2009年11月10日
米朝接触再開で本格協議への動き強まる/双方のゴールは2012年
国防委員会中心の集団指導体制が始動
北朝鮮の外交は金正日総書記の健康悪化で一時的にブレたが、憲法改正によって国防委員会に権限を集中させる決定で、ひとまず一貫性を取り戻した。後継者をめぐる水面下の権力闘争の行方は不透明だが、三男・金ジョンウンが最有力であることに変わりはなく、今後も時間をかけて“帝王学”教育が施されることになろう。順調にいけば、「強盛大国の大門が開く年」と規定している2012年に何らかの正式決定が行われるものと予測される。
2012年は金日成生誕100年、金正日生誕70年の記念すべき年で、主体思想・先軍思想による国論統一、核・ミサイル保有・配備による強盛大国完成の年とされているが、経済だけは脆弱。このため2012年までに米朝国交正常化を実現して体制維持を強固にし、これに連動して日朝国交正常化にもこぎつけて大規模経済協力(推定100億ドル以上)を獲得、老朽化したインフラ整備を成し遂げたいというのが金正日の胸算用だ。
2012年まであと2年あまり。この年は、オバマ米大統領が再選に臨み、李明博・韓国大統領の後継者も決まる年。中国の国家主席交代、ロシアの大統領選挙の年でもある。朝鮮半島も大転換期を迎えることになる。
李根米州局長訪米で米朝接触再開
李根局長は北朝鮮の元国連大使。姜錫柱第一外務次官、金桂官外務次官に次いで対米外交当局者としてはナンバースリー。その李局長が10月下旬から11月初旬にかけて訪米し、ソンキム米国務省朝鮮半島担当大使らと接触、米朝協議の根回し役を務めた。ボスワース米特使の訪朝が秒読みの段階となってきた。ボスワース氏自身、11月中に訪朝予定と語っている。
オバマ政権は米朝2国間では実質的交渉はせず、あくまでも6者協議の枠内での事前接触という立場なのに対し、朝鮮半島における冷戦構造は米国の思わくで残っているものであり、オバマ政権の政策転換でいかようにもなるというのが北の認識で、対米交渉に最重点をおいている。「米国を動かせば日韓両国はついてくる」という基本認識がある。北にすれば6者協議は米朝合意確認の場であり、セレモニーにすぎない。
この点で、米朝の思わくの違いがどう克服されるかが注目される。早ければ年内に、遅くとも来春までに6者協議再開となろうが、ブッシュ前政権最後の2年間の「北京プロセス」のやり直しが始まることになる。
どうする鳩山内閣/どうなる日朝関係
画期的な政権交代にともなう鳩山新内閣発足いらい2カ月、温暖化防止のためのCO2削減目標、核廃絶への熱意、東アジア共同体構想などでは鮮やかな“鳩山色”を打ち出したが、日朝関係は動いていない。
中山洽拉致問題担当相(国家公安委員長)だけが「家族会」「救う会」の意を体して声高に“圧力一辺倒”の勇ましい発言をしているが、これでは安倍・麻生自民党内閣当時と変わらない。韓国に亡命した黄長華(「火」辺に華)元書記の訪日など論外、すべてがぶち壊しになる。
北朝鮮当局は、鳩山内閣jの朝鮮半島政策転換を期待して批判を控えている。とりあえず福田内閣下の日朝実務者協議の合意履行が当面の課題となる。つまり拉致問題の再調査実施とそれに見合う日本側の人道的措置だ。人道的措置とは緊急食糧支援と万景峰号の新潟入港許可である。
鳩山首相、岡田外相としては、日朝だけを突出させて動かす意思はないものの、米朝関係に連動して対応措置をとる構えで、外務省に水面下の接触を命じているようだ。今後の動きを注視したい。
【『ポリシーフォーラム』2009年11月号】