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プロフィール

吉田 康彦

吉田 康彦

1936年東京生まれ
埼玉県立浦和高校卒
東京大学文学部卒
NHK記者となり、ジュネーヴ支局長、国際局報道部次長などを歴任

1982年国連職員に転じ、ニューヨーク、ジュネーヴ、ウィーンに10年間勤務

1986−89年
IAEA (国際原子力機関)広報部長

1993−2001年
埼玉大学教授
(国際関係論担当)
2001-2006年
大阪経済法科大学教授
(平和学・現代アジア論担当)

現在、
同大学アジア太平洋研究センター客員教授

核・エネルギー問題情報センター常任理事
(『NERIC NEWS』 編集長)

NPO法人「放射線教育フォーラム」顧問

「21世紀政策構想フォーラム」共同代表
(『ポリシーフォーラム』編集長)

「北朝鮮人道支援の会」代表

「自主・平和・民主のための国民連合・東京」世話人

日朝国交正常化全国連絡会顧問

学歴・職歴

北朝鮮人道支援の会

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  • 入会申込書
  • 代表・役員
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国連改革
TOP > 国連改革 > 2012年の「国連」の動き

2013年1月21日

2012年の「国連」の動き

以下、ご参考までえにブリタニカ国際年鑑2013年版所載の「国連」全文を転載します。同年鑑は2013年4月刊行予定ですが、私が過去10年間、「国連」を担当しています。

 

2013年は“水の国際協力”と“キノア”保護の年

 12月、総会は2013年を「持続可能な開発を確保するために水をめぐる国際協力を強化し、推進する年」(International Year of Water Cooperation)と定めた。また同時に、アンデスの先住民族の伝統的食糧キノア(Quinoa)の保護と育成が「生物の多様性を確保し、維持する保証となる」ことから、「その実現のために国際協力(International Year of Quinoa)を推進する年」と定めた。

 

国連改革の動きなし、韓国など安保理非常任理事国に当選

 安保理はじめ国連改革の目立った動きはなかった。2年ごとに交代する非常任理事国としては、新たに韓国、オーストラリア、ルクセンブルク、アルゼンチン、ルワンダの5カ国が選出された。韓国は決選投票でカンボジアを破り、16年ぶり、2度目の当選。日本は現在、非常任理事国ではないが、2015年に立候補の計画を進めている。

 

野田佳彦首相の国連総会出席

野田首相は9月、開会中の国連総会に出席して一般演説をした。これで2年連続の出席。演説では、尖閣諸島ならびに竹島の領有をめぐる中国・韓国との緊張をめぐっては、国際法にもとづく平和的解決の必要を訴えた。

ただし日本政府は、「中国との領土紛争は存在せず」というのが公式の立場。竹島については日本が主張する国際司法裁判所への提訴に韓国が応じないことから提訴が成立せず、自縄自縛の状態にある。

 野田首相は、任期が延長され、2期目に入ったパンキムン事務総長と会談、席上事務総長はTICAD-V(第5回アフリカ開発会議)の開催、原子力安全のための日本の貢献に謝意を表明した。

 

日本の国連分担金、ピーク時の半額に減少

 国連加盟国の分担金は、人口、GDP(国内総生産)、一人あたりの国民所得などの時の経済指標にもとづいて分担金委員会が総会に提案し、承認を得て決まるが、12月、2013−15年向こう3年間の新しい分担金比率が承認された。

 それによると、日本の新分担金比率は10・833%。順位は、依然として米国に次いで2位ながら、経済力の相対的低下にともない、2000年当時(ピーク時)の20・573%のほぼ半額に減少した。

 上位10カ国の順位は次の通り。

?米国     22・000%

?日本     10・833%

?ドイツ     7 ・141%

? フランス     5・ 593%

?イギリス   5・179%

?中国      5・148%

?イタリア    4・448%

? カナダ    2・984%

? スペイン   2・973%

?ブラジル    2・934%

 日本政府は、安保理常任理事国入りを求める動機・論拠として、常任理事国のうち、日本1カ国の分担金だけで米国を除く既存の理事国4カ国の分担金総額をも上回るという点を挙げてきたが、今後、少なくともこの論拠は失われることになる。

