テーマ別

プロフィール

吉田 康彦

吉田 康彦

1936年東京生まれ
埼玉県立浦和高校卒
東京大学文学部卒
NHK記者となり、ジュネーヴ支局長、国際局報道部次長などを歴任

1982年国連職員に転じ、ニューヨーク、ジュネーヴ、ウィーンに10年間勤務

1986−89年
IAEA (国際原子力機関)広報部長

1993−2001年
埼玉大学教授
(国際関係論担当)
2001-2006年
大阪経済法科大学教授
(平和学・現代アジア論担当)

現在、
同大学アジア太平洋研究センター客員教授

核・エネルギー問題情報センター常任理事
(『NERIC NEWS』 編集長)

NPO法人「放射線教育フォーラム」顧問

「21世紀政策構想フォーラム」共同代表
(『ポリシーフォーラム』編集長)

「北朝鮮人道支援の会」代表

「自主・平和・民主のための国民連合・東京」世話人

日朝国交正常化全国連絡会顧問

学歴・職歴

北朝鮮人道支援の会

  • 設立宣言
  • 活動実績
  • 入会申込書
  • 代表・役員
  • ニューズレター

リンク

北朝鮮
TOP > 北朝鮮 > 第2回南北首脳会談を改めて検証する

2007年10月30日

第2回南北首脳会談を改めて検証する

 韓国と「在日」のメディアは、第2回南北首脳会談の成果を正当に肯定的に評価していたが、日本の新聞・テレビはどちらといえばクールで、懐疑的評価が主流だった。開催1カ月を経た現時点で、改めて分析してみよう。

 日本では、2000年の第1回首脳会談と比較して、金正日総書記が盧武鉉大統領を格下に見て軽くあしらったなどという無責任なコメントをする識者がいたが、朝鮮半島が儒教倫理の強い敬老・年功序列社会であることを考慮すれば、16歳年上の金大中大統領を、しかも史上初めて平壌に迎えた2000年に比べて、盧武鉉氏は4歳年下、さらに相手が異なるとはいえ南北としては2回目の首脳会談だった2007年が異なったのは当然である。

 むしろ盧武鉉一行が陸路を往復し、軍事境界線を徒歩で越えたことの歴史的意義は大きい。冷戦終結後18年を経て今なお半島に残る南北分断という残滓を朝鮮民族自身が抹消しようという決意の表われといえよう。もとより北が同意したからこそ実現した快挙だ。

 両首脳が署名した「南北関係発展と平和繁栄のための宣言」は、自主・平和統一、緊張緩和、3者ないし4者の首脳会談開催提案、経済協力拡大、社会・文化面ならびに人道主義的協力の推進、海外同胞の権利回復など8項目からなっている。

 筆者が注目したのは、北が南を国防・安保における対話相手と初めて公式に認めたことだ。両首脳は、西海における衝突防止のために共同漁業水域を指定して平和水域とし、軍事的信頼構築のため、南の国防相と北の人民武力相の会談開催で合意した。西海沖のNLL(北方限界線)周辺でしばしば銃撃戦がくり返されてきただけに、この合意も快挙だ。

 日米では、北の核廃棄に関する直接の言及がなかったこと、ならびに第1回首脳会談で合意した平和統一のための共通認識(「連邦制」と「連合制」の共通点の認識)のさらなる具体化が盛り込まれなかったことに失望の念を表明する識者が多かったが、軍事・国防問題の南北直接協議の意義を見逃してはならない。韓国は国際法上、朝鮮戦争の交戦当事者ではなく(北にとっての交戦相手は「国連軍」)、そのうえ休戦協定の署名も拒否したという事情から、従来、北が南を「米国の傀儡政権」として、対等のパートナーとは見なしていなかったのだ。それゆえ第1回首脳会談以後も、北は国防相同士の閣僚会談開催には消極的で、これまで一度しか開かれていない。

 さらに現行の朝鮮戦争休戦協定を平和協定に転換し、恒久的な終戦を宣言するため、3カ国ないし4カ国の首脳会談を朝鮮半島地域で開催するよう呼びかけた。朝鮮半島をめぐる平和・安全保障の変更は米国の存在を無視しては語れない。それゆえにこそ、北は米国だけを念頭において核・ミサイルを開発し、交渉のテーブルにおびき出してきたわけだ。その意味で、今回の合意は米朝接近ムードの中でこそ実現したのは事実だ。

 「3カ国」ないし「4カ国」という提案が面白い。朝鮮戦争の後半では中国義勇軍が参戦し、休戦協定には中国も署名しているが、「3カ国」では中国が排除される。1990年代に米朝韓の「3カ国会談」がジュネーブで開催されたが、成果なく終わった。このときは米国が強引に韓国を従えて同席させたのだが、当時の北は米国しか交渉相手にしなかった。

