2008年11月11日
筑紫哲也氏と相馬雪香さんの逝去を悼む
10日(月)朝のテレビのニュース番組は、故筑紫哲也氏を好奇心と反骨精神を備えたジャーナリストと形容していたが、私は(1)知的好奇心 (2)批判精神 (3)柔軟性の3点を氏の卓越した資質としてあげたい。
知的好奇心は、政治、経済、社会、文化、芸能(とくに映画と音楽)などの森羅万象をTBS「ニュース23」で番組化したことに、その特徴がいかんなく発揮された。午後11時台のTBSにチャネルを合わせる楽しみは、彼のレパートリーの広さを改めて知る機会でもあった。私は彼と同世代なので青春時代に似通った体験をしているだけに、共感することが多かった。
批判精神は「反骨精神」よりも普遍的で、ジャーナリストとしての必要条件だ。必ずしも「反骨」である必要はない。いいかえれば「是々非々」だ。筑紫氏はすべてに反対していたわけではない。
「柔軟性」は、「思い込み」で断定しないということだ。私が「ニュース23」に出演したとき、彼は北朝鮮のIAEA(国際原子力機関」脱退を重大視し、北朝鮮が核開発に疾走し、孤立化の道を歩む危険な兆候と見ていたが、私が「政治的効果を十分計算した上での瀬戸際外交で、クリントン政権(当時)に対する揺さぶりにすぎない」と説明すると、ただちにその本質を理解し、発言を修正した。包容力あるジャーナリストだった。
ちなみにNPT(核不拡散条約)脱退は、米国主導の核不拡散体制に対する挑戦として大きな意味をもつが、IAEAから脱退しても、NPTに加盟していればIAEAの査察を受け入れなければならないことが規定されており、IAEA加盟国であるか否かは二義的である。
10日夕刻、相馬雪香さんの訃報を知った。彼女は、インドシナ難民受け入れを手始めに、アフリカ、旧ユーゴ難民支援、対人地雷全廃運動の先頭に立ち、「難民鎖国」日本の”開国”に貢献した。私は、NHK在職当時、発足間もない「インドシナ難民を助ける会」会長の相馬さんに、国際放送向けに英語でインタビューした。
「日本はカネしか出さず、(難民支援に)ヒトを出さず、ヒト(難民)を受け入れない」という海外の批判に応えようという番組だった。相馬さんは流暢な英語で、”When our purse opens, our heart opens too."(私たちの財布が開くときには心も開く)と断言、「カネを出してうちに心も開くことになる」と信じていた。30年も前のことだが、私たちはまだ十分に開いてはいない。
筑紫氏と相馬さんの共通項は、日本を多文化社会に変え、価値観の多様化を促進した功労者だという点である。筑紫氏はオピニオンリーダーとして、相馬さんは実践家として。お2人のご冥福を祈る。