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プロフィール

吉田 康彦

吉田 康彦

1936年東京生まれ
埼玉県立浦和高校卒
東京大学文学部卒
NHK記者となり、ジュネーヴ支局長、国際局報道部次長などを歴任

1982年国連職員に転じ、ニューヨーク、ジュネーヴ、ウィーンに10年間勤務

1986−89年
IAEA (国際原子力機関)広報部長

1993−2001年
埼玉大学教授
(国際関係論担当)
2001-2006年
大阪経済法科大学教授
(平和学・現代アジア論担当)

現在、
同大学アジア太平洋研究センター客員教授

核・エネルギー問題情報センター常任理事
(『NERIC NEWS』 編集長)

NPO法人「放射線教育フォーラム」顧問

「21世紀政策構想フォーラム」共同代表
(『ポリシーフォーラム』編集長)

「北朝鮮人道支援の会」代表

「自主・平和・民主のための国民連合・東京」世話人

日朝国交正常化全国連絡会顧問

学歴・職歴

北朝鮮人道支援の会

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国連改革
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2011年1月11日

2010年の国際連合(活動総括)

 

ことしは「国際森林年」

2011年は、国連総会が「国際森林年」「国際化学年」「国際ユース(青年)年」「アフリカ系の人びとのための国際年」と定めており、それぞれの課題に対し、加盟国が市民の関心を盛り上げ、課題解決に向けて国際世論を喚起することを呼びかけている。

とくに「国際森林年」では、「持続可能な開発」のための「森林資源の管理」の重要性を再認識し、貧困の根絶とミレニアム開発目標達成に森林が果たす役割を重視することが求められている。

化学年では、化学に対する人類の関心を高め、これを「持続可能な開発」に活かすよう呼びかけている。

 

日本の安保理「非常任理事国」任期終わる

日本は2009年から2年間、安保理非常任理事国として加盟国最多の10回目の非常任理事国を務めていたが、2011年からヒラの加盟国に戻った。これを機会、潘基文国連事務総長は退任予定だった高須幸雄国連大使に特別顧問就任を要請、、「人間の安全保障」担当を依嘱した。

 

国連事務総長の広島・長崎訪問

 潘基文事務総長は、8月、広島の原爆死没者慰霊式ならびに平和祈念式典に国連のトップとして就任以来初めて参列し、核兵器廃絶への人類の悲願を表明した。同氏は、広島だけでなく長崎も訪問し、被爆者との対話集会に出席した。

 広島の記念式典には世界の70カ国以から代表が参列、とくに米国のルース駐日大使、ロシアと中国の日本駐在外交官も出席した。従来は英仏だけだったので、NPT公認の核兵器国すべて揃って参列したのは今年が初めて。

 これに先立つ9年8月、第63回総会議長のミゲル・デスコト神父(ニカラグア大統領顧問・閣僚級)が広島・長崎を訪問した。訪問時点では現職の議長。ちなみに、10年9月開幕した第65回総会議長には、ジョゼフ・ダイス氏(元スイス大統領=スイス大統領は1年交替で閣僚が就任)が選出された。

「平和の番人」としての安保理機能せず

2010年は、3月に韓国哨戒艦「天安」沈没事件が発生、次いで11月に北朝鮮の韓国領「延坪島」砲撃などが続発、北東アジア情勢が緊張したが、中国、ロシア(砲撃戦ではとくに中国)が安保理の介入に反対し、このため非難声明も出せず、有効に機能しなかった。dr

9月に北朝鮮の労働党代表者会が44年ぶりに開催され、金正日後継体制が固まった。中国指導部は権力の世襲には反対していたが、最終段階でこれを容認、安保理での討議には一貫して反対した。

安保理改革論議は前年に続いて目ぼしい進展は見られなかった。11月、中間選挙で大敗したオバマ大統領はインドを公式訪問、インドの常任理入り支持を表明した。オバマ政権が安保理改革で他国の常任理入りを表明したのは初めて。前原誠司外相は、9月、国連総会に出席、その途次、安保理改革に関するG4(日本,インド,ドイツ,ブラジル)外相会合を主催した。

席上、安保理が正統性と実効性を有するため早期の安保理改革の実現が不可欠であること,そのための推進力たるG4の結束が重要であることを確認した。また,2011年9月開幕の国連総会の会期中に安保理改革についての具体的な成果を出すべく協力していくことで意見が一致した。

 

菅直人首相の総会演説

菅直人首相は9月、国連総会で一般討論演説を行い、「一国のリーダーが果たすべき役割は最小不幸社会を築くことだ」と持論を述べ、開発途上国支援、地球環境、核軍縮・核不拡散、平和維持・平和構築の4分野で日本が先頭に立つ決意を表明した。

核軍縮・不拡散に関しては、「人類の生存を脅かす状況を作ったのが人間である以上、人間の努力で解決は可能だと信じている」と述べ、オバマ大統領が呼びかけた「核兵器のない世界」の実現に向けて具体的に行動する決意を表明した。しかし実際には、日本は米国の「核の傘」に依存しており、言行一致してえいない。

 北朝鮮とイランの核開発問題にも触れ、両国が安保理決議を履行するよう訴えたほか、北朝鮮については「日朝国交正常化には、拉致問題の解決が不可欠だ」とも訴えた。

 

「ミレニアム開発目標」の達成は困難

9月、ミレニアム開発目標(MDG)点検と再検討のために首脳会議がニューヨークで開催され、各国首脳が意見を交わしたが、?極度の貧困の半減、?飢餓人口の半減、?5歳以下の乳幼児の死亡率の削減、?妊産婦の健康改善、?エイズなどの疾病拡大防止など、所定の8項目のうち5項目の目標達成には資金不足など多くの困難が横たわっており、目標達成困難であることが明らかにされた。

