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プロフィール

吉田 康彦

吉田 康彦

1936年東京生まれ
埼玉県立浦和高校卒
東京大学文学部卒
NHK記者となり、ジュネーヴ支局長、国際局報道部次長などを歴任

1982年国連職員に転じ、ニューヨーク、ジュネーヴ、ウィーンに10年間勤務

1986−89年
IAEA (国際原子力機関)広報部長

1993−2001年
埼玉大学教授
(国際関係論担当)
2001-2006年
大阪経済法科大学教授
(平和学・現代アジア論担当)

現在、
同大学アジア太平洋研究センター客員教授

核・エネルギー問題情報センター常任理事
(『NERIC NEWS』 編集長)

NPO法人「放射線教育フォーラム」顧問

「21世紀政策構想フォーラム」共同代表
(『ポリシーフォーラム』編集長)

「北朝鮮人道支援の会」代表

「自主・平和・民主のための国民連合・東京」世話人

日朝国交正常化全国連絡会顧問

学歴・職歴

北朝鮮人道支援の会

  • 設立宣言
  • 活動実績
  • 入会申込書
  • 代表・役員
  • ニューズレター

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北朝鮮
TOP > 北朝鮮 > 朝鮮半島から見た日本(訪朝ルポ)

2005年5月15日

朝鮮半島から見た日本(訪朝ルポ)

 私は、かねがね学生たちに、地球儀で世界を見る必要を説いている。地球は丸く、ぐるぐると自転している。どこか特定の場所に世界の中心が存在するわけではない。

 朝鮮半島から日本列島を見ると、半島の住人にとって日本の存在がいかに脅威として映るかがわかる。北海道から沖縄までぐるりと半円形に朝鮮半島を包み込み、外海への出口をふさいでいる。明治の先達にとって、朝鮮半島は日本に向けて突き出された匕首(あいくち)であったように、日本列島は朝鮮民族の平和を脅かす前線基地として立ちはだかっている。

 朝鮮半島は、冷戦構造が崩壊して15年を経て今なお南北に分断され、軍事境界線と非武装地帯をはさんで、二つの国家が対峙している。

 私はゼミの学生たちを連れて、南北双方から板門店を訪問、脅威の本質とその違いを確認した。ソウルから板門店を視察すると、「北の脅威」を強調され、頭に叩き込まれる。逆に北から南を見渡すと、米兵や韓国兵がいかにも滑稽な存在に映る。つまり「南」が緊張を作り上げているのだ。

 朝鮮半島は地球儀で真上から見下ろせ、あるいは、北から眺めよ、というのが私の持論である。

 対文協(対外文化連絡協会)の招待で、大型連休を北朝鮮で過ごした。7回目の訪朝である。人道支援の一環として、100万円相当の医薬品を届けるのが主目的だったが、政府機関の要人とも懇談した。

 日朝関係は現在、最悪である。拉致問題は「解決済み」(北朝鮮)と「未解決」(日本)には月とスッポンの違いがある。日本側にすれば、政府認定の拉致被害者のうち、「8人死亡・2人未入国」という北の発表はとうてい受け入れられない。遺骨もなく、遺品も断片ばかり、死因がいずれも不自然だ。戦後の日本人の価値観・死生観からすれば、北の対応は日本人を愚弄するものとしか思われない。拉致を実行した特殊工作機関が証拠隠滅してしまったのだ。

 しかし平壌へ来て政府当局者の話を聞くと、彼らなりに誠心誠意、証拠を集め、証人をさがして真相究明に協力したことが理解できる。それ以上の日本側の要求に応えることは、国家機密を暴露し、金正日体制の内部をさらけ出すことになる。「それだけはご勘弁を」というのが北の本音である。藪中団長(現・外務審議官)は「これで拉致問題の90%は解明された。北朝鮮当局の努力と誠意に感謝する」と述べて帰国したという。

 拉致の徹底解明を呼びかけ、経済制裁を叫ぶ勢力は日朝国交正常化反対、金正日体制打倒を目指している。体制を打倒すれば、拉致の真相究明ができるとでも思っているのだろうか。経済制裁など、実力行使で対抗すれば北が屈して譲歩すると思っているのだろうか。

 「拉致は日本が北朝鮮敵視政策をとり、両国が不正常な関係にあった時期に発生したものだ。死亡者は生き返らない」と北の当局者は告白する。どこかで折り合いをつけざるを得ない。

 日本側がそれを拒否するなら、植民地支配の36年間で総数840万(この数字は多すぎるが)にのぼる朝鮮人強制連行・強制労働・従軍慰安婦をどうしてくれるのか、拉致被害者の命だけが尊くて、朝鮮人の命はどうでもいいのか、と彼らは開き直る。

 戦後のドイツに比較して、日本人には歴史の反省が欠けている。盧武鉉・韓国大統領までもが日本の歴史認識の欠如をきびしく糾弾しているではないか。中国の「反日」デモにも一理ある。周辺諸国の理解と支持を得られずして、国連安保理常任理事国の資格はない。・・・・そんな日本批判を朝から晩まで聞かされる毎日だった。

 しかし私は反論した。「そんなことは釈迦に説法だ。われわれは日本を右傾化させている保守反動勢力、排外主義・国粋主義的勢力と戦っているからこそ、地球儀の上から北東アジアを眺めろと説き、右翼分子に妨害されながら、こうして支援物資を届けているのだ」

 朝鮮労働党のエリートたちは、そこではたと沈黙し、「日本にも良心的な人民がいるのは心強いが、あまりに非力だ」と切り返す。「貴国の核開発や日本人拉致が日本のナショナリズムに火をつけたのだ」と私が再反論。

 「ナショナリズムにとどまらない。竹島(独島)領有の主張などは、戦前の軍国主義台頭、朝鮮半島再侵略の野望の表われだ」と警戒心をむき出しにする。彼らの被害妄想も少しばかり度を越している。朝鮮半島再侵略を考えている日本人はまずいない。

 帰国したら、北朝鮮の核実験近しという米国の情報がかけめぐり、日本のメディアは例によって節操のない報道エスカレーションを繰り広げていた。

 滞在中、平和・軍縮研究所副所長の朴賢在氏との会見で、「核保有宣言をしても、プルトニウムを材料とする核弾頭を製造する場合、実験してみないと抑止力は証明されない。プルトニウム型爆弾の場合、実験が不可欠だ」という言質を引き出したのは私のささやかな功績で、5月9日はテレビ局を3局はしごしたが、北朝鮮の脅威を煽り、危機を演出して日本を右傾化させている張本人はブッシュ政権だ。

 北朝鮮も日本も、米国の陰謀に乗せられ、その情報操作に踊らされてはならない。ただし北朝鮮は、米朝直接交渉を求めて、ストリップショーを独演している側面が強い。たとえはよくないが、全裸になる前に誘惑に応えて欲しいのだ。北の真意を理解して、小泉首相は盟友のブッシュ大統領に対し、米朝対話に応じるよう説得すべきだ。

【『ポリシー・フォーラム』2005年5月15日号)】

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