 

高須大使国連事務次長に就任

 4月、高須幸雄国連大使が予算・人事などを統括する国連事務局の管理局長(事務次長)に就任した。日本人としては、3月に退任した赤坂清隆氏(広報担当)に続いて8人目の幹部。

 

自衛隊の南スーダンPKO派遣とゴラン高原からの撤退

 1月、先遣隊24名、次いで陸上自衛隊施設大隊40名が「国連南スーダン使節団」(UNMISS/United Nations Mission in South Sudan)の一員として日本を出発、現地に向かった。

 自衛隊のPKO派遣実績としては、カンボジア、モザンビーク、東ティモール、ネパール、スーダン、ゴラン高原、ハイチに続くもの。ただし現在、展開中の活動はゴラン高原とハイチのみ。(両者とも撤収間近)。他に短期の難民救済支援としてはルワンダ、アフガニスタン、ホンデュラス、イラクなどの例もあるが、他の先進諸国と比較すると、きわめて少ない。

南スーダンは独立して日が浅く、インフラも未整備、気候も苛烈で、自衛隊の任務遂行は困難をきわめている。6月現在、現地に駐在する自衛隊員は総勢330名に達した。派遣の任期はその後、2013年10月まで延長された。

ハイチ派遣のPKO部隊は2012年末で撤収の予定。また1996年以来、中東のゴラン高原に展開していたUNDOFThe United Nations Disengagement of Forces)国連兵力引き離し軍)派遣の自衛隊も現地情勢の不安定化にともなって、任期を前倒しして、年末から順次帰国した。過去17年間に主として物資補給、人員輸送などの後方支援に従事した。

 

北朝鮮の“人工衛星”発射問題

 北朝鮮は金日成生誕100年の誕生日(4月15日)を期して地球を周る軌道上に人工衛星を打ち上げたが、失敗。衛星は軌道に乗らなかった。北朝鮮としては異例の公表に踏み切り、失敗を認めた。しかし人工衛星打ち上げと称しながら、長距離ミサイル技術を利用しており、国際社会としては、「一連の安保理決議に違反する」として北朝鮮を非難する「議長声明」を発表した。しかし議長声明には拘束力はなく、新たな決議案採択には至らなかった。

 その後、12月に、気象観測・資源探査など宇宙空間平和利用をと称して「銀河3号」を打ち上げ、今回は軌道に乗せた。しかし新安保理決議採択は中国の反対で実現しなかった。日本は米国主導で北朝鮮制裁強化決議案採択を目指して協議が続いているが、拒否権をもつ中国が反対しているかぎり、採択の見込みはない。

 

北朝鮮の人権侵害非難決議、初めて全会一致で採択

 総会は、12月、日本人拉致問題をはじめ、その他の深刻な人権侵害を非難し、北朝鮮に対し早期解決を求めた日米、EU(欧州連合)諸国共同提出の決議案を8年連続で採択した。総会で投票には付さず、「全会一致で」承認した。

 

シリア内戦激化と国連の調停失敗

 シリアのアサド政権と反政府勢力の戦闘は年間を通じて続き、アナン前国連事務総長が特使として調停役を引き受けていたが、不首尾に終わり、アナン氏は辞任。8月、後任にアルジェリア元外相のラクダル・ブラヒミ氏が就任した。しかし12年12月現在、ブラヒミ調停も実らず、内戦は激化するばかり。死者はすでに国際人権団体の推定で4万5000人を超えている。情勢悪化の根本原因は、アサド政権が反政府勢力を「テロリスト」と決めつけて和平交渉に応じないためだが、背景には、武器輸出の得意先であるアサド政権と良好な関係を維持し、制裁に反対しているロシアの存在があり、アサド政権崩壊まで解決しそうにない。ただし国際社会の支持も徐々にアサド政権から離れており、シリアの政権が代われば内戦も終焉に向かうという見方が有力だ。

