2008年4月02日
古森NHK経営委員長の「国益発言」に異議あり
「NHKの国際放送では国益重視を」という古森経営委員長の発言は報道の現場の実情を知らない者の軽薄な発言だ。この問題は、3月31日の参議院総務委員会で取り上げられ、又市社民党副党首らが古森氏を追及、4月2日付の朝日新聞朝刊がメディア欄で解説している。NHK勤務時代に国際放送を担当した者として見解を述べたい。
席上、古森委員長は「国際放送では日本の公的見解を伝えるべきだ」という持論をくりかえしたが、何が公的見解なのか抽象論でわからない。「国家主義的発想だ」という又市議員の反論も抽象論だ。具体例をあげて議論すべきだ。
「国益とは何か」という定義も必要で、政府見解が常に国益を代弁しないことは歴史が証明するところである。民主主義社会では「国益とは国民の利益」とするのが通説だが、「何が国民の利益か」をNHKが判断するのには問題がある。政府見解と同じなら国営放送になってしまうし、政府見解と異なる判断を打ち出せば”反政府的”と批判される。
むしろ日本の公的見解など存在しないことに問題がある。たとえばチベットの暴動について日本政府は何らの公的見解をも打ち出していない。むしろ日本政府はほとんどすべての国際問題について明確な判断を示さず、欧米諸国の動向に追随してきたのが実情である。日本政府が率先して国際社会に発してきたメッセージなど、これまでほとんど存在しない。
強いてあげれば、北朝鮮による日本人拉致、「調査捕鯨」という名の商業捕鯨の継続、国連安保理常任理事国入りの願望などでは、たしかに日本の公的見解が存在するが、そんなニュースと解説ばかりを並べたらたちまちスウィッチを切られるか、チャネルを変えられてしまうだろう。国益を前面に押し出した国際放送は退屈で、視聴者の信頼も人気も得られない。
BBCワールド(英国BBCの国際放送)が何ゆえに信頼され、人気があるのか、じっくりと聴いて欲しい。あくまでも素材を提供して事実を伝え、真実を考えさせ、公的見解はさりげなく、が望ましい。そもそも日本にはほとんど存在しないのだから。