2009年4月21日
北朝鮮「人工衛星」打ち上げは金正日の“続投”宣言≪NERIC NEWS≫
北朝鮮が打ち上げた人工衛星「光明星2号」は軌道に乗らなかったようだが、第2段階のロケットは、米軍推定で3200キロ飛んだ。それにつけても人工衛星かミサイルかは不毛な議論だ。
発射に使われたボディーが中距離ミサイル「ノドン」を2基連結した長距離ミサイル「テポドン2号」そのものであることに変わりないが、今回は先端部分に通信器材を搭載し、「宇宙条約」に加盟して国際法上きちんと手続きを踏んだ上で発射したことは事実だ。
宇宙開発で協力している米ロも、熾烈な核開発競争の末に運搬手段であるミサイルを平和目的に転用しているにすぎない。日本も種子島から通信・気象観測・情報収集などの衛星をこれまで40個以上打ち上げているが、核弾頭を搭載すればいつでも攻撃用のミサイルになる。
今この時期に北朝鮮が打ち上げたのは、オバマ政権相手の交渉で優位に立つという対米カードよりも国内事情が優先している。先軍政治を掲げる金正日総書記の国家の最高ポスト「国防委員長」3選と健康回復の祝砲であり、彼の“続投”宣言でもある。これで当面世襲3代目の後継者候補選びは凍結、「強盛大国の大門が開く」2012年に向けて体制固めに入る。国内事情優先の証拠はボズワース訪朝拒否だ。オバマ大統領はボズワース元駐韓大使を北朝鮮担当「特使」に任命、「ミサイル発射中止」を条件に訪朝を申し入れたが、北朝鮮は来訪を拒否、発射最優先を通告した。
それにしても日本の対応は正気の沙汰ではない。人工衛星に対して「破壊措置命令」という国際法違反の迎撃態勢をとり、総額1兆円近くを投じたMD(ミサイル防衛網)を展開して緊張を盛り上げた。そうした中で政府高官は「どうせ当たりっこない」と本音をもらしたり、早とちりして発射の誤探知、誤報をくり返すお粗末さだった。
浜田靖一防衛相は「人工衛星にせよミサイルにせよ、日本列島の頭上を飛び越えて行くというのは不愉快だ」と語っていたが、この「不愉快」というのが日本国民に共通の感情なのだ。「北朝鮮などにナメられてたまるか」という朝鮮民族蔑視感情が底流にある。だからメディアを総動員しての一大茶番劇が繰り広げられたわけだ。麻生首は「冷静に」と呼びかけたが、自ら「挑発だ」と叫び、国を挙げての迎撃態勢をとれば不安を覚えない国民はいない。
打ち上げが予告期間初日の4日に行われず、翌日になったのは日本が誤探知をしたから焦らしたのだと迷解説をしたコメンテーターがいたが、誇大妄想も甚だしい。
11年前の1998年9月、初のテポドン1号発射直後、筆者はピョンヤンにいた。日本国民のパニックぶりをせせら笑いながらも北朝鮮の高官が慨嘆した。「まるで開戦前夜のような騒ぎだね。相手は米国だけ、われわれの念頭には日本など存在しない。日本はこれから“過去の清算”をさせて戦後補償をさせなければならない大事なカネづるだ。そんな相手を攻撃する筈がないではないか」。11年を経て日本人の北朝鮮敵視感情は増幅するばかり、それでいいのだろうか。
【『NERIC NEWS』2009年4月号巻頭言】