 今回は宣言発表後、北京政府がいち早く参加の意思を表明した。明らかに北に対する影響力強化を狙う中国に対する牽制だったのだ。このあたりは外交巧者の金正日総書記の面目躍如たるものがある。筆者は「対米追随の脱却のためにも北の外交戦術を見習うべきではないか」と外務省幹部に進言したことがある。幹部は率直にうなずいていた。

 南北首脳宣言の最大の成果は経済協力にある。それも、従来の援助型から投資型への転換に特色がある。

 さらに首脳宣言は、継続中の開城工業団地のさらなる発展、開城・ソウル間の一部区間の鉄道貨物輸送の開始、通行・通信・通関の「三通」を保証する措置の完備、さらに開城―新義州の鉄道と開城・平壌間の高速道路の共同利用のための改修と補修、東の安辺と西の南浦への造船協力団地の設置を列記している。南浦周辺海域は「平和協力特別地帯」に指定された。

 現段階で「連邦制」か「連合制」かの抽象的な議論をするより、個々の投資プロジェクトを履行することが現実的アプローチとして南平和統一に貢献すると確信する。第1回首脳会談後の共同宣言が原則論を並べただけの簡潔なものだったのに比べれば、はるかに具体的で詳細をきわめている。

 今回の合意を貫いているのは、韓国の大規模投資を誘致し、市場メカニズムを導入して北の労働者の雇用を拡大して経済の活性化を図ろうという北当局の決断である。筆者が訪朝するたびに目立つのは中国資本の進出で、中朝国境近くの羅津、先銑、新義州はもとより、首都平壌にも中国人投資家・貿易商・小売商人が跋扈しているが、南の同胞にも投資の門戸を開き、両国のバランスをとろうとしたようだ。

 平壌で知り合った中国人投資家は「いずれ、北朝鮮は、遼寧省、吉林省、黒竜江省に続いて中国東北部第4の“朝鮮省”になる」と豪語していたが、そうはさせじという北当局の決意の表われでもあろう。去る4月訪朝した際、会談した社会科学院経済研究所の尹戴昌博士は「わが国の資源を中国に切り売りしている現状は望ましくない。これに対し、韓国資本は民族経済の形成と発展のために歓迎する」と語っていた。事態はそのとおりに動いている。

 宣言に明記されているソウル・白頭山間の直行便開設による白頭山観光開発計画もしかりだ。開城工団、金剛山観光開発に続いて現代グループが請け負うことになったようだが、潜在的需要は大きい。現在、年間10万以上の韓国人が北京あるいは瀋陽経由で、朝鮮半島の聖地・白頭山(中国名=長白山)に観光旅行しているが、ソウルからの直行便ならジェット機でわずか1時間の距離だ。

 2008年の北京オリンピックに南北の応援団が京義線列車を利用して参加することも首脳宣言に謳われた。まず応援団からというのも現実的アプローチだ。そこで一体感が高まり、4年後のロンドン・オリンピックには南北合同選手団でということになろう。 

  ソウルの現代経済研究院の試算によると、首脳会談で合意された経済協力事業が筋書きとおりに進めば、総額113億ドルが必要とされている。これは日本の年間ODA(政府開発援助)の総額をはるかに上回る。韓国の年間国防費の半額に相当し、韓国経済に重くのしかかるが、ブッシュ政権がネオコンのペースに引きずられて北を空爆し、思わぬ混乱が生じたかもしれない事態に比べれば、平和統一のコストとして決して高すぎることはなかろう。

 それにしても日本が拉致を口実にして、いつまでも「カヤの外」にと留まっていられる道理はない。日本の未来は、「過去の清算」を果たし、南北平和統一に協力すること以外にない。

【『朝鮮商工新聞』2007年10月30日】

新刊案内

最新刊
北朝鮮を見る、聞く、歩く

北朝鮮を見る、聞く、歩く
(平凡社新書500)
【定価800円+税】

「北朝鮮」再考のための60章

「北朝鮮」再考のための60章
(明石書店)
【定価2000円+税】

「北朝鮮核実験」に続くもの

「北朝鮮核実験」に続くもの
(第三書館)
【定価1200円+税】

国連改革

国連改革
(集英社新書)
【定価700円+税】

21世紀の平和学

編著 『21世紀の平和学
(明石書店)
【定価2400円+税】

現代アジア最新事情

編著 『現代アジア最新事情
(大阪経済法科大学出版部)
【定価2600円+税】

国連安保理と日本

訳著 『国連安保理と日本
(岩波書店)
【定価3000円+税】

動き出した朝鮮半島

共著 『動き出した朝鮮半島
(日本評論社)
【定価2200円+税】