2005年3月22日
「出口戦略」不在で混迷深まるイラク情勢
2005年3月20日、イラク開戦2周年を迎えました。
2年前のこの日、直前に急性心筋梗塞で倒れた私は、大阪の淀川キリスト教病院の集中治療室で、まんじりともせず、枕元の携帯ラジオをイヤホーンで聴きながら、米英軍のイラク侵攻に怒りを禁じえませんでした。理由は、両国の行動の国連無視、安保理無視、国連憲章違反、国際法違反にありました。
その後、一般病棟に移った私は、新聞社の取材に「フセイン政権を武力で倒すのは容易だろうが、ブッシュ大統領もブレア首相も事態収拾に手こずるだろう」とコメントしました。事態はその通りに推移しています。
あれから2年、暫定国民議会選挙は実施されたものの、新内閣の発足は遅れ、政治日程に狂いを生じています。最大の誤算は治安の悪化で、自爆テロは絶えず、米軍兵士の死者は開戦以来すでに1500人を超えています。
ブッシュ大統領は、「大量破壊兵器の摘発と廃棄」が侵攻の目的だった筈ですが、その種の兵器のかけらも見つからず、結局は石油利権擁護のために、その妨げとなるフセイン体制打倒が狙いだったことが露呈しました。するとブッシュ政権は「中東の民主化」に目的をすり替え、自由と民主主義を世界に広めることを再選後の2期目の政策目標に掲げました。
アラファト議長死亡後、パレスチナ和平交渉が再開されたり、サウジアラビア地方評議会で選挙が実施されたり、表面的には「自由と民主主義」が中東に根付きつつあるかに見えますが、武力を背景に欧米流の民主主義をイスラム社会に強要するのは不可能と思われます。
最新の世論調査(ワシントン・ポストとABC合同調査)でも、米国民の53%が「イラク戦争は戦う価値がなかった」と回答しています。44%が「中東に民主主義を広める可能性を高めた」と回答しているものの、同時に45%が「今後も変わらない」と回答しています。
現時点で、30カ国から17万5000人の「有志連合」の外国軍隊がイラクに駐留していますが、米英両国の他に軍隊を派遣してきた38カ国のうち10カ国がすでに撤退を完了しました。米英、韓国に次ぐ4番目の派遣国だったイタリアも今年9月から撤退開始予定です。オランダ、ポーランドも撤退中です。「有志連合」軍は、形式的には国連安保理決議にもとづく「多国籍軍」ですが、その後も新規派遣した国はなく、尻すぼみの状況です。
自衛隊は南部サマーワに600人が駐在していますが、憲法上の制約で交戦できないため、これまではオランダ軍、4月からはオーストラリア軍と英軍に治安維持を委ね、防御してもらっているのが実態で、ブッシュ大統領に対する小泉首相の「お付き合い」の派遣が続いています。サマーワが比較的治安がよく、これまで自衛隊員に犠牲者が出なかったのは、まさに僥倖です。
大野防衛庁長官は、「多国籍軍の任期切れの2005年12月が撤収の目途になる」と3月18日の記者会見で意見表明しました。それまでに新憲法に基づくイラク正統政府発足の予定になっています。まだ9カ月も先ですが、日本も「出口戦略」を真剣に考えなければなりません。「出口戦略」不在のブッシュ政権に付き合っていると、泥沼から抜け出せなくなります。
【HP2005年3月22日】