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プロフィール

吉田 康彦

吉田 康彦

1936年東京生まれ
埼玉県立浦和高校卒
東京大学文学部卒
NHK記者となり、ジュネーヴ支局長、国際局報道部次長などを歴任

1982年国連職員に転じ、ニューヨーク、ジュネーヴ、ウィーンに10年間勤務

1986−89年
IAEA (国際原子力機関)広報部長

1993−2001年
埼玉大学教授
(国際関係論担当)
2001-2006年
大阪経済法科大学教授
(平和学・現代アジア論担当)

現在、
同大学アジア太平洋研究センター客員教授

核・エネルギー問題情報センター常任理事
(『NERIC NEWS』 編集長)

NPO法人「放射線教育フォーラム」顧問

「21世紀政策構想フォーラム」共同代表
(『ポリシーフォーラム』編集長)

「北朝鮮人道支援の会」代表

「自主・平和・民主のための国民連合・東京」世話人

日朝国交正常化全国連絡会顧問

学歴・職歴

北朝鮮人道支援の会

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  • 活動実績
  • 入会申込書
  • 代表・役員
  • ニューズレター

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北朝鮮
TOP > 北朝鮮 > 拉致問題の真相を伝えない日本のメディア

2008年2月07日

拉致問題の真相を伝えない日本のメディア

――「北朝鮮バッシングに同調しないと“KY”になる」という妄想を排せ

                                               

「北」叩きの精神構造

テレビ・新聞・週刊誌は、「KYだ」(空気が読めない)と視聴者・読者に見放されると思い込んで、相変わらず北朝鮮叩きにうつつを抜かしている。「空気」は「ムード」と言い換えてもよいが、必ずしも「世論」ではない。しかし両者の境界線は引きにくい。

 

たとえば、安部晋三首相在任当時(2007年4月)の読売新聞の世論調査で、「対北朝鮮経済制裁を支持する」という国民が回答者の7割を占めていたが、同時に、「それによって拉致問題が解決すると思うか」という設問に8割が「解決するとは思わない」と答えていた。「解決しない」のを承知で制裁を支持するというのは、憎しみをぶつけて八つ当たりしているだけのことだ。在日朝鮮人こそ、いい迷惑だ。

 

たまたま出演した民放テレビ局の番組担当のディレクターが、「われわれも北朝鮮バッシングには内心うんざりしているのだが、脱北者の告白が針小棒大な虚言だとわかっていても、オンエアすればソコソコの視聴率が稼げてスポンサーもつく。だから似た番組が手を変え品を変えて何回も放映されることになる」と打ち明けていた。

 

現在の日本のメディアに良識は存在しない。現場の担当者は判断力を失い、メディアとしての主体性を発揮できない状況におかれている。“北叩き”の番組も記事も惰性で作られ、書かれている。とくに拉致問題では日本国民は思考停止状態に陥っている。そもそも「拉致問題の解決とは何か」について誰もまともに論じようとしていない。

 

拉致問題の解決とは【1】(北が死亡と発表した者を含めて)被害者全員の生還、【2】実行犯の引渡し、【3】全容の解明、というのが安倍首相の見解であり、日本政府の立場だったが、昨年9月のシドニーにおけるAPEC(アジア太平洋経済協力会議)首脳会談で、ブッシュ米大統領に「いつまでそんな非現実的な要求に固執しているのか」と問い詰められ、安倍首相は二の句が継げなかったというのが同行した記者団のオフレコ情報だ。

 

ブッシュ大統領はたたみかけるように、「2007年中に北のテロ支援国家指定を解除し、米朝平和協定を結ぶつもりだ」と表明、安倍首相はショックのあまり胃腸病が悪化、実は退陣の決意はこれが決定打になったというのが、私が入手している同行筋の情報である。

 

その安倍首相は在任中、横田滋・早起江夫妻に、「めぐみさんが生きている可能性は99%ないが、日本政府としては生存を前提に北朝鮮と交渉するから、そのつもりで口裏を合わせてほしい」と注文していたという。これも政界で広く流布している情報だが、メディアはこれを検証せず、真相を一切報道しない。だから素朴な日本国民は、無責任な亡命工作員の証言を真に受けて、「横田めぐみは生きている」と信じ込まされている。民主主義社会にあるまじき情報操作だ。

 

日本側に手渡された遺骨がニセだというのも、安倍主導で巧みに仕組まれた世論操作の結果である。「火葬に処せられた遺骨からのDNA検出は不可能で、少なくともニセとは断定できない」というのが内外の鑑定の専門家の共通認識だ。

 

福田首相よ、在任中に日朝国交正常化を果たせ

昨年11月に訪米した福田首相にもブッシュ大統領はテロ支援国家指定解除の方針を伝えており、首相が指定解除延期を申し入れたというのも事実に反する。

 

ブッシュは「横田めぐみのことは決して忘れない」と述べ、拉致解決をテロ支援国家指定解除の条件として再確認したという報道も大間違いだ。そもそもブッシュは「”決して”忘れない」などとは英語で言っていない。単に「拉致被害者と家族のことは忘れてないよ」と社交辞令で付け加えたにすぎない。

 

同行記者団筋の情報によれば、「福田首相は米大統領の真意を確認し、拉致問題打開に向けての日朝接触に側面から協力してくれるよう要請した」というのが真相だが、これを額面どおりに報道した新聞は一紙もない。全社が「KYになる」と思われることを恐れているのだ。不可解千万である。

 

外務省レベルの日朝秘密接触は、11月に瀋陽で、12月に大連で行われたとされるが、これもきびしい報道管制がしかれ、いっさい洩れて来ない。話し合いは平行線のままで、双方とも米朝の動きをにらみながらハラの探り合いに終始しているようだ。

 

2007年12月には衆議院に朝鮮半島問題小委員会が結成され、山崎拓氏を最高顧問に迎え、衛藤征四郎氏が委員長に就任、政府の動きに対応できる態勢をとった。山崎訪朝、超党派訪朝団派遣の計画も取りざたされているが、いまのところ事態静観の模様だ。

 

福田首相は、麻生太郎氏との自民党総裁選で、「私の手で拉致問題を解決したい」と訴えて当選したものの、決断を先延ばしにして模様眺めをしているが、このままだと政権の座を転げ落ち、千載一遇のチャンスを失うことになるかもしれない。小泉内閣の官房長官として、田中均・外務省アジア大洋州局長(当時)を叱咤激励して水面下の交渉を陣頭指揮、「日朝平壌宣言」を纏め上げさせた初心に帰り、有終の美を飾るべきだ。

 

米朝の駆け引きは一時的現象

朝鮮半島非核化は、北の全核計画の「申告」拒否で停滞しているとされているが、これも不正確だ。昨年2月13日の6者協議の「合意」では、「(既存の核施設の)無能力化」と「申告」は、「同時行動の原則」にもとづいて「テロ支援国家指定の解除」と同時に履行されるべきものだ。背景にはワシントンのネオコン一派の必死の巻き返しがある。

 

それに勢いづいて、「北の“申告”拒否で大幅遅延」「北は核廃棄の意思なし」などという文言が新聞の見出しを飾っているが、これも一面的、皮相的だ。大勢を見誤り、KYなのは日本のメディアだけだ。

 

2月26日にはニューヨーク・フィルハーモニック交響楽団の平壌公演が実現、全世界に同時生中継される。同楽団が冒頭で米朝両国の国歌を演奏することの象徴的意義は測り知れないものがある。それまでに米朝関係は大きく前進するであろう。

 【『朝鮮新報』2008年2月4日付】

 

 

 

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