2009年8月06日
クリントン訪朝の総括/米朝関係への影響と展望
クリントン訪朝で明らかになったのは次の諸点だ。
(1)金正日総書記(国防委員長)の健康状態が良好と見受けられたこと。会談のあと夕食会を主催、通算3時間以上、クリントン元大統領一行をもてなした事実は、同総書記がいぜんとして北朝鮮の最高指導者として実権を掌握していることを意味し、対米交渉の当事者能力を有していることが確認された。クリントン訪問をきっかけに米朝関係が改善すれば、金総書記の功績となる。伝えられる三男・金正雲への権力継承はまだあくまでも準備段階で、2012年以降になるだろう。
(2)4月の最高人民会議で国防委員会の権限強化が発表されたが、米国籍女性記者2名の「特赦」も国防委員長としての決定、夕食会も国防委員会の主催で、文字通り、国防委員会が最高意思決定機関として機能していることが確認された。(憲法上は、従来、恩赦・特赦の権限は、最高人民会議常任委員会にあるとされってきた。)
(3)同時に、外交のプロが”復権”した。クリントン到着時の空港には金桂官外務次官が出迎え、会談には姜錫柱第一外務次官、金養建党書記(南北・中朝・ロ朝関係の責任者)が同席した。いずれも今後の本格交渉に備えての布石だ。
(4)北はクリントン訪朝を最大限に意義づけ、「オバマ大統領の口頭メッセージ」伝達を報道。これに対し、米側は「純粋な人道目的」のための「私人としての訪朝」と位置づけ、メッセージ伝達も否定しているが、元大統領の訪朝が単に北のメンツを立てるための大物派遣だったわけではなく、”子どもの使い”に終わった筈はない。将来の核廃棄(朝鮮半島非核化)に対する金総書記の真意を質し、見返りとして米朝国交正常化に応じる用意のあることなどを伝えた筈である。最近も、妻であり国務長官のヒラリー・クリントンがその旨の発言をくりかえしており、元大統領の口から直接伝えられた意味は大きい。
(5)結論として、北朝鮮は「クリントン訪朝で米国が譲歩してきた」として、さらなる核実験、ミサイル発射は控え、本格的米朝交渉開始を模索することになろう。最終的には「6者協議」にも戻るだろうが、北にとっては米国だけが交渉相手で、議長国の中国も米朝直接協議を支持している以上、米朝交渉が先行せざるを得ない。ブッシュ政権第二期目の「ベルリン合意」のやり直しである。長いプロセスがまたはじまることになる。