2006年9月01日
核実験強行に追い込まれる金正日総書記
7月5日の7発のミサイル発射実験はどうやら無駄ダマに終わったと見て、北朝鮮は次なる手を考えているようだ。初の地下核実験だ。
ミサイル発射はどこの国でもやっている実戦演習で、カラのロケット(広義ではミサイルも含まれる)を日本海の、しかもロシア沿岸の公海上の特定海域(「北」は事前に無線できちんと警告を出している)に整然と"着水"(着弾ではない!)させたもので、国際法上なんらの違法性はない。世界の47カ国がミサイルを開発・保有し、実験をくりかえしている。相前後して、インド、イラン、ロシアも発射実験をしていているではないか。
拉致問題の膠着で「北朝鮮憎し」に凝り固まっているとはいえ、これを「国際平和と安全に対する脅威」と認定させて、安保理でいきなり「制裁」の対象にしようとした日本の突出ぶりは実は国連外交界のお笑い草になったのだ。日本政府は「孫悟空」(ブッシュ政権)の手のひらの上で踊ったサルだった。
ネオコン強硬派のボルトン米国連大使が「わが意を得たり」と日本を挑発、哀れだったのは謹厳実直な大島賢三大使。最後は頼みのボルトンにもハシゴを外され、ピエロになった。ところが日本政府は最後まで、「採択された北朝鮮非難決議は拘束力があり、実質的に制裁と変わらない」と強弁し続けた。あの程度の文言の安保理決議は年間100本以上採択されており、加盟国が決議に従わないからといってお咎めはない。ハドリー米大統領補佐官はわざわざ安倍官庁長官に「日本外交の大勝利だ」などと誉め殺しの電話をかけてきた。罪作りなことこの上ない。
問題はミサイル発射の効果だが、7発発射に要した費用(73億円=韓国紙推定)は日本海のもくずとなり、ブッシュ政権が金融制裁を解除する意思はさらさらなく、米朝二国間対話に応じる気配もない。日本だけが単独制裁に踏み切った結果、貿易も送金もできず、国内で締めつけられて困っているのは在日朝鮮人だ。朝鮮学校の生徒が心ない右翼にいやがらせされたりしているのも理不尽だ。しかし金正日総書記の念頭には米国しかない。
次の手は、いよいよ核実験ということになる。昨年4月にも核実験準備説が流れたが、中韓両国が米朝双方を説得して6者協議再開に持ち込み、実施はされなかった。直後に訪朝した私に軍幹部は「核抑止力は実験しないと立証されない。いずれ実験せざるを得ない」と予告していた。いよいよその時だと決断したようだ。はたして実験にゴーサインを出すか金正日、本格的制裁に動くか日米。対決の瞬間は9月中にも訪れるだろう。
しかしイラクでフセイン政権を倒したように金正日体制を武力で打倒するわけにはいかない。朝鮮半島は大混乱になり、中韓が絶対反対だ。としたら対話による危機回避、問題解決しかないではないか。ブッシュ政権よ、対話せよ。安倍晋三新首相よ、日朝国交正常化交渉を再開せよ。
【『ポリシーフォーラム』N0.30/2006年9月1日号】