とくに母子の保健分野の改善は目標達成が不可能と報告された。

 

生物の多様性維持では国際合意成立

 「生物の多様性条約」第10回締約国会議(COP10)は10月、176カ国から13,000人が参加して名古屋で開催。医薬品のもとになる動植物の「遺伝資源」について、利用する際の利益配分などの国際ルールを定めた「名古屋議定書」採択に成功した。

 人間活動にともなう環境破壊の影響により、生物の多様性が急速に失われつつある中で、唯一明るいニュースだった。日本は開催国として会議成功に大いに貢献、とくに山間地帯の自然保護と資源の有効活用をアピールした「SATOYAMAイニシアチヴ」は注目された。しかし生物多様性保全のための特定の数値目標を設定することでは合意できなかった。

 

温暖化防止策は進展せず

 温暖化防止のための「京都議定書」を延長すべきか否かを話し合うCOP16は12月、メキシコのカンクンで開催されたが、日本が2012年以降の議定書延長に強硬に反対し、決定は2011年のCOP17に先送りされた。日本が反対した理由は、CO2の主要排出国である米国のほか、新興国の中国、インドなどの大口排出国が「京都議定書」に加盟しておらず、CO2の削減義務を負っていないため、「同議定書」を延長しても加盟国による削減努力では年間排出量の27%しかカバーせず、人類全体の削減努力に実効性がないためだ。

 日本の主張は、中国、インドなどにも排出削減義務を負わせ、負担の公平性を期すべきというもので、正論ではあるが、国際社会の足並みは揃わなかった。現状の「京都議定書」は途上国にいかなる削減目標も課せられていないのが問題点。

 

北朝鮮の人権状況に憂慮を表明

 総会本会議は12月、北朝鮮の人権状況に憂慮を表明し、拉致問題を早急に解決するよう求めた日本など52カ国の共同提案の決議案を賛成多数で可決、採択した。投票は賛成106、反対20、棄権57。同趣旨の決議案は毎年採択されている。

 

核軍縮・核廃絶決議

総会本会議は12月、日本が「核兵器の全面的廃絶に向けた共同行動」を呼びかけた決議案を賛成173、反対1、棄権11で採択した。同様の決議案採択は17年連続で、賛成国はこれまでで最高の2008年と並んだ。反対は北朝鮮のみ。中国、ブラジル、イラン、イスラエル、インド、パキスタンなどが棄権した。米国も共同提案国に加わった。タイトルも、「核兵器のない世界に向けた国際社会の具体的行動を求めるもの」と改めたが、決議案が示した具体的行動はあいまいで、抽象的。共同提案国は、史上最多の90カ国に達したが、NPT(核不拡散条約)再検討会議の最終文書のハイライト「核兵器禁止条約」締結提案に触れておらず、同条約構想に消極的な日本の立場を象徴している。

 

NPT(核不拡散条約)再検討会議

5月にニューヨークで開催されたNPT再検討会議は、核兵器国と非核兵器高の対立で「最終文書」の採択が危ぶまれたが、最終段階でオバマ米政権が大幅な妥協を重ねて合意にこぎつけ、成功裏に終わった。一国行動主義を掲げたブッシュ前政権下で決裂した5年前の前回の会議(2005年)とは対照的だった。しかしオバマ政権の多国間外交による今回の成果は早速、イランや北朝鮮問題への対処という現実の場面で試されることになったが、その後、効果はあがっていない。。

 核軍縮に積極的なオバマ政権のイメージもあり、今回の会議は開幕前から成果への期待がふくらんでいた。だが米国は実際には、成否の目安となる「最終文書の採択は難しい」と、期待値を下げることに躍起となった。

 その要因はイランだった。最終文書の採択は全会一致が原則だ。「1カ国でも反対すれば、すべてがご破算になってしまう」。予防線を張るかのような米当局者のコメントは、明らかにイランへの警戒を示していた。

 会議冒頭の一般演説では、クリントン米国務長官とイランのアフマディネジャド大統領の非難の応酬で始まった。しかし、米国はその後、イランへの批判を封印し、驚くほどの自制を見せた。

 最大の対立点となった「中東非核化構想」をめぐる議論で、中東諸国は、最終文書に「イスラエル」という国名を明記し、同国にNPT加盟などを求めるよう要求した。結局、最終文書には「イスラエル」が盛り込まれ、米国は一定の譲歩をした。前回会議では、イスラエルをめぐる同様の構図が決裂の主因だっただけに、米国の姿勢の変化が鮮明となった。

日豪の新提案

日本と豪州が共同議長となって、国連総会に提出した「核軍縮・核不拡散に関する報告書」をめぐって外相会議が開かれ、日豪両国はじめ、ドイツ、オランダ、カナダなど10カ国の外相が出席した。前原外相は、「日豪の提案を呼び水にして、CTBT(包括的核実験禁止条約)の早期発効、カットオフ条約(核分裂性物質の生産禁止条約)の早期締結が実現することを希望する」と訴えた。

オバマ米大統領が2009年4月、プラハで「米国は核兵器のない世界を目指す」と述べ、政策目標に核廃絶を掲げて以来、核兵器廃絶に向けた国際世論が高まり、これがNPT再検討会議の空気にも反映したが、オバマ大統領は同時に、「米国は同盟国との約束は守る。米国はこの地上に1発でも核兵器が残っているかぎり、先に廃棄することはない」とも述べており、ムード先行の核廃絶論議を戒めている。これを裏づけるように、米国はネバダ州で通算24回目の臨界前核実験を実施した。

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