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プロフィール

吉田 康彦

吉田 康彦

1936年東京生まれ
埼玉県立浦和高校卒
東京大学文学部卒
NHK記者となり、ジュネーヴ支局長、国際局報道部次長などを歴任

1982年国連職員に転じ、ニューヨーク、ジュネーヴ、ウィーンに10年間勤務

1986−89年
IAEA (国際原子力機関)広報部長

1993−2001年
埼玉大学教授
(国際関係論担当)
2001-2006年
大阪経済法科大学教授
(平和学・現代アジア論担当)

現在、
同大学アジア太平洋研究センター客員教授

核・エネルギー問題情報センター常任理事
(『NERIC NEWS』 編集長)

NPO法人「放射線教育フォーラム」顧問

「21世紀政策構想フォーラム」共同代表
(『ポリシーフォーラム』編集長)

「北朝鮮人道支援の会」代表

「自主・平和・民主のための国民連合・東京」世話人

日朝国交正常化全国連絡会顧問

学歴・職歴

北朝鮮人道支援の会

  • 設立宣言
  • 活動実績
  • 入会申込書
  • 代表・役員
  • ニューズレター

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北朝鮮
TOP > 北朝鮮 > 6者協議も日朝交渉も膠着状態

2006年5月01日

6者協議も日朝交渉も膠着状態

6者協議は米金融制裁で行き詰まり
 北京の6者協議は、昨年9月19日の「共同声明」で朝鮮半島非核化に至るロードマップを示した解決策で合意したあと、11月に第5回会合が形ばかり開かれて以来、半年間膠着状態にある。原因は、米国が北朝鮮の「にせドル札紙幣」印刷取締まりと称し、マネーローンダリング(不正資金の洗浄)の拠点となっているとして、マカオの「バンコ・デルタ・アジア」の北朝鮮関連口座凍結を命じ、いわゆる金融制裁に乗り出したことにある。これに対し北朝鮮は金融制裁解除を協議への復帰の条件として主張。しかし米国は解除の意思はなく、無条件復帰を呼びかけ、対立状態が続いている。いずれにも譲歩のきざしは見えない。
 
 4月10−11日には、東京で、カリフォルニア大学サンディエゴ校主催の6者協議の学術会合が開かれ、個別の非公式接触が行われたが、これに出席したクリストファー・ヒル米首席代表と金桂冠・外務次官(北朝鮮首席代表)は立ち話をしただけで、主催者が企図した米朝対話は実現しなかった。私は、胡錦涛・中国国家主席の訪米に合わせて、遅くとも4月中に6者協議は再開されると判断、前号で予測記事を掲げたが、期待は裏切られた。現時点で、6月再開説もあるが、再開されても進展は期待できない。

 米国が金融制裁を撤回しないのは、ブッシュ政権内部の対「北」強硬派が影響力を増し、国務省中心の交渉推進派を牽制しているためと見られる。
 強硬派の中心はチェイニー副大統領、ラムズフェルド国防長官だが、議会の共和党議員も強硬派が多数を占め、彼らは、にせドルばかりでなく、にせタバコ、麻薬密輸などの「不正」行為を摘発して北朝鮮を締め上げるとともに、人権抑圧でも攻勢をかけ、金正日体制転覆(少なくとも「無力化」)に持ち込もうと目論んでいる。

 そうした中で、中国と韓国は「北」を支え、経済再建に全面的に協力する方針だ。日本のメディア報道では、「北」が孤立しているような印象を受けるが、実際は、6者協議では日米が孤立し、中朝韓が足並みを揃える構図になっている。胡錦涛主席訪米の際も金融制裁解除を要望したが、ブッシュ大統領は拒否したという。中国は「北」を改革・開放に導こうとしているが、金正日総書記は慎重で、とりあえず復権させた義弟の張成澤に計画立案と実施を指示したとされている。韓国の盧武鉉政権は対「北」全面支援を続け、南北対話は軌道に乗っている。6月には金大中前大統領、10月には盧武鉉大統領の訪朝が噂されている。過去1年間に訪朝した韓国人は10万人にのぼる。

拉致問題の"国際化"で勢いづく日本の保守勢力
 ブッシュ政権の対「北」強硬姿勢で勢いづいているのは、拉致問題徹底解明を掲げて日朝国交正常化に反対している日本の右翼・保守勢力だ。日本の警察当局は、本年冒頭、「北」の元工作員・辛光洙らを日本人拉致実行犯として特定、その後、国際手配し、引渡しを要求している。これは、小泉退陣前の再々訪朝に供えて、国内世論沈静化のための対「北」取引材料と解されているが、「北」はこの要求に応じる意思はないようだ。

 そこへさらに、「北」の態度をかたくなにしかねない材料が出てきた。横田めぐみさんの夫とされる「キムチョルジン」なる人物が、1978年、相前後して韓国の西海岸から拉致された韓国人高校生「金英男」氏であることが、家族から採取した資料のDNA鑑定でほぼ特定されたというのだ。日本の反「北」勢力は、これによって、拉致問題にとかく無関心で、冷淡な韓国の世論を喚起し、徹底解明のための日韓共闘に持ち込もうと目論んでいる。ブッシュ政権にとっても、拉致問題は金正日政権の「人権侵害」を攻撃できる格好の材料だ。

 折から訪米し、米議会で日本人拉致の実態を証言、米国の協力を訴えた横田早紀江さん一行が、4月28日、ホワイトハウスを訪問、ブッシュ大統領に会見するというおまけまでつき、拉致問題を"国際化"して「北」を追い込むという右翼・保守派の作戦は成功したかに見える。しかし韓国は必ずしも同調していない。この直前に平壌で開催された南北閣僚会議で韓国側は「金英男氏」返還を要求したが、会談後の共同声明では「朝鮮戦争後の消息不明者問題解決で協力することにした」と抽象的に言及しているにすぎない。なにしろ南北には1000万にのぼる離散家族が存在しているのだ。

小泉再々訪朝は実現するか
 そうした中で、9月退陣前の小泉再々訪朝の噂が流れている。5月のゴールデンウィーク説、通常国会閉幕後の6月説、公式訪米後の7月説などがあるが、問題は、どのような形でなら拉致の"幕引き"が可能か、にかかっている。
 
 小泉首相が、引退前に、外交史に名を残す花道として日朝国交正常化の実現に意欲を燃やしていることは疑いない。「北」が期待するのは「平壌共同宣言」実施、つまり総額100億ドルと推定される日本の経済協力だが、それが実現するためには、? 6者協議再開と米朝対話復活、? 拉致問題をめぐる「北」の譲歩(辛光洙引渡しならびに拉致生存者がいれば、その彼らの帰国) の2条件が不可欠だ。現時点では、?も?も不透明、見通しはむしろ悲観的といわざるを得ない。靖国神社参拝とは違って、小泉純一郎ひとりで決断できる話ではない。いずれにせよ、これから先、2−3カ月の動きがカギを握っている。 

【『北朝鮮人道支援の会ニューズレター』NO.41/2006年5月1日号】

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