2009年5月15日
拉致被害者死亡をめぐる田原総一朗発言の問題点
田原総一朗氏が「有本恵子、横田めぐみら拉致被害者が生きていないことは外務省もわかっている」とテレビ朝日『朝まで生テレビ』で発言、これに対し「家族会」「救う会」が抗議したが、問題点はどこにあるか説明しよう。
田原発言は、私も出演した4月24日深夜放送の番組で飛び出したもので、「日朝関係が膠着状態にある理由は拉致被害者が(家族会らの圧力で)全員生きていることを前提に生還を要求していることにある。情報源を明らかにはできないが、外務省も北が死亡と発表した拉致被害者が生きていないことは知っている」というものだ。田原氏は「外務省関係者は世論が恐くて本当のことをいえないのだ」と付け加えた。
その通りだ。私も、以前の『朝まで生テレビ』で、田原氏の誘導尋問に答えて「横田めぐみ(さん)は死んでいると思う」と発言したところ、テレビ朝日に抗議の電話・FAX・メールが殺到、帰宅後も抗議と嫌がらせが押し寄せた。まさに言論弾圧だ。私を黙らせても拉致被害者が生き返って帰国することになるわけではない。
北朝鮮当局は、横田めぐみ、有本恵子、田口八重子ら、日本政府認定(当時)の12人のうちの8人は死亡した」と発表したが、死因、ならびに(亡命工作員の証言などから)死亡時期に疑惑が生じ、「家族会」「救う会」は北の発表には信憑性がないと断定、全員生還を前提に救出運動を続けることを決めた。
これを全面的に取り入れて、(1)被害者全員の救出(2)拉致実行犯の引き渡し(3)(拉致犯罪)全容の解明を日本政府の基本方針として北朝鮮に要求、単独制裁を課して圧力をかけることを決めたのが安倍晋三元首相である。この方針は現在の麻生内閣にも引き継がれている。しかし、そんなこと、とくに(2)と(3)が通用する筈がないことを関係者、とくに「救う会」は百も承知なのだ。彼らが目指すものは金正日体制打倒であり、日朝国交正常化阻止運動だからだ。
しかし、それが通用するだろうか。私の立場は対極にある。オバマ政権は、結局、朝鮮半島非核化を条件に米朝国交正常化に応じ、金正日体制は生き残ると判断している。日本だけが拉致問題”未解決”を理由に日朝国交正常化しないままでは済まされないだろう。これが外務省幹部の判断でもある。
田原発言の弱みは、同氏が「(有本恵子、横田めぐみらの)拉致被害者が死んでいる」という(死亡の)事実そのものを、証拠にもとづいて知っているわけではなく、「(彼女らが)死んでいるという事実を認めざるを得ない」という外務省当局者の現状認識を公言したにすぎない点である。私も同じだが、田原氏もピョンヤンでそれを裏づける発言を北朝鮮政府の当局者からも得たようだ。問題は、いくら追及しても死んだ証拠は出てこないことだ。工作機関は証拠を残さない。「死亡した」というだけで、(横田めぐみ(さん)以外、遺骨も遺品も出てこないのはそのためだ。
拉致被害者家族の怒りと悲しみには同情するが、民主主義社会、高度情報化社会の日本にタブーが存在してはならない。「拉致問題の解決とは何か」について、もっとオープンに議論すべきだ。オープンに冷静に議論すれば、日本側が要求する「解決」がいかに非現実的かがわかる筈だ。田原発言はそのための突破口を開いたものとして評価する。