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プロフィール

吉田 康彦

吉田 康彦

1936年東京生まれ
埼玉県立浦和高校卒
東京大学文学部卒
NHK記者となり、ジュネーヴ支局長、国際局報道部次長などを歴任

1982年国連職員に転じ、ニューヨーク、ジュネーヴ、ウィーンに10年間勤務

1986−89年
IAEA (国際原子力機関)広報部長

1993−2001年
埼玉大学教授
(国際関係論担当)
2001-2006年
大阪経済法科大学教授
(平和学・現代アジア論担当)

現在、
同大学アジア太平洋研究センター客員教授

核・エネルギー問題情報センター常任理事
(『NERIC NEWS』 編集長)

NPO法人「放射線教育フォーラム」顧問

「21世紀政策構想フォーラム」共同代表
(『ポリシーフォーラム』編集長)

「北朝鮮人道支援の会」代表

「自主・平和・民主のための国民連合・東京」世話人

日朝国交正常化全国連絡会顧問

学歴・職歴

北朝鮮人道支援の会

  • 設立宣言
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  • 入会申込書
  • 代表・役員
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北朝鮮
TOP > 北朝鮮 > 朝鮮半島非核化と日朝関係の展望

2005年12月15日

朝鮮半島非核化と日朝関係の展望

 朝鮮半島非核化と南北平和統一の実現可能性が出てきたのが2005年の顕著な動きである。北朝鮮の核問題解決はなお紆余曲折をたどるだろう。鄭東泳・韓国統一相も「あと2、3年はかかる」と認めているが、北京の6者協議を通しての「交渉による解決」が不動の路線になったことだけは確実だ。それには二つの確固たる底流がある。

 第一に、米ソ冷戦終結から15年、南北の構造的対立は消滅し、朝鮮半島には地殻変動が起きている。盧武鉉大統領の支持率は低迷しているが、韓国国民の意識は根本的に変質、北との同族意識が強まり、南北一体感が高まっている。当初、北朝鮮は体制存続を脅かす外部勢力の浸透に警戒心を捨て切れなかったが、2000年の南北首脳会談以来は相互補完的協力がほぼ順調に進んでいる。

 韓国政府は、北朝鮮の核廃棄に至るプロセスで200万キロワットの電力支援を申し出ているほか、今後5年間に50億ドルの援助を約束、肥料・食糧を含めた援助総額は100億ドルを超える見込みである。また総面積2000万坪にも及ぶ開城工業団地建設は南北一体化を象徴する画期的事業であり、最終的には22万人の労働者を擁する南北共同の先端技術センターを目指している。韓国としては国運を賭しての支援といってよい。この事実を日米両国の政府とメディアは見誤っている。

 第二に、中国の影響力強化がある。中国共産党指導部は北朝鮮に対してはきわめて慎重で、高圧的な影響力行使を避けてきた。北朝鮮の指導者がきわめて誇り高く、内政・外交両面で主体性を貫くことに重きをおいているのを知り抜いていたからだ。「ピョンヤンは思うようにならない」と中国政府高官が嘆くのを何度も聞いたことがある。

 ブッシュ政権が中国を動かし、6者協議の北京開催を実現したのは賢明だったが、中国は最初あまり乗り気ではなかった。しかし中国を通して北朝鮮を説得して核の一方的廃棄に持ち込もうという米国の当初の目論みはみごとに外れ、9月19日の第4回協議の末の共同声明では、逆に「約束対約束、行動対行動」という北朝鮮の主張する「同時行動の原則」を受け入れさせられた。さらに核廃棄の見返りとして、北に対する「軽水炉提供を適当な時期に協議する」という一項を土壇場で受け入れざるを得なかった。満を持して最後に米国に譲歩を迫り、合意成立に持ち込んだ中国の外交力はしたたかだ。

 その背景にはやはり中朝両国の経済の一体化がある。中国は冷戦の終焉以来一貫して年間それぞれ40万トン前後の原油と食糧を提供し、北朝鮮の国家体制を黙々と支えてきたが、去る10月末の胡錦涛主席の訪朝の際に、さらに20億ドルの新規支援を約束した。中朝貿易は往復で15億ドルを突破、北の貿易総額のほぼ半分を占める勢いだ。5月に訪朝した際、印象深かったのは、首都ピョンヤンにも地方都市にも中国製品が溢れ、中国人投資家と貿易商が大挙して各地に滞在していたことだった。

 9月末に瀋陽で開催された「学者版6者協議」に出席した私は、中国社会科学院の学者が「北京の指導部は北朝鮮を遼寧省、吉林省、黒竜江省とならんで中国東北部の一省と見なしている。そこに何の不都合もない」と発言するのを聞いて驚きを隠せなかった。

 こうして韓国と中国が南北から北朝鮮を支えつつ、共存共栄を図る北東アジア経済圏が着々と形成されている中で、日本の「不在」だけが目立っている。日本の孤立は米国との一体化に反比例して際立っている。小泉首相は、10月の京都における日米首脳会談で、「日米関係の強化こそが中韓はじめアジアの近隣諸国との関係改善に役立つ」と豪語したが、とんでもない時代錯誤だ。この発言がいかに中韓両国の反発を招いたかは、クアラルンプールの東アジア・サミットで日中韓の首脳会談が実現しないことからも明らかだ。

 このままでは、小泉首相は、2006年9月までの4年半の任期中に成し遂げたのは郵政民営化くらいで、外交では何ひとつ成果を挙げられず、対米追随だけが進み、靖国参拝を繰り返すことでアジアの近隣諸国との関係を悪化させた指導者として歴史に残ることになろう。

 そうした中で、唯一、歴史に名を留める可能性のあるのが日朝国交正常化実現である。小泉首相はすでに2回訪朝、金正日国防委員長との直談判で拉致問題に風穴を開け、認めさせ、謝罪させたが、日本側としては満足できるような「真相究明」には至っていない。小泉内閣は「拉致問題の解決なくして国交正常化なし」を基本方針にしているが、北は「拉致は解決ずみ」としており、日朝関係は膠着状態にある。はたして何をもって「解決」と見なすのか、その辺は日本側が時期を見て「政治判断」を下さざるを得ないことになろう。

 北朝鮮は小泉首相が署名した「ピョンヤン共同宣言」の履行、つまり「過去の清算」の実質的中身としての経済協力を求めており、日本側が柔軟性を示し、正常化交渉再開に踏み切らない限り、北からのさらなる譲歩は得られず、膠着状態は打開できない。

「日本が動かないなら米国を動かします。米国が動けば日本は簡単に従いてきます」。ピョンヤンの政府高官の言葉だ。「小泉首相よ、最後にブッシュ大統領より先に動け」と申し上げたい。 

【『民族時報』2005年12月15日号】

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