2008年4月04日
市民版「北東アジア非核地帯」は実現しない
現在、地球の南半球はすべて非核化されている。核兵器が存在するのは北半球だけだ。米ロ英仏中の核保有国はすべて北半球に位置し、イスラエル、インド、パキスタンの非公認核保有国、イラン、北朝鮮という核開発疑惑国も北半球にある。そうしたなかで地域ごとに非核化(非核兵器化)しようという動きが着実に広がっている。最近の“成果”は「中央アジア非核地帯」の形成だ。
日本と朝鮮半島を包含する「北東アジア非核地帯」構想は古くて新しい。日本ではNPO法人「ピースデポ」の梅林宏道氏らが推進役だが、筆者も古い提唱者の一人で、最近も北京のパグウォッシュ会議地域セミナー(2006年1月)、ハノイの東アジア共同体設立学術会議(同9月)などで構想を紹介している。
梅林氏らは条約草案を起草し、5年ごとのNPT(核不拡散条約)運用検討会議(次回は2010年)の準備会議等で支持を訴えているが、日米韓の一部の市民団体が熱心なほか関心は低調で、盛り上がりを欠いている。遺憾ながら当面、実現の可能性はない。
順序からいって朝鮮半島非核化が先決である。実現の可否は米朝関係の推移しだいで、そこに市民運動が入り込む余地はない。
去る2月23日、東京都内で開催されたシンポジウム(ピースデポ主催・日本平和学会後援)で、梅林氏は「北朝鮮も関心を示している。ウランバートルで開催されたセミナーで大いに議論した」と参加者の質問に答えていたが、彼らは何の権限も責任もない学者であり、北朝鮮に“世論”は全く存在しない。すべてが上意下達だ。
北朝鮮はすべてが「将軍様」のツルの一声で決まる国柄であり、いまブッシュ政権相手に体制存亡を賭けて駆け引きの真最中だ。北朝鮮を支配している「主体思想」によれば、国家は人体にたとえられ、首領こそが頭脳で、党は血液、人民は細胞だとされている。核廃棄に応じるかどうかは首領(金正日総書記)の専管事項だ。
対人地雷廃絶条約締結は、NGO(非政府組織)のイニシアティブが功を奏し、市民運動が政府間交渉に結実した成功例だ。現在、議論されているクラスター爆弾禁止条約も同じプロセスを経ている。しかし核開発や核配備は国家安全保障の中核を占めているだけに、市民の声が国際条約に発展する可能性はまずない。しかも「北東アジア非核地帯」は北朝鮮の動向がすべのカギを握っている。
日本のメディアは「北朝鮮の核廃棄」と呼び、“北の核”だけを問題にするが、正確には「朝鮮半島非核化」であり、「非核化」は先代・金日成主席の遺訓だ。それによると、半島全域が核の脅威に曝されてはならないのだ。当然、在韓米軍だけでなく、在日米軍基地の核配備も排除される。
米朝合意が成立したら、次の段階として日米安保体制下の米国の”核の傘”が問題になる。日本は“核の傘”から脱却しなければならない。妥協案としては、米国はじめ周辺の核保有国(ロシアと中国)が北東アジア非核地帯の域内構成国(朝鮮半島、日本、モンゴル)に平等に消極的安全保障を与え、“核の傘”で覆うしかない。
そうなると、核保有国と非保有国の差別が恒久化されるというNPT体制の矛盾がそのまま地域の非核化に持ち込まれるという新しい難題が発生する。差別解消のためには、米中ロが核廃棄に応じ、平等の立場で非核地帯を構成するほかないが、地球規模で核軍縮が進まなければ、その時は来ないだろう。
前出のシンポジウムでは、自民・民主・公明・共産・社民の各党の若手・中堅の国会議員が出席して討論に参加したが、総じて不勉強で、的外れな発言が目立った。核問題が選挙で票にならず、国会の論戦でも滅多に登場しないためであろうが、それでは「軍縮議連」の名前が泣くというものだ。