2004年5月01日
”北朝鮮の脅威”で日本が変わることの不可解
日本国民の大多数が異を唱えないのが“北朝鮮の脅威”であろう。かくして“脅威”はひとり歩きし、日本の保守化・右傾化と対米追随を加速するばかりだ。
イラクの人道・復興支援のために南部サマーワで悪戦苦闘している自衛隊も、“北朝鮮の脅威”がなければ派遣の必要はなかったに違いない。米軍司令官が「イラク全土が戦闘状態」と認めるなかで、「非戦闘地域に派遣する」という虚構の条件を掲げて国会を通したのが「イラク特措法」だった。「北朝鮮が攻めてきたときに日本を守ってくれるのは、国連軍ではなく、米軍だから」と小泉首相は強弁して、国連頭越し、国際法無視のブッシュ政権に追随した。
日米ガイドライン見直し、周辺事態法・テロ特措法制定など過去数年間の日米同盟強化、そしていま進められている集団自衛権行使の容認、憲法9条改正の動きなどは、すべて“北朝鮮の脅威”を大義名分に進められている。総額数兆円に上るとされるMD(ミサイル防衛)構想参加も同様である。
ベルリンの壁崩壊以来15年を経て北東アジアには今も冷戦構造が残っている。総兵力10万の米軍駐留にとって、“北朝鮮の脅威”の存在ほど好都合なものはない。日本は「思いやり予算」で在日米軍の経費を肩代わりし、冷戦構造を支え続けている。
不可解なのは、日本はなぜ“脅威”除去の主体的努力をしないのかということだ。北朝鮮のミサイル試射、武装工作船の接近、過去の日本人拉致などは確かに “脅威”の原因ではあるが、政治家もメディアも、情緒的に北朝鮮を憎悪し、金正日体制を罵倒するばかり、あとは米国に追随して力で対抗することしか考えていない。
脱北者・亡命者の多くは金正日独裁体制打倒を叫び、日本国内にもこれに同調する勢力があるが、ブッシュ政権も体制打倒は非現実的と認めており、中国も韓国も絶対に認めない。韓国国民の対「北」感情は完全に変質し、同族意識を強め、南北交流と協力の歩みは揺るぎないものとなっている。中国式改革・開放の導入が平和的手段による唯一の解決策であり、その意味で、竜川列車爆破事故は外部世界に向けて「北」が窓を開くステップになるかもしれない。
“脅威”は相互不信の産物で、差別と偏見を助長し、緊張と敵意を増幅することは歴史の教訓である。“脅威”の除去のためには人的交流を密にするのが最善である。その点で、2002年9月の小泉訪朝は画期的意義をもつものだったが、金正日総書記が日本人拉致を認めた途端に日本の世論が激昂、逆効果になってしまった。日朝国交正常化こそが“脅威”除去に向けての唯一の選択肢であることに変わりはない。「平壌共同宣言」の実施を求めたい。
【『ポリシーフォーラム』2004年5月1日号】