 その間、国連は断続的に停戦監視団を現地に派遣してきたが、任務未達成のまま8月撤収した。

 

パレスチナ国家のオブザーハーの地位承認

 パレスチナは従来、機構として国連の諸活動にオブザーバーとして参加していたが、12月、地位の変更(格上げ)を認める決議案が採択され、議決権はないものの、「国家」(state)として総会の討議に参加できることになった。

決議案には、イスラエル、米国など9カ国が反対投票したが、日本を含む138カ国が賛成票を投じた。棄権は41カ国。ただし正式の国連加盟には安保理の承認が不可欠で、米国の拒否権が障害となっている。

 

スリランカ内戦処理で自己批判の報告書公表

 12月、スリランカの多数派シンハラ人と少数派タミール人との民族抗争が2008年に終結した際、その末期に、タミール人の安全保障のために、国連が十分な保護を加えなかったという外部批判に対する自己批判と反省を盛り込んだ専門家の報告書を公表した。

 スリランカ内戦は過去20年間続き、累計の犠牲者10万人以上を出したあと、シンハラ人の勝利で終結したが、国連の仲介は中立性を欠いていたとして内外から批判が出ていた。

 

イランと北朝鮮の核開発疑惑消えず

 イランと北朝鮮がIAEA(国際原子力機関)の保障措置(査察)を受けないまま、秘密裏に核兵器の開発を続けている問題は2012年も解決せず、国際社会の疑惑が深まっている。

 イランとIAEAとの接触は断続的に続いたが、イランはIAEAの査察官の監視の目をかすめて秘密開発をつづけ、核兵器への転用が容易な濃縮度20%の地下核施設におけるウラン備蓄は125キロを超え、兵器生産が可能とされる200キロに近づいていると憂慮されている。

 他方、北朝鮮も、2009年に査察官を追放して以来、IAEAの査察の網を抜け出し、追跡不能の状態にある。ウラン濃縮の事実も公式に認めている。長距離ミサイル発射も平和目的と称しているが、開発技術は兵器開発と変わりない。両国と国連のシーソーゲームはつづく。

 

「開発と環境」に関する国連主催会議(リオ+20)、実りなく終わる

 6月、リオデジャネイロで「開発と環境」に関する初の国連主催会議(地球サミット)開催以来20周年を記念して、その後の推移を検証する会議(リオ+20)が同じくリオで開かれたが、先進国の関心が薄く、成果なく終わった。

 先進国から首脳会議に出席したのはフランスのオランド大統領だけ。日本からは玄葉光一郎外相が出席、日本として総額60億ドルのODA(政府開発援助)拠出を表明したが、この額もピーク時の年間支出の半分ほどでしかない。

 

温暖化阻止の国際的枠組みづくりは先送り

 2012年で期限の来る、地球温暖化防止のための「京都議定書」に替わる新国際協定を模索するCOP−18は12月、カタールのドーハで閣僚会議を開催したものの、先進国と新興国の対立が深刻化し、合意には至らなかった。

 先進国は、CO2排出削減のための枠組みに、中国、インドなど現在、削減義務を課されていない途上国の参加を義務と心得、削減枠を受け入れるよう呼びかけたのに対し、途上国は、CO2増加に伴う地球環境破壊は先進国の経済活動の結果であり、削減は先進国のみの義務。途上国の協力確保のためには資金援助を増額が不可欠と主張。両者の主張は対立したまま時間切れとなり、決定を先送りした。

その結果、2014年のCOP-20までに懸案を整理し、15年までに交渉文書をまとめ、さらに2020年の交渉の際、各国の削減目標を改めて議論することになった。あいまいな先送りだ。中国、インドなど新興の大口排出国を枠組みに加えることが不可欠。その認識が深まり、共有されただけでも前進だ

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