2008年9月03日
日朝国交正常化はなぜ必要なのか<北朝鮮人道支援の会ニューズレター9月号>
昨年に続いて今年も集中豪雨に見舞われて、北朝鮮は食糧事情が悪化、WFP(世界食糧計画)は1990年代後半いらい最も深刻な事態だと警告しています。そうなると毎年、無際限に人道支援が必要になってきます。
この悪循環を断つ道が朝鮮半島非核化であり、多国間の枠組みを通しての経済・エネルギー支援です。とりわけインフラ整備が急務です。その辺は平壌の指導部も熟知しています。
私は1995年、北朝鮮のほぼ全土を襲った大水害のあと、『難民を助ける会』の吹浦忠正・柳瀬房子さんらと「朝鮮の子どもにタマゴとバナナを送る会」を結成し、支援物資を携えて現地入りした最初の日本人です。その後も訪朝を重ねて人道支援を続け、政治的立場を超えて、超党派で市民レベルの人道支援が目的に1999年4月、「北朝鮮人道支援の会」を正式に立ち上げました。
過去9年間に数回にわたって義捐金、食糧・医薬品を届けてきました。全国の会員は一時期500名を突破しましたが、2002年9月、小泉訪朝後、拉致問題が“炎上”して国内世論が反北朝鮮一色に染まり、猛烈な北バッシングが始まってから会員が激減、現在は150名程度です。しかし現在の会員は“時流”に翻弄されない信念の持ち主でニューズレターを熱心に読み、会費・義捐金を送って下さる方ばかりです。
最近、本会は対処療法的な食糧・医薬品の支援よりも、日朝国交正常化の早期実現に活動の主力をおいています。同時に、人道支援の幅を広げて、日本語教材・日本語図書の支援を開始したのは皆さまもご存じのとおりです。なぜ日朝国交正常化が必要なのかを説明します。
冒頭に記したとおり、北朝鮮では毎年、自然災害、とくに水害が発生しています。山岳地帯の畑が流され、土砂が河川に流れ込んで川底を埋め、豪雨が降ったり、雨が長引いたりするとたちまち洪水が起き、人家や田畑に浸水するのです。根本的な治山治水対策を講じなければ、毎年この繰り返しになります。道路も、首都ピョンヤンを中心とする幹線を除いては未舗装で、インフラはずたずたです。
日本は、2002年9月の小泉訪朝の際、「日朝平壌宣言」に署名、「過去の清算」として、形は経済協力ながら、100億ドル相当の資金供与を約束しました。金額は明示されていませんが、日朝双方の交渉当事者は「宣言」起草の段階で、経済協力は、発電所建設、道路・港湾・感慨整備など、北朝鮮のインフラ整備と再建に重点的に投資されることで合意しているのです。
ところが、北朝鮮が拉致を認め、金正日総書記が謝罪した途端に日本の世論は激昂、猛烈な北バッシングが起き、国交正常化どころではなくなったわけです。
拉致被害者家族を前面に押し立てて、拉致問題の「解決」を要求している人びとは日朝国交正常化を望んでいません。むしろ金正日体制打倒をもくろんでいます。しかしブッシュ政権を含めて、関係国は、北の核廃棄を通して朝鮮半島非核化が実現するなら金正日体制を全面的に支援し、北東アジアの平和と安全保障の枠組みに取り込んで協力を進めていく意向です。それが北京の「6者協議」の目的です。日朝国交正常化も、2005年9月の共同声明で共通の目的として組み込まれているのです。
日朝国交正常化は、?日本の安全保障 ?(経済協力資金の還流に伴い)日本の経済権益に資するとともに、?「過去の清算」を通して道義的・精神的満足も得られます。
日本側の関係者が完全に納得し、満足するような形の拉致問題の”解決”はあり得ません。いわゆる“政治決着”しかないのです。これを決断し実行できるのは、日本では総理大臣しかいません。しかし突然の福田首相辞任で先行き不透明となりました。率直に言って、日朝国交正常化は遠のいたといわざるを得ません。