2009年2月25日
仕切り直しの米朝交渉と“人工衛星”打ち上げ準備の背景
オバマ政権は、世界大不況、中東の流動化、とくにアフガニスタンの政情不安、朝鮮半島非核化(未達成)というブッシュ前政権の“負の遺産”を受け継いで前途多難な船出をしたが、このうち朝鮮半島だけが、筋道がはっきりしており、時間はかかるが解決が最も容易な課題である。
北朝鮮は、2005年9月19日の6者協議共同声明で「検証可能な朝鮮半島非核化」に合意しており、この点は何度もこの基本合意を確認しており、金正日総書記が君子豹変したわけではなく、検証受け入れ、具体的にはプルトニウムの試料(サンプル)提出も拒否してはいない。
その後、核保有国として対等の核軍縮交渉開始をオバマ政権に呼びかけたり、いわゆるテポドン2号の発射準備を進めたりしているが、すべて対米交渉の立場を強化する上での駆け引きで、まず米朝2国間で基本的合意に持ち込もうとするものだ。
北朝鮮にすれば、「朝鮮半島非核化」は「北朝鮮の核廃棄」ではなく、韓国における在韓米軍の核戦力の脅威の消滅をも意味しており、そのためには休戦状態にある朝鮮戦争の最終的終結を保証する「平和条約締結」も不可欠ということになる。
また、9・19共同声明は、(1)経済・エネルギー支援、ならびに「適当な時期における軽水炉供与についての協議」、(2)米朝ならびに日朝国交正常化のための措置、(3)それらを「行動対行動」の「同時行動の原則」にもとづいて進めることも確認しており、これらをテーブルに載せて協議するにはかなりの時間を要するだろう。
ブッシュ大統領は「テロ支援国家指定解除」は発表したものの、まだ内実をともなっていない。すべて仕切り直しだ。
というわけで、「朝鮮半島非核化」の道のりは長い。しかも現状は、日朝・南北の関係が最悪の状態にある。日朝間の拉致問題“解決”の展望はない。南北は対決状態で、韓国経済は深刻、李明博政権に対北支援の余裕はない。オバマ政権一期目の4年間は。政権内の意見統一、対北交渉、さらに日韓両国に対する政策転換のための説得で費やされるだろう。
しかし、オバマが再選めざして出馬する2012年には“結果”を出さねばならない。2012年は、北朝鮮にとって「強盛大国の大門が開く年」、韓国次期大統領選挙の年でもある。日本では誰が首相の座にあるだろうか。
テポドン2号は「人工衛星」として発射必至
テポドンというのは、発射場の「大浦洞」(旧名)の朝鮮語を米韓両軍がコードネームとして用いているもの。ノドンを改良して射程距離を延ばし、中長距離弾道ミサイルとして北朝鮮が開発してきたものだが、1998年8月31日に発射した「1号」(射程1500キロ)は人工衛星「光明星」で、打ち上げに用いられたロケット(実際はミサイルと同じ推進装置)は「白頭山」と命名された。米国も人工衛星だったことを認めた。
目下、打ち上げ準備中の「2号」も、宇宙開発のための人工衛星と北朝鮮当局は予告している。残骸の落下予定地点の海域に対し、警告ならびに立入禁止の措置さえとられれば、国際法上これを阻止する根拠はない。これを、「国際平和と安全を脅かす行為」とみなすかどうかは周辺諸国の政治的判断による。インド、パキスタン、イランなども近年、続けて発射しているが、お咎めなしだ。
現在、世界の45カ国がミサイルを開発・保有し、発射実験もしている。日本も宇宙開発用のロケット打ち上げを行っている。ミサイル(ロケット)を規制する国際法規は存在しない。
「テポドン2号」が打ち上げられるとすれば、?対米交渉における優位性の確保、?国内における軍部と人民の士気の高揚、?金正日総書記の全快祝い、といった意味合いをもつことになろう。時期は、最高人民会議開会の3月8日前後、あるいは金日成生誕97年の4月15日前後が有力視されている。 【『ポリシーフォーラム』2009年3月1日号】