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プロフィール

吉田 康彦

吉田 康彦

1936年東京生まれ
埼玉県立浦和高校卒
東京大学文学部卒
NHK記者となり、ジュネーヴ支局長、国際局報道部次長などを歴任

1982年国連職員に転じ、ニューヨーク、ジュネーヴ、ウィーンに10年間勤務

1986−89年
IAEA (国際原子力機関)広報部長

1993−2001年
埼玉大学教授
(国際関係論担当)
2001-2006年
大阪経済法科大学教授
(平和学・現代アジア論担当)

現在、
同大学アジア太平洋研究センター客員教授

核・エネルギー問題情報センター常任理事
(『NERIC NEWS』 編集長)

NPO法人「放射線教育フォーラム」顧問

「21世紀政策構想フォーラム」共同代表
(『ポリシーフォーラム』編集長)

「北朝鮮人道支援の会」代表

「自主・平和・民主のための国民連合・東京」世話人

日朝国交正常化全国連絡会顧問

学歴・職歴

北朝鮮人道支援の会

  • 設立宣言
  • 活動実績
  • 入会申込書
  • 代表・役員
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北朝鮮
TOP > 北朝鮮 > イランの核開発は北朝鮮とは大違い

2006年2月27日

イランの核開発は北朝鮮とは大違い

 ウラン濃縮をめぐるロシアとイランの交渉が予想通り平行線を辿っている。イランは自力核開発計画を絶対に譲らない。

 このあと、3月6日からのIAEA(国際原子力機関)が改めて国連安保理への付託を決め、舞台は安保理に移ることになろうが、安保理が経済制裁を発動したくても常任理事国の足並みがそろわず、イランの核開発を止めさせる手立てがないという手詰まり状況に変わりはない。

 イランはウラン濃縮を自国内で実施し、核開発技術を取得し、「核燃料サイクル」を確立することが目的で、この基本政策を変更する意図は全くない。目指すは、核保有国となり、中東の大国としてにらみを利かせ、米国主導の"中東民主化"を阻止することにある。

 その背景にはイスラム原理主義にもとづく独自の世界観と価値観がある。イランは人口7000万、紀元前500年いらいのペルシア王国の伝統を受け継ぎ、1979年、イスラム革命によって親米のパーレヴィ王朝を打倒してからは、宗教国家として欧米のキリスト教文明に対峙する存在となっている。サミュエル・ハンティントン教授が冷戦終結後の世界に出現すると予言した「文明の衝突」の一方の旗頭なのだ。

 しかも、中東ではサウジアラビアに次いで第2の産油国、確認埋蔵量では原油も天然ガスもロシアに次いで世界第2位だ。日本は原油輸入の15%をイランに頼っている上に、アザデガン油田の開発権を取得、とうてい経済制裁には同調できない。拒否権をもつ安保理常任理事国の中国もすぐ南のヤダバラン油田の採掘権を確保、液化天然ガスの輸入も増大しており、イラン依存度を強めている

 そうした先進国、石油消費国の弱みを知り、読み込んで、イランは強気に出ているわけだ。そのイランは、将来、石油資源が枯渇したあとのエネルギー源の確保にあると、核開発の理由づけをしているが、それがいまひとつ説得力ももたないのは、資源枯渇は少なくとも数十年先の話であり、真の意図を隠しているからだ。

 原子力平和利用、つまり原子力発電は巨大ハイテク産業で、原子炉設計、建設、運転には10年の歳月と数十億ドルの資金を要するが、国内にウラン資源があり、採掘・転換・濃縮・燃料加工、さらに使用済み燃料再処理(プルトニウム生産)の技術を取得すれば、いつでも軍事転用、つまり核弾頭生産が可能である。これを阻止するために、核兵器保有国はNPT(核拡散防止条約)加盟国にIAEA(国際原子力機関)の査察受け入れ(保障措置という)を義務づけているわけだ。その代わり、NPTは第4条で平和利用(発電)の権利を保証しているのだが、米国はさまざまな口実をもうけて、一部の国には認めよとしないのだ。

 このため、NPTに加盟せず自力核開発をした国(インド、パキスタン、イスラエル)、NPTに加盟しながら秘密裏に核開発をしている国(イラン、北朝鮮《現在は脱退》、過去に南アフリカ)、一時試みて断念した国(イラク、リビア、ブラジル、アルゼンチン)があり、NPT体制は完璧に機能せず、空洞化している。NPTに違反した場合は国連安保理決議で制裁することになっており、イランがその一歩手前にあるわけだが、北朝鮮の場合を含めて過去に制裁が実施された例はない。

 ちなみに日本はNPT加盟の模範生で、全施設をIAEAの保障措置下において平和利用に徹しながら「核燃料サイクル」をほぼ確立した世界唯一の非核保有国だが、燃料として再処理したものの、燃料消費のメドがたたず、未使用のプルトニウムが貯まる一方で、核武装を企図しているのではないかと海外から疑惑の目で見られているのは衆知の通りだ。米ロ英仏中の核兵器保有国はすべて「核燃料サイクル」を国内で確立している。

 以下、イランと北朝鮮を比較してみよう。

 唯一の共通点は、ともにNPT第4条の「平和利用の権利」を主張していることだが、両者の思惑は根本的に異なる。イランは冒頭で述べたように、あくまでも「核燃料サイクル」の自力開発を通して核保有を目指しているのに対し、北朝鮮は、平和利用を唱えながら寧辺で使用済み燃料を再処理してプルトニウムを抽出、ある程度溜め込んだ段階で核保有宣言をして米国を交渉のテーブルに引き出す「手段」に利用、その交渉戦術が功を奏して北京の6者協議開催につながっていることだ。

 北朝鮮にとって、「核」は貴重な対米交渉のカードだ。イランと違って石油が一滴も出ない朝鮮が超大国の米国と対等に渡り合えるのは、ひとえに「核」がもつ神通力にある。記録で検証する限り、金日成主席は、すでに1950年代に原子力平和利用の着目し、大量の留学生を旧ソ連に派遣して基礎研究に当たらせて国産原子炉製造に着手したが、80年代後半にポスト冷戦期の体制生き残りを賭けて、核開発に転換、米国を揺さぶって交渉のカードに利用したことは確かだ。

 しかし朝鮮半島の非核化は主席の遺訓であり、金正日総書記もこれを再三、確認、昨年9月19日に合意された6者協議の共同声明にも謳われている。イランとの最大の違いだ。

 北朝鮮は、軽水炉提供を条件に核兵器と既存の核計画を放棄することに同意しており、確認されている限り、再処理(プルトニウム生産)しかしておらず、ウラン濃縮には手を染めていない。ブッシュ米政権は、イランと北朝鮮の違いを見極めて、6者協議を通じて米朝国交正常化に応じ、朝鮮半島非核化に協力すべきである。

【『朝鮮新報』2006年2月27日付】

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