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プロフィール

吉田 康彦

吉田 康彦

1936年東京生まれ
埼玉県立浦和高校卒
東京大学文学部卒
NHK記者となり、ジュネーヴ支局長、国際局報道部次長などを歴任

1982年国連職員に転じ、ニューヨーク、ジュネーヴ、ウィーンに10年間勤務

1986−89年
IAEA (国際原子力機関)広報部長

1993−2001年
埼玉大学教授
(国際関係論担当)
2001-2006年
大阪経済法科大学教授
(平和学・現代アジア論担当)

現在、
同大学アジア太平洋研究センター客員教授

核・エネルギー問題情報センター常任理事
(『NERIC NEWS』 編集長)

NPO法人「放射線教育フォーラム」顧問

「21世紀政策構想フォーラム」共同代表
(『ポリシーフォーラム』編集長)

「北朝鮮人道支援の会」代表

「自主・平和・民主のための国民連合・東京」世話人

日朝国交正常化全国連絡会顧問

学歴・職歴

北朝鮮人道支援の会

  • 設立宣言
  • 活動実績
  • 入会申込書
  • 代表・役員
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外交・安保
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2005年11月18日

米印原子力協定を歓迎する

 21世紀はBRICsの時代だという。ブラジル、ロシア、インド、中国の頭文字で、国土、資源、人口から発展の可能性を予測したものだが、人口からすれば、13億の中国、11億のインドが抜きん出ている。

 とくにインドは2025年には人口で中国を凌駕、世界一の人口大国になる見通しだ。経済成長率も過去10年、平均6.8%を記録、IT産業中心に発展を遂げ、ソフトウェア分野の米企業のアウトソーシングは他国を圧倒している。インド人は英語を自由に話し、大学の8割は理系というのが強みになっている。在米のインド人留学生は8万5000人、外国人学生で最大規模を誇る。

 そのインドと、ブッシュ米政権が原子力平和利用の協力関係強化を打ち出した。インドは1974年に初めて核実験を実施、NPT(核拡散防止条約)非加盟を貫き、98年にはパキスタンとともに核兵器保有国となり、米国はじめ日本、西欧諸国の経済制裁を課せられていただけに波紋は大きい。

 今年7月、インドのマンモハン・シン首相訪米の際、ブッシュ大統領と共同声明を発表、「米印戦略的パートナーシップ」の一環として原子力平和利用面の協力で合意した。インドが核開発を切り離して、すべての平和利用施設をIAEA(国際原子力機関)の保障措置下におくことを条件に、米国が関連器材、燃料などの提供に応じるというものだ。

 ブッシュ政権の政策転換の背景には、?インドがNPT非加盟ながら核不拡散政策を堅持し、テロ対策でも米国に積極的に協力していること、?中国とともに輸出市場として将来性に富み、しかも中国を牽制する効果があり、アジアにおける米国の影響力強化に役立つと判断したことがある。

 米国は、先月ウィーンで開催されたNSG(原子力供給グループ)会合で、原子力関連器材の輸出規制の対象からインドを除外するよう提案した。NSGは本来インドを封じ込め、さらなる核開発と核拡散を阻止するために創設されただけに、日本のように、NPT体制堅持に努め、NSGの決定にも忠実に従ってきた国は戸惑いを隠せないが、ロシア、英国、フランスなどの核保有国は歓迎している。

 インドの原子力開発の歴史は古く、1945年ムンバイ(ボンベイ)にタタ財閥の出資で原子力研究所を建設して平和利用研究に着手、55年にジュネーヴで開催された第1回原子力平和利用国際会議ではインドのホミ・バーバ博士が議長を務めた。

 そのインドが核開発に乗り出したのは、1962年の中印国境紛争のあと64年に中国が核実験に成功、「核クラブ」入りを果たして以来だ。フランスも核実験に成功、これ以上の核拡散をおそれた米英ソ3国は、これら5カ国だけを核保有国として容認したNPTを68年に取りまとめ、各国に署名を強要した。インドはこれを「核のアパルトヘイト」と呼んで反発、署名拒否を貫きながらも、74年の初実験後も「オプション・オープン」政策を採用、場合によっては核廃棄にも応じられる選択肢を残し、国連で積極的に核兵器全廃を訴え続けた。

 しかし隣国パキスタンのブット首相は「草の根を食んでも核を」と叫んでカーン博士に核開発を命じ、その結果、98年5月、インド、パキスタンが相次いで地下核実験して南アジアに核が拡散、先進各国が制裁に動いたわけだ。この流れが逆転したのは9・11同時テロのあと、米国がタリバン政権打倒のためにパキスタン軍部の協力を必要としたからだが、副産物としてカーン博士の「核の闇市場」が発覚、信用失墜したのに対し、インドの不拡散政策は一貫しており、米国が政策転換したのもうなずける。

 NPTは金科玉条ではない。しかもご都合主義の不平等条約だ。平和利用に徹する日本こそ、対インド原子力協力に本格的に乗り出すべきだ。この種の対米追随は結構だ。むしろ米国に先んずる位の勇気が欲しかったところだ。

【『電気新聞』2005年11月18日時評ウェーブ欄】 

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