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プロフィール

吉田 康彦

吉田 康彦

1936年東京生まれ
埼玉県立浦和高校卒
東京大学文学部卒
NHK記者となり、ジュネーヴ支局長、国際局報道部次長などを歴任

1982年国連職員に転じ、ニューヨーク、ジュネーヴ、ウィーンに10年間勤務

1986−89年
IAEA (国際原子力機関)広報部長

1993−2001年
埼玉大学教授
(国際関係論担当)
2001-2006年
大阪経済法科大学教授
(平和学・現代アジア論担当)

現在、
同大学アジア太平洋研究センター客員教授

核・エネルギー問題情報センター常任理事
(『NERIC NEWS』 編集長)

NPO法人「放射線教育フォーラム」顧問

「21世紀政策構想フォーラム」共同代表
(『ポリシーフォーラム』編集長)

「北朝鮮人道支援の会」代表

「自主・平和・民主のための国民連合・東京」世話人

日朝国交正常化全国連絡会顧問

学歴・職歴

北朝鮮人道支援の会

  • 設立宣言
  • 活動実績
  • 入会申込書
  • 代表・役員
  • ニューズレター

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教育・文化
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2005年1月21日

新エリート教育のすすめ

 ブッシュ政権の新国務長官に就任したコンドリーザ・ライスは19歳で大学卒業、21歳で博士号取得、26歳で大学教授となった。英才であり、エリートだ。黒人女性も才能次第で評価され、能力を生かす場が与えられるという米国社会の懐の深さを示している。

 OECD(経済協力開発機構)の調査によると、日本の中高生の学力低下が著しく、文章の読解力では世界の先進諸国ランクで中位に落ち込んだ。アジア諸国との比較でも、理科以外すべての分野で韓国、香港に抜かれてしまった。

 そこでにわかに叫ばれているのがエリート教育必要論だが、日本では英才教育とエリート教育が混同されている。両者は根本的に異なる。

 戦後のいわゆる民主主義教育の欠陥はエリート否定、英才否定の画一的なキンタロー飴教育にある。すべてに人並みであることが模範とされ、その結果、無個性、無自覚、無責任な日本人が大量生産された。

 英才教育は、特異な才能に恵まれた者の才能を伸ばす教育で、一芸に秀でた者を早期発見し、生かす場を与えようというもので、芸術分野には多く見られる。スポーツ選手も同様で、野球のイチローもゴルフの宮里藍も父親から英才教育を受けてきたが、生かすも殺すも家族の努力にかかっている。これを学校教育の現場でも、飛び級や入学年令繰上げなどで公認しようというのが英才教育だ。

 これに対し、エリートは17世紀に登場したフランス語で、「選ばれた者」を指し、条件として「ノブレス・オブリージュ」(noblesse oblige)が求められる。「高貴なる者には義務が伴う」という意味で、自由と正義のために生命を投げ出しても闘う者こそがエリートとされる。社会奉仕を使命として自覚しない者にエリートの資格はない。これが本来の意味だ。

 このあと1950年代に、米国の社会学者C.W.ミルズが政治・経済・軍事面で重要な決定を下す立場にある指導者層を「パワー・エリート」と名づけた。官僚主導の国日本では、東大法学部卒で国家公務員上級職試験に合格したキャリア官僚がその特権を有し、俗にエリートと呼ばれてきた。

 しかし彼らは受験競争の勝利者にすぎず、了見も視野もせまく、いわゆるジコチュー(自己中心主義者)の似非(えせ)エリートだ。理由は戦後の日本がエリート教育を全面否定してきたからだ。戦前・戦中のエリート教育では、有為な青年たちは全寮制の旧制高校に学び、天下国家を論じながら自己研鑽を重ね、富国強兵の日本の指導者たらんと志していた。戦後GHQ(連合軍総司令部)が全面否定、画一的悪平等教育がこれに取って代わった。

 しかし、どの時代にもエリートは不可欠なのだ。エリート不在の中で国家は衆愚政治に陥り、民主主義は迷走する。米英仏をはじめ、どの先進諸国もエリート養成に力を入れている。とくにフランスのENA(エナ)、ポリテクニークなどのグランドゼコール(大学校)は、「大学」とは別枠のエリート養成機関で、歴代大統領・首相はじめ各界指導者はほとんどがグランドゼコール卒業生だ。電力・原子力界も例外ではない。

 幼少時からの選抜も必要だ。私立小学校の増設、中高一貫教育、教養教育の見直し、いずれも有益と思われる。しかし今後の日本のエリート教育は、単に目先の国益よりも、開発・地球環境など、グローバル化時代の公益、つまり地球益、人類益探求の人材育成を目的とすべきだ。求められているのは狭い範囲の社会奉仕よりも地球奉仕の精神である。

 私は幼稚園・小学校からの英語教育には断固反対だが、エリートには幼少時から徹底的に仕込んだ方がよい。同時に漢文も古文も同時並行で教え、古典の名文を暗記させるのがいい。やがて教養として生きてくる。

【『電気新聞』2005年1月21日付「時評」ウェーブ欄】

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