2005年5月06日
韓中両国の「反日」は米国の思うツボ
韓国から中国へ津波のように広がった「反日」デモはこれからも余震をくりかえすだろう。大津波の再来もありうる。お花見気分に浸っていた私たち日本国民には予期せぬ衝撃波だったが、韓国にも中国にも兆候は存在していた。
日本は過去の歴史から学ばず、朝鮮半島の植民地支配、中国に対する侵略を反省していないというものだ。小泉首相の靖国神社参拝、「新しい歴史教科書」の検定合格、憲法・教育基本法改正の動きなど一連の右傾化現象にそれが表れているというのだ。それが、韓国では竹島領有問題で、中国では「政冷経熱」の延長上で激動した。
東アジア近隣諸国の一連の動きから長期的影響を無視できない点がいくつかある。
まず、反作用として日本のナショナリズムに火をつけ、「右傾化」と軍事大国化を助長するであろう。従来の右傾化は北朝鮮の脅威を口実に進んでいたが、「脅威」は朝鮮半島全域に及び、人口13億の中国までもが日本にとっての脅威ということになると由々しい事態だ。彼らにとっては日本が脅威だというのだが、「脅威」のエスカレーションで漁夫の利を占めるのは米国ばかりではないか。
次に、韓中両国とも日本の国連安保理常任理事国入りに反対しているが、大勢に影響はないものの、改革つぶしとして無視できない。
現在、安保理改革案としてアナン事務総長が提示しているのはハイレベル諮問委員会が答申したA 案とB案の2案がある。A案は、「拒否権」なしの常任理事国として新規に6カ国加えようというもので、日本、ドイツ、インド、ブラジルの4カ国のほかにアフリカの2カ国が立候補している。これに対しては、イタリア、パキスタン、メキシコ、アルゼンチンなどのライバル国が立ちはだかり、A案つぶしに全力を挙げている。その意味で、日本の常任理入りに韓国が反対するのは当然なのだ。10年前の改革案は実現一歩手前まで行ったが、ドイツの常任理入りへのイタリアの猛反対で頓挫してしまった。
ライバル国にとって望ましいのは、常任理事国は5カ国の現状維持にして、任期4年で再選可能な「準常任理事国」を8カ国増やそうというB案だ。日本やドイツは不満だが、これなら韓国もイタリアも交替で安保理の常連になれる。
その点、中国の反対は身勝手だ。いずれの改革案が実現しても、拒否権を有する常任理事国として既得権を失うわけではないのに、インド、ドイツの常任理入りには賛成し、日本にのみ反対しているのは嫌がらせ以外の何ものでもない。ただし、改革案は総会を通過しても、国内手続きとして批准しないと発効しない。特に常任理事国5カ国の批准は不可欠だ。もし中国の人民代表大会が批准案を否決すると国連改革全体をつぶしてしまう結果になるので、そこまで反日を貫く勇気
最後に、韓中両国における反日運動は「東アジア共同体」実現の夢をさらに遠のかせてしまった。私は2年前の本欄で、「東アジア共同体は“夢の夢”」と題して、ムード先行の楽観論を戒めたが、ますますその確信を深めている。EU(欧州連合)実現には、クーデンホーフ・カレルギー伯の欧州統合構想以来100年を要し、EEC(欧州経済共同体)発足以来50年を経ている。東アジアにはその実績はなく、日中両国が突出し、しかも対立の根が深い。
ASEAN (東南アジア諸国連合)は順調に地域統合の歩みを進めているが、それでも「共同体」というには同質性と共通の価値観を欠いており、域内の発展段階も政治形態も異なる。北東アジアでは、中国は共産党一党独裁、朝鮮半島は南北分断、日本はドイツと違って「過去の清算」を済ませたと見られていない。深刻な領土紛争もある。障害だらけだ。何より、それを歓迎しているのは米国であることを忘れてはならない。
【『電気新聞』2005年5月6日時評「ウェーブ欄」】