2004年5月24日
サマータイムを導入しよう
このコラムに登場して以来、私は主に国連改革、核拡散問題、北朝鮮・イラクなどの外交問題を論じてきたが、一度取り上げたいと思っていたのがサマータイム問題だ。
記者生活と国連在勤を含めて通算13年間、私は欧米諸国で生活し、サマータイムに親しんできた。敗戦直後、日本がGHQ(連合軍総司令部)の指示で四年間採用したのも記憶している。廃止の最大の理由は労働強化につながるという労組の反対だった。
最近サマータイム導入論が再燃しているのは地球温暖化対策のためで、1999年に内閣府の地球温暖化対策推進本部が採用を提唱、さらに2002年に打ち出した対策の「大綱」でも導入による省エネ効果を強調した。
しかし省エネ試算では原油換算で50万キロリットル、別の試算でもせいぜい86.8万キロリットル、日本の年間消費量の0.1%前後にしかならない。後者の試算によるCO2(二酸化炭素)削減効果は70万トン相当というが、1999年の日本のCO2排出量は12.2億トンだから削減率は0.06%ほどにしかならない。
省エネ効果が少ないとあれば、当然、反対意見が多くなる。いわく、日本は高温多湿、国土が東西南北に22度も広がり、節電の効果は本来期待できない。いわく、不況下でサービス残業が増え、レジャーには結びつかない。いわく、時計、デジタル機器、電化製品のタイマー類の時間の切り替えが煩雑だ。インターネットで検索すると、サマータイム反対論ばかりが画面を埋め尽くしている。日本国民の7割が反対だという世論調査もある。
そんな矢先、社会経済生産性本部が「サマータイムを導入すれば夕刻の交通量のピーク時が明るい時間帯に前倒しになるため、薄暮に発生が多いとされる交通事故が年間約一万件減少し、その経済効果は年間460億円に達する」という試算を発表した。さらに夕刻、女性が勤め先から帰宅する際と買い物時に、ひったくりに遭う被害もそれぞれ10%、4%ずつ減る効果もあるという。同本部の試算では、省エネ効果は原油換算93万キロリットル削減となり、全国民の66日間テレビを見ない場合の電力消費量に相当するという。何とかしてサマータイム導入に世論の風向きを変えたい苦しまぎれの理由づけと映る。
緯度が南寄りの日本の風土には馴染まないというなら、一律に実施する必要はなく、照明需要だけでも効果の顕著な地域で実施すればいいというのが私の持論だ。折しも札幌商工会議所が「サマータイム北海道特区」を提唱しているのに思わず快哉を叫んだ。アメリカは州ごとに導入を決めているし、ヨーロッパも一律ではない。
欧州大陸でスイスだけが採用せず、頑張っていた時期がある。住民投票で不採用を決めた最大の理由が、サマータイムになるとウシが寝不足になり、ミルクの出が悪くなるというものだった。当時、フランスに住み、毎日スイス領のジュネーヴに通勤していた私は、越境するたびに一時間早めたり、遅らせたりするのが煩わしかったが、人間というのはすぐ慣れるもので、一週間もすると気にならなくなった。
国内の反対論は柔軟性を欠くヘリクツが多い。毎年1500万以上の日本人が時差など苦にせず海外旅行をしているではないか。アメリカ国内だけで6時間の時差が常時存在するのだ。サマータイム開始時に1時間進め、終了時に1時間遅らせる年に2回の手間ひまなど大したことではない。欧米の諸国民は過去100年近く、これを繰り返しているのだ。中南米からアフリカまで、採用している国は70カ国以上にのぼる。
そもそも20世紀初めに欧米人が始めたのはデイライト・セービング、日光を最大限に利用して自然に親しみ、人生をエンジョイするためだ。省エネはあとから付いてきた副次効果だ。この原点に賛成なら日本もまた導入してみようではないか。「北海道特区」も悪くない。滋賀県独自の試みもある。
【『電気新聞』2004年5月24日付時評「ウェーブ」欄】