2009年5月02日
オバマのプラハ演説に弾みをつけるのが被爆国の責任 ≪NERIC NEWS≫
麻生内閣がメディアを動員して北朝鮮の“ミサイル迎撃”に血道をあげていた時、オバマ米大統領がプラハで「核兵器のない世界」を目指すと明言、「核兵器を使用した唯一の核保有国として、行動する道義的責任が米国にはある」と述べた。戦後の米国史上そこまで踏み込んだ大統領はいない。
これを受けて、中曽根弘文外相が「世界的核軍縮のための11の指標」と題して東京都内で講演し、米ロの一層の核弾頭削減を求めるかたわら、中国、インド、パキスタンなど米ロ以外の核保有国に対し、軍縮の透明性向上、ミサイルを含む核兵器開発の凍結を要求した。とくに中国が核戦力の近代化を続け、一切の情報を開示していない点に懸念を表明した。
来年5月のNPT(核不拡散条約)再検討会議に向けて、CTBT(包括的核実験禁止条約)の早期発効、兵器用核物質生産禁止(カットオフ)条約締結交渉開始、ミサイル規制強化、IAEA(国際原子力機関)の保障措置普遍化、核テロリズム防止などを訴えた中曽根提案の11項目はいずれも妥当ではあるが、オバマ演説とダブる部分が多く、総花的抽象論の域を出ていない。
日本がいぜんとして米国の“核の傘”に頼り、米国に対し核の先制不使用(No first use)を求めず、拡大抑止の重要性を認めている点に変わりはない。米国の“核の傘”の下で核廃絶を訴えている矛盾を日本政府は過小評価している。しかも北朝鮮の核・ミサイル開発に対抗して、与党幹部が日本の核武装を容認する発言を繰り返したり、敵基地先制攻撃を正当化する主張を打ち出したりしているのが現状である。
唯一の被爆国として日本がとるべき選択肢は、北朝鮮の“脅威”を大義名分にして軍備強化することではなく、「朝鮮半島非核化」を拡大して「北東アジア非核地帯」構想を具体化し、米国の“核の傘”を不要にする多国間安保の枠組みを提唱することだ。
中国の核軍縮も不可欠だが、中国の核弾頭はせいぜい200発程度であり、総数1万発に達する米ロとは比較にならない。それに中国は一貫して先制不使用を宣言している。まず世界の核弾頭の90%以上を保有している米ロの核削減が先決であり、オバマ政権誕生で核軍縮の機運の高まっている今こそ、日本は米国に注文をつけ、核廃絶に向けて米国を誘導する勇気をもつべきである。市民運動主体で進められている「核兵器使用禁止条約」締結も日本政府は積極的に提唱すべきだ。
中曽根外相の11項目にはその片鱗もうかがえなかったが、これらを訴えてこそ唯一の被爆国として日本がオバマ演説に弾みをつけ、国際社会の信頼と尊敬を勝ち得る道であると確信して止まない。
【『NERIC NEWS』2009年5月号】