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プロフィール

吉田 康彦

吉田 康彦

1936年東京生まれ
埼玉県立浦和高校卒
東京大学文学部卒
NHK記者となり、ジュネーヴ支局長、国際局報道部次長などを歴任

1982年国連職員に転じ、ニューヨーク、ジュネーヴ、ウィーンに10年間勤務

1986−89年
IAEA (国際原子力機関)広報部長

1993−2001年
埼玉大学教授
(国際関係論担当)
2001-2006年
大阪経済法科大学教授
(平和学・現代アジア論担当)

現在、
同大学アジア太平洋研究センター客員教授

核・エネルギー問題情報センター常任理事
(『NERIC NEWS』 編集長)

NPO法人「放射線教育フォーラム」顧問

「21世紀政策構想フォーラム」共同代表
(『ポリシーフォーラム』編集長)

「北朝鮮人道支援の会」代表

「自主・平和・民主のための国民連合・東京」世話人

日朝国交正常化全国連絡会顧問

学歴・職歴

北朝鮮人道支援の会

  • 設立宣言
  • 活動実績
  • 入会申込書
  • 代表・役員
  • ニューズレター

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TOP > その他 > 小泉首相よ、外交を語れ

2005年9月15日

小泉首相よ、外交を語れ

 小泉純一郎氏は強運の政治家だ。これで悲願の郵政民営化は実現、引退の花道もできた。どの権力者も引退間近になるとレームダック化して求心力を失うが、反対勢力を一掃して派閥を解体、「自民党をぶっこわした」リーダーの前途に立ちはだかる政敵は消えた。

 選挙結果は本人も驚く自民党の地すべり的大勝利、公明党を加えると3分の2を超え、これで参議院の決定もひっくり返せるし、憲法改正も強行できることになった。テレビも新聞も演出効果満点の小泉劇場、小泉マジックの大成功などと形容しているが、分析が甘い。

 得意満面の武部幹事長は「これぞ小泉革命」と自慢していたが、見当違いだ。「革命」には社会を根底から覆す理念と動機が必要だが、オポチュニスト(大衆迎合)の小泉氏にそれはない。郵政民営化への執念、巧みな選挙戦略、小選挙区制の欠陥、圧勝の原因はこの3点につきる。

 第一に、小泉首相は「それでも地球は動く」と自らをガリレオの心境になぞらえて郵政民営化に固執、「参議院は(中世の教会と同じく)間違っている。国民に直接聞いてみたい」といって解散に踏み切った。この決断が受けたのだ。街頭では髪を振り乱し、拳を振り上げて「官から民へ」「民にできることは民に」と訴え、郵政民営化の国民投票に変えてしまった。

 第二に、単純明快なスローガンで無党派層取り込みに成功したことだ。常時40%を超える無党派層が今回は20%に減り、自民支持層にスライド、小泉支持の年齢層は20代が最高だという。ニート(NEET)と呼ばれる若年層がテレビ・タレントまがいの自民党候補に投票し、比例も自民党と書いた。

 小泉氏は全国300の選挙区に民営化反対派追い落としのための「刺客」を送り込んで「受け皿」を用意した。美女・才女ぞろいのマドンナたちだ。「刺客」たちの当選率は8割に達した。「無党派層は宝の山だ」というのが小泉首相の口癖だったとう。投票率は67。5%で過去10年の最高を記録した。

 第三に、民主党は、自民党公認もれの捨て身の反対派候補との熾烈な集票競争のあおりを受けて埋没した。得票率では自民党47%、民主党36%と大差ないにもかかわらず、獲得議席では自民党が62%を占めた。とくに首都圏の25選挙区で民主党から当選したのは菅直人氏1人だけだった。岡田代表が生真面目すぎて魅力に乏しく、「日本を諦めるな」などという後ろ向きで悲観的なスローガンも迫力を欠いた。

 背景には小選挙区制の制度的欠陥がある。小選挙区は勢いに乗る政党に有利に働く。今回、自民党は小選挙区で7割以上の議席を制した。これで自民党勝利の流れは増幅され、民主党候補の死票は76%に達した。

 小選挙区制は欧米の模倣だが、地すべり的大勝をした党は、有権者のバランス感覚が働いて次の選挙で大敗する傾向がある。英国では12年間君臨したサッチャー保守党政権のあと労働党が大勝、ブレア政権が登場したが、最近は人気低迷気味、保守党復権の期待が高まっている。。18日に行われるドイツの総選挙でも政権交替が取りざたされている。大敗後の次こそ出番と心得て、民主党は捲土重来を期すとよい。そのためには夢を語り、具体的な代案を打ち出さねばならない。

 今回の選挙戦では外交・安保論議がほとんど行われなかった。郵政民営化法案成立後は外交を大いに語り、外交に専念してもらいたい。自衛隊のイラク派遣、インド洋における後方支援は即刻中断すべきだ。国連決議による国際貢献ではなく、日米安保体制下の集団自衛権発動だからだ。ブッシュ大統領との盟友関係は自慢にならない。ブッシュ氏は史上最悪、最低の大統領として歴史に残るのは確実だからだ。

 日韓関係修復こそ急務だ。靖国参拝は自粛し、日朝国交正常化を軌道に乗せて引退すればその名は歴史に残るだろう。首相の盟友・山崎拓氏の動きに注目したい。

【『電気新聞』2005年9月15日「時評ウェーブ」欄】

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