2006年8月24日
レバノン国連軍に自衛隊派遣せよ
北朝鮮のミサイル発射騒動に比べれば日本人の関心は低調だったが、レバノン情勢がひとまず沈静化した。1カ月間の戦闘で、レバノン側に死者1000人以上、イスラエル側に120人を出したあと、イスラエルとイスラム教シーア派武装勢力「ヒズボラ」が国連安保理決議を受諾して停戦に応じた。
北朝鮮の場合は、カラのミサイルの実戦演習で、いずれもロシア沿岸州沖の日本海の公海上に“着水”しており、1人の犠牲者も出していない。そもそもミサイル発射実験は国際法上違法でも何でもない。日本で大ニュースになったのは、拉致問題も未解決のままで北朝鮮に対する不信と憎悪の感情が強く、示威行動にも脅威を覚えるからだろう。
ただしミサイル実験を国連安保理でいきなり「国際平和と安全に対する脅威」と認定させ、「制裁」決議案採択に持ち込もうとした日本の試みは無理があった。米国もそれを百も承知で日本を煽っていた形跡がある。最終的に採択された決議案はミサイル発射を非難はしているものの意外に穏やかで、妥当な文言になっている。これを「日本外交の大勝利」などと自画自賛したら恥さらしになる。
それに比べると「レバノン戦争」こそまさに「国際平和と安全に対する脅威」だった。イスラエル軍は北部で「ヒズボラ」、南部でパレスチナ武装勢力「ハマス」との戦闘をかかえ、苦戦を強いられた。イスラエルの背後には米国が、「ヒズボラ」の背後にはシリア、イランが控えていた。何よりもイスラエル軍の空爆で首都ベイルートはじめレバノン各地で多数の女性と子どもが犠牲になり、他方イスラエル北部の街でも「ヒズボラ」のロケット砲撃であまたの民間人が殺傷された。
8月11日に採択された安保理決議は、停戦監視とともに、イスラエル軍の段階的撤退と「ヒズボラ」の武装解除、さらに現地住民に対する人道支援を任務とし、1978年いらい展開しているUNIFIL(国連レバノン暫定軍)の増強を定めている。現在2000人規模の兵力を一挙に1万5000人に増やそうというのだ。
すでにイタリアが3000人、フランスが2000人の派兵に応じているほか、アジアからもオーストラリア、マレーシア、インドネシアが派遣の意思表示をしている。イスラエル寄りの米国が派兵しないのはむしろ歓迎すべきだ。国連部隊は中立性の維持が不可欠だからだ。
UNIFILは伝統的なPKO(国連平和維持活動)の一環であり、国連憲章第7章にもとづく武力行使は認められていない。この制約を危惧する声もあるが、双方が停戦に応じ、PKO介在を歓迎している以上、他のPKOと変わらない。この際、せめて後方支援でもいいから自衛隊を派遣してはどうか。
自衛隊は1993年のUNTAC(国連カンボジア暫定統治機構)派遣いらい経験を積み、現在も、隣りのゴラン高原に展開中のUNDOF(国連兵力引き離し軍)に45名の自衛官を駐在させている。
陸上自衛隊はイラク南部のサマーワ地区に600人を派遣、給水、補修、医療活動に従事、本年6月2年半の任期を終えて帰国したが、これはあくまでも「有志連合」による対米協力の一翼を担ったにすぎず、当初はフセイン政権打倒のために米国主導で国連安保理の頭ごしに派遣された国際部隊の後方支援だった。
日本が対北朝鮮政策で国際社会の広範な支持を確保するためには、中東和平のためにも人的貢献をする必要がある。中東は日本の原油供給源でもある。小泉首相の最近のイスラエル、ヨルダン訪問で合意された定期協議開催もそうした視点から行われたものだ。自衛隊のUNIFIL派遣を検討して欲しい。
【『電気新聞』2006年8月24日付「時評ウェーブ」欄】