2009年3月12日
釜山の面会は解決には逆効果/日韓連携で拉致問題は解決しない
拉致被害者・田口八重子さんの兄と長男が11日、釜山で金賢姫・元死刑囚(大韓航空機爆破実行犯)との悲願の面会を果たしたが、北朝鮮当局を刺激するだけで、拉致問題の解決には逆効果だ。拉致被害者家族会は「日韓連携で拉致問題解決を!」と叫び、これに同調したメディアもあったが、とんでもない誤解・曲解である。拉致は日韓で解決できるものではない。
飯塚繁雄さんと耕一郎さんにすれば、田口八重子さんから日本語と日本の慣習を学んだ金賢姫に直接会い、何がしかの手がかりをつかみたいと思う気持ちは理解できるし、その境遇に同情もするが、その結果、八重子さんの生存の確証が得られたわけではなく、30年近くも昔の消息を聞き出したにすぎない。面会は、田口さん母子の絆を引き裂いた拉致犯罪の非情さを改めて浮き彫りにしたにすぎない。
金賢姫は1987年10月にバーレーン空港で逮捕され、ソウルに移送されて以来、21年以上祖国を離れているわけで、「お母さんは生きていますよ」と耕一郎さんに語りかけたのも希望的観測にすぎず、何の根拠もない。事実、彼女は「八重子さんはどこかよそへ連れて行かれたと聞いた。その後、結婚したと聞いた」と伝聞情報しか持ち合わせていなかった。
釜山の対面は、日韓両国政府のシナリオに日本のメディアが全面的に協力して大々的に演出した政治的ショーだった。取材に駆けつけた日本人記者団は300人以上に達したとKBS(韓国放送協会)が伝えでいたが、過剰報道だ。もし日本政府が本当に拉致問題の解決を模索するのであれば、面会は水面下で、ひっそりと行うべきだった。メンツを重んじる北朝鮮当局が大々的な面会ショーに反発するのは当然ではないか。
考えてもみるがよい。北朝鮮は李明博大統領を「民族の逆徒」と呼び、現在の南北関係は一触即発の緊張関係にある。その韓国が金賢姫の12年ぶりのメディア露出を認め、飯塚さんとの面会を許可したのは、見返りに日本からの経済援助を期待しているからだ。同時に、北の非人道的行為を内外に改めて暴露することで、反北宣伝戦に一矢報いて、日本と共同戦線を張ることで、米朝直接交渉に軸足を移しつつあるオバマ政権をけん制するためだった。
この結果、南北関係はますます悪化し、日朝関係の膠着状態は変わらず、拉致問題の解決はさらに遠のくだろう。