められる限りの資料と情報を日本側に提供し、日本側もそれを評価、両国は年内にも国交正常化交渉再開で非公式に合意していたにもかかわらず、安倍晋三氏の横ヤリでつぶされ、鑑定に持ち込まれた横田めぐみさんの遺骨が政治的判断でニセと断定されたのだという。その証拠に、協議に臨んだ藪中三十二団長は、帰国早々は、「これで拉致問題の90%は解決した」として、「北朝鮮側の誠意ある対応に感謝」していた。ところが、その藪中氏が遺骨の鑑定後は貝のごとくダンマリを決めてしまったのだ。
「実は、小泉首相以下、当時の日本政府幹部は横田めぐみさんを含めて8人が死亡していることを知っている。知っていて"全員生還""全員救出"と叫ぶことで国民感情に迎合し、国交正常化を引き伸ばしているのだ」と外務省筋が筆者に語ってくれた。
「安倍内閣は拉致問題についての決定的情報を国民に隠して政治目的に利用している。それは植民地時代の『過去の清算』をしないで済ませようという謀略だ」と、最近、平壌で再会した宋日昊大使は悲憤慷慨していた。安倍首相の背後に、そうした謀略を企んでいる勢力が存在することは確かだ。
いずれにせよ、われわれは日本政府に対し、横田めぐみ遺骨問題を含めて拉致問題に関する全情報の公開を要求すべきだ。
【『ポリシーフォーラム』2007年5月1日号】