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プロフィール

吉田 康彦

吉田 康彦

1936年東京生まれ
埼玉県立浦和高校卒
東京大学文学部卒
NHK記者となり、ジュネーヴ支局長、国際局報道部次長などを歴任

1982年国連職員に転じ、ニューヨーク、ジュネーヴ、ウィーンに10年間勤務

1986−89年
IAEA (国際原子力機関)広報部長

1993−2001年
埼玉大学教授
(国際関係論担当)
2001-2006年
大阪経済法科大学教授
(平和学・現代アジア論担当)

現在、
同大学アジア太平洋研究センター客員教授

核・エネルギー問題情報センター常任理事
(『NERIC NEWS』 編集長)

NPO法人「放射線教育フォーラム」顧問

「21世紀政策構想フォーラム」共同代表
(『ポリシーフォーラム』編集長)

「北朝鮮人道支援の会」代表

「自主・平和・民主のための国民連合・東京」世話人

日朝国交正常化全国連絡会顧問

学歴・職歴

北朝鮮人道支援の会

  • 設立宣言
  • 活動実績
  • 入会申込書
  • 代表・役員
  • ニューズレター

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TOP > その他 > 酒とタバコと北朝鮮――新三題ばなし

2007年2月08日

酒とタバコと北朝鮮――新三題ばなし

 漱石の『草枕』ではないが、日本社会で生きていくのは窮屈この上ない。そこに支配しているのが非寛容と排除の論理だからだ。

 酒を一滴も呑まず、タバコを吸い、北朝鮮の金正日体制を(擁護しないまでも)理解しようとしてメディアで発言するとどうなるか。結果は、ストレスがたまって心筋梗塞を起こす。この私である。

 酒の付き合いをしないと情報が入らない。ホンネは酒席でしか語らない日本人が多いからだ。もちろん相手にだけ呑ませてホンネを引き出す術はあるが、無駄な時間とエネルギーを費やす。酒呑み集団との付き合いは気苦労が多い。日本の呑ん兵衛の無礼講は世界に例を見ない。泥酔客がわがもの顔の終電車は酒臭くて気分が悪くなる。飲酒運転事故、酔客の痴漢行為がこれほど多い国はない。

 逆にスモーカーは罪人扱いだ。昼食時のレストランは全席禁煙。公共機関もみな禁煙。愛煙家にとって最後のトリデだった東海道新幹線も来月から全車禁煙になる。

 都内の公民館から講演を依頼され、早めに到着したので一服しようと喫煙コーナーをさがしたが、全館禁煙。仕方なく玄関で一口吸い込んだら管理人が飛んできて玄関も「館内」だという。それなら、と一歩外に出たら都の条例で路上禁煙だという。路上禁煙の目的は吸殻のポイ捨て防止にあったはず。私は吸殻を出さないパイプしか吸わない。受動喫煙の害のない戸外で煙を吐き出して何が悪いのか。

 タバコは文化だ。睡魔を追い払い、集中力を高める。緊張をほぐし、ストレスを軽減し、リラックスさせる作用もある。愛煙家は自己責任で吸っているのだ。健康に有害だからと言って一律に禁止し、罰するべきではない。受動喫煙予防のためなら、きちんと分煙にすべきだ。タバコの煙よりクルマの排気ガスはどうなのか。有機農薬の害はどうなのか。

 世界的な禁煙運動を推進してきたのはWHO(世界保健機関)だが、ジュネーヴのWHO本部ビルには愛煙家のための特設スペースがある。見晴らしのいい屋上だ。晴天なら遠くに白銀のモンブランが、手前にレマン湖が眺望できる。タバコを吸うWHO職員は肩身の狭い思いはしていない。

 日本を支配しているのは禁煙ファシズムだ。異端を排除し画一化を強制する日本社会は少数派にやさしくない。さらに深刻なのが右傾化と排外主義的ナショナリズムだ。

 国連勤務から帰国した1990年代初頭、私は自衛隊のPKO(平和維持活動)参加と国連安保理常任理入りを強力に主張、一時は産経新聞の常連としてもてはやされた。まもなく北朝鮮の核疑惑が問題視され、反北朝鮮キャンペーンが始まった。私は「プルトニウムをいくら溜め込んでも核弾頭にはならない。北朝鮮の核開発は対米交渉カードにすぎず、人畜無害」と解説。とたんに同紙のみならず保守系メディアから「反日的日本人」と一斉に叩かれた。

 極めつけは拉致だった。私は「横田めぐみ失踪は北朝鮮の犯行とは思えない」とコメントした。13才の少女を拉致しても工作員養成の教官は務まらず、パスポートの代理申請もできない。ところが北朝鮮の行動は私の常識を裏切り、私は「拉致を否定して金正日に媚びる学者の代表」に祀りあげられた。「国賊」「売国奴」「非国民」という嫌がらせを今でも受ける。

 拉致は絶対に正当化できないが、魔女狩りをするのは言論ファッショだ。拉致の完全解明を日朝国交正常化の前提とする安倍内閣の方針は間違っている。圧力一辺倒で拉致被害者全員の「奪還」を叫び、在日朝鮮人いじめをしても問題は解決しない。怒りと憎しみをぶつけているだけだ。

 ブッシュ政権が日本の頭ごしに米朝国交正常化に踏み切り、出し抜かれて慌てふためく日が刻々と近づきつつある。

【『電気新聞』2007年2月8日付「時評・ウェーブ欄」】

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