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プロフィール

吉田 康彦

吉田 康彦

1936年東京生まれ
埼玉県立浦和高校卒
東京大学文学部卒
NHK記者となり、ジュネーヴ支局長、国際局報道部次長などを歴任

1982年国連職員に転じ、ニューヨーク、ジュネーヴ、ウィーンに10年間勤務

1986−89年
IAEA (国際原子力機関)広報部長

1993−2001年
埼玉大学教授
(国際関係論担当)
2001-2006年
大阪経済法科大学教授
(平和学・現代アジア論担当)

現在、
同大学アジア太平洋研究センター客員教授

核・エネルギー問題情報センター常任理事
(『NERIC NEWS』 編集長)

NPO法人「放射線教育フォーラム」顧問

「21世紀政策構想フォーラム」共同代表
(『ポリシーフォーラム』編集長)

「北朝鮮人道支援の会」代表

「自主・平和・民主のための国民連合・東京」世話人

日朝国交正常化全国連絡会顧問

学歴・職歴

北朝鮮人道支援の会

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  • 活動実績
  • 入会申込書
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  • ニューズレター

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北朝鮮
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2008年8月27日

北朝鮮報道はやはり異常だ――日本のメディアは「思考停止」状態

日本の北朝鮮報道は、太平洋戦争中の大政翼賛会的状況を呈している。とりわけメディア主導で対北不信論を盛り上げている。

 

7月25日未明放送のテレビ朝日系『朝まで生テレビ』は日朝関係を取り上げ、筆者もパネリストの1人として出演したが、拉致被害者家族とその関係者も同席、北朝鮮批判、金正日非難の大合唱に終始した。

 

放送時間が深夜(午前1時40分から4時40分まで)にもかかわらず、3−5%(地域差があり、仙台では再考の5.3%)の高視聴率を記録、国民の関心の高さをうかがわせたが、「福田首相がブッシュ大統領に直訴して拉致問題の徹底調査を要求しよう」という田原総一朗氏の非現実的な提案にパネリストの大半が賛成するようでは討論番組の看板が泣くというものだ。

 

もう1点は、「金正日は絶対に核を手放さない」というパネリストの大合唱だ。北が核放棄に応じなければ、米国は国交正常化にも、休戦状態にある朝鮮戦争終結の平和条約締結にも応じないし、6者協議の共同声明で合意している「適当な時期に協議する」ことになっている軽水炉の供与にも5カ国側は応じないだろう。

 

6者協議の第2段階として、米国のテロ支援国家指定解除の見返りとしての「すべての核計画の申告」に既存の核兵器が含まれていないことを問題にするパネリストも多く、すでにこの点を問題にしたメディアも多かったが、「核廃棄」は第3段階で扱うことで米朝は合意しており、ブッシュ政権は問題にしていない。

 

この点は日本の論者の不勉強だ。というより、対北不信感を煽る発言するだけでメディアが大きく取り上げるから、そんな誤解・曲解がまかり通るのだ。現時点で問題なのは、プルトニウム備蓄と生産施設廃棄のための検証の手続きと段取りだけである。

 

8月26日、北朝鮮は作業進行中の「無能力化」中断を発表した。27日付の産経新聞は「狙いは核兵器保持にある」と伝えているが、見当違いもはなはだしい。単なる駆け引きだ。

 

そもそも核放棄という時の「核」とは何か。北朝鮮には、平山、博川などに推定可採埋蔵量400万トンのウラン鉱山が存在し、これを採掘、精錬、濃縮すれば、いつでも「核」になるのだ。北はすでに20年以上の開発の実績があり、ノウハウを蓄積している。金正日が号令をかければ、半年もあれば核兵器生産を再開できる。

 

要するに、金正日に、“その気”にさせない環境作りをする責任が周辺諸国にはある。それが“朝鮮半島非核化”であり、6者協議の共通認識なのではないか。

 

拉致問題“解決”を叫ぶ人びとの本音

次に拉致問題の“解決”は絶対にあり得ない。日本の当事者が“解決”を望んでいなからだ。北朝鮮と国交を結び、小泉首相(当時)が署名した「日朝平壌宣言」を履行、「過去の清算」として、形は「経済協力」ながら、植民地支配の補償金推定1兆ドル以上が、金正日体制存続のために支払われることには絶対反対という人びとが、大義名分として掲げているのが“拉致問題の徹底解明“なのだ。

 

横田めぐみ以下、政府認定の拉致被害者8名の死因に不審な点があり、他の2名の「入国の記録なし」も信用できないとして追及を続けているのが「救う会」の基本路線であり、目的は「金正日体制」打倒にある。拉致被害者家族を前面に押し立てて世論を味方につけているのが彼らの強味で、日本政府も「拉致問題の解決なくして国交正常化なし」という基本方針を打ち出さざるを得なくなったのだ。

 

しからば“解決”とは何か。安倍前首相は、?被害者全員の“生還”、?実行犯の引き渡し、?拉致事件の全容の解明、としたが、実現不可能なのは自明の理。北朝鮮当局が公式に「死亡」と発表した者が実は「生きていた」とはならないし、「実行犯」の中には“人民の英雄”として表彰された工作員もいる。「全容の解明」は朝鮮労働党の暗黒部分を暴露させ、金正日の責任を追及することを意味するからだ。現体制否定以外の何物でもない。

 

何回「再調査」しても結果は同じ。北が「再調査」に応じたのもブッシュ政権に義理立てしただけで、日本側が満足する“解決”などあり得ないのだ。拉致を前面に掲げて運動している「救う会」関係者が筆者に打ち明けた。「ブッシュ政権がどう動こうと、日本はあわてる必要はない。金正日にも寿命がある。彼の死後あるいが失脚後に、民主化された北朝鮮と国交正常化すればよい。それが真に朝鮮人民のためになる」。

 

はたしてそうか。6者協議の枠組みで関係国が朝鮮半島非核化の見返りとして支援策を打ち出す中で、日本だけが“拉致外交”一本槍を貫けるものかどうか、反北勢力のお手並み拝見だ。

【『ポリシーフォーラム』N0.42/2008年9月1日号】

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