2009年2月26日
拉致問題は"解決"しない ――日朝国交正常化を阻むもの
日本政府は、「拉致問題の解決なくして日朝国交正常化なし」を基本方針として、「解決」に向けて北朝鮮に圧力をかけ目的で経済制裁を課している。制裁は2006年10月9日の北朝鮮の核実験を機に本格的に導入されたもので、ヒト・モノ・カネの交易・交流禁止を柱としているが、実施以来2年半、成果は全然あがっていない。
日本政府が求めている「解決」とは、(1)拉致被害者全員の生還 (2)実行犯の引き渡し (3)全容の解明、以上3点であるとして、制裁解除のためには、少なくとも「解決」に向けての「進展」が不可欠ということになっている。けだし「正論」である。この政府3条件に国民が異論をさしはさむ余地はなく、世論は文句なしで支持している。北朝鮮側の事情など一切無視した一方的最後通告だ。
北朝鮮当局は、2002年9月19日の小泉訪朝に際して、日本政府認定の拉致被害者15名のうち、5名生存(蓮池・地村夫妻と曽我ひとみさん)、横田めぐみさん以下8名死亡、残り2名は入国の記録なし、と発表。金正日総書記が小泉首相に対し、「英雄主義・妄動主義に駆られた特殊機関の仕業」としながらも拉致を認め、「遺憾の意」を表して事実上謝罪、「2度と起こさないようにする」と約束した。その後は「拉致問題は解決済み」とし、金正日も「もう拉致被害者は残っていない」と再三表明している。
日本政府3条件は、これらの説明を全面的に拒否し、「死んだというなら生き返らせて返せ」と主張しているに等しい。「死亡」と言われても死亡証明書の記載事項に疑念がぬぐえないのが事実だ。「横田めぐみさんの遺骨は二セだった」・・・というのが家族・関係者の言い分である。
真相は、特殊機関が証拠をすべて隠滅してしまい、遺品も遺骨も残っていないということのようだ。めぐみさんの遺骨はニセと断定はできないまでも、高熱で2度焼いたとされており、DNA鑑定は不可能。鑑定にあたった吉井富夫氏(帝京大学講師=当時)も「ニセとは断定していない」(英誌『Nature』報道)と認めているが、かといって本物かどうかはわからない。
3条件の2番目、「実行犯引き渡し」と非現実的である。その1人とされる辛光洙は“人民の英雄”として勲章をもらい表彰されている。
3番目の「全容の解明」はなおさらだ。脱北者の証言によれば、拉致はすべて金正日の指令で行われている。つまり最高指導者の罪状を告発し、国家テロを暴露、そんな体制の国とは国交正常化しないという既成事実を作ろうとするものだ。
いずれにせよ、「拉致問題の解決」といえば聞こえはいいが、日本政府は、家族の憤懣、世論の怒りを背景に、絶対に解決しないことを承知で「解決」を要求していることになる。
それでいいのだろうか。どこまで貫けるだろうか。すべてはオバマ米政権の動向にかかっている。ブッシュ前政権は「テロ支援国家指定解除」の決定までは行ったが、時間切れで「朝鮮半島非核化」は中途半端な形で終わってしまった。おかげで、日本も「拉致問題解決」を叫び続けることができた。ブッシュ前政権に絶大な影響力をもっていたネオコンが同調し、支持してくれていたからだ。しかしオバマ政権は日本の手の内を知りつくしている。拉致問題は「解決」不可能だ。あるのは高度の「政治決着」